3.村の少女と、穏やかな日常

王都から一ヶ月以上もの旅路を経て、アレンは最果ての穏やかな村、エテルナ村にたどり着いた。今後の生活の拠点を確保するため、彼はまず村長の家を訪ねた。


村長は、突然の来訪者であるアレンにいぶかしげな表情を見せる。しかし、彼が錬金術師だとわかかると、その態度は一変した。

にこやかに話しながらも、どこか含みのある目つきでアレンを見ていた。


「この村は、王都から遠く離れた地にあり、もともと住み着く人が少ないのです。あなたのような若者が来てくれるなんて、本当にありがたい」


アレンの身の上話を聞き、彼が優秀な錬金術師だと察した村長には、打算があった。

ただでさえ人が少ないこの村に定住してほしい。そして、あわよくば自分の娘を嫁にやり、村の未来を託したい。そんな思惑をアレンは感じ取っていたが、今はただ、安らぎが欲しかった。


「君がここで生活してくれるなら、村の空き家を貸そう。

そして、生活が安定するまで村の娘を手伝いにやろう。家事や食事の世話をしてくれるし、生活の面倒も見てくれる」


村長の提案を受け、アレンは村の空き家を借りることにした。小さな石造りの家は、簡素ながらも心地よい温かさがあった。木漏れ日を浴びた木製の家具が素朴な安らぎを醸し出す。窓の外には豊かな緑が広がり、遠くの森のざわめきや鳥の声が、宮廷では味わえなかったゆったりとした時間を伝えてくれる。


村長が言った“子”が、彼の娘であるリリィだった。明るく元気な少女で、普段は家事や畑仕事に勤しんでいる。翌日から、彼女はアレンの家に通いでやってくることになった。

リリィにとってアレンは「お金をもらって面倒を見てるおじさん」に過ぎず、特別な意識はなかった。


「はいはい、今日もお掃除から始めるね!」


リリィは明るい声でそう言うと、掃除や薪割り、簡単な食事の準備を手際よく進めていく。彼女はあくまで仕事として淡々と振る舞い、時折見せる無邪気な笑顔が、アレンの心を和ませた。アレンは少し距離を置いてその様子を見守りながら、自分の生活が少しずつ整っていくのを実感した。


宮廷での孤独や重圧から逃れ、静かでゆったりとした村での生活を、彼は初めて心の底から楽しむことができるようになっていた。リリィが自分を特別意識していないことも、宮廷時代の息苦しさと比べれば、むしろ心地よかった。


リリィの明るさや村の穏やかな空気が、アレンの心に確かな安らぎをもたらした。


こうして、村長の思惑とは裏腹に、エテルナ村での新しい生活がゆっくりと始まったのだった。

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