吾輩は、猫だった、はず。

@remon__

吾輩は猫、だったのに

吾輩は猫である、という小説を吾輩の主人はよく読んでいた。


楽しそうに、嬉しそうに。吾輩はそんな主人の傍で眠るも、その横顔を見上げるのも、まあ割と好きであった。


時たま構って欲しくて主人の手にパンチしてみたり、視界にワザと入り込んでみたり、主人はクスクス笑いながら吾輩の顎を撫で、頭を撫で、抱き上げてくれた



ーーー………ああ、なんて、幸せだったのだろうか。




「…目覚めましたわ…!」


バチリ。目を覚ますと、春の陽気だろうか。暖かい陽射しに目が眩んだ。何度か瞬きをすると、白と黒の見たこともない服に身を包んだ女が慌ただしく動いているではないか



「……何をしているのだ。お主は。」


「…………坊ちゃん、?」


「坊ちゃん……?誰だ、それは。」



驚いた顔で吾輩を見てくる女に、吾輩も驚く。坊ちゃん?それは誰だ。と言うよりも、今、吾輩の口から声が出なかったか?


そんなわけがない。吾輩は、猫である。近所でも美人で毛並みが良いと評判の、猫だ。さっさとチュールでもマタタビでも持って来んか。


いや違う。そもそもここはどこなのだ。



「坊ちゃんが急に流暢に喋っているわ……!」


「………………。」



ガクガクと震える女をジッと見つめる。いい、もう無視をしよう。まずはここがどこなのか把握せねば。よし、あの大きな窓に近付くために移動しようではないか。


そう思い、吾輩は猫のため、勢い良くジャンプしたと言うのに………ズドン!



「………………。」


「坊ちゃん……?!大丈夫ですか…!?」


「…………………………ぜだ…。」


「ぼ、坊ちゃん……?」


「何故、身体がこんなにも重いのだ……!」



加えて着地したはずなのに何故吾輩の視界は真横を向いている…!着地したら視界は縦であろう!まっすぐ見ているであろう!


くそぅ、何なのだ!吾輩の身体はどうなってしまったのだ!と今ここで吾輩は自分の身体を観察して、



「…………!」



固まったのである。


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