いい性格の女と寂しがり屋の百合

不言ちゃん(いわぬちゃん)

第1話

『先輩、また、負けてしまいましたね。』


 ゆっくりと私に近づいて見下ろす。

 

『だから今回も先輩にはわたしの言うことを聞く義務があります。』


 ふざけるな。そんな意を込めて彼女を睨む。

 

『なんでそんな顔でこっちを見るんですか?』

 

『先輩が悪いんです、毎日毎日物語を作ってる癖に、暇つぶしで勝負を仕掛けてきた私の喧嘩を買った所と、そんな私に負けてしまう才能のなさ。』


 淡々と彼女は告げる。もう私の中では絶望も怒りも何もなくなっていた。もう命でもなんでも好きにしたらいい、私には価値がない。


『やめてくださいよ、これ以上はもう我慢できませんよ?』


 瞳の奥で欲望を燃やしながら大事なものに触れるように私の体を撫でる。

 華奢な手が近づくそこは私の大事な場所で…いや、もうそんな場所は無くなったんだった。

 無意識に強張っていた体の力を抜き、完全に自分の体を彼女にあげる。


『大丈夫です、私だけはあなたを…』


 もう待ちきれないと言わんばかりに手が私の中に、そして心に空いた穴を埋めるかのように私を満たしていく。

 

 もっと、もっと…もっともっともっともっともっともっと

 

------------------


「ふぅ…」

 

 まただ、最近はいつもこうだ。

 毎回始まりは違うけれどたどり着く先は同じ、欲求不満なのだろうか…


 外を見るとすっかりオレンジ色に世界は染まっていて部活を終えた学生たちの声が聞こえる。


「私もそろそろ帰ろう、これは…このままでいいか」


 ここに来るようになって二年目である演劇部の部室、今はもう自分しか来ていなくて誰も来ることのない場所。

 入部した最初こそ脚本なんかやっていたが、人がいないので最近は昔から好きだった小説を書いている。


 片付けてから帰ろうかと思ったが、誰も来ないしこのままで良いだろう。鍵も、いいか。




 下駄箱で靴を出しながら考える、なぜ同性愛の物語しか書けなくなってしまったのだろうか。

 なにかきっかけがあったのだろうか、友人であるあの子のボディタッチが少し激しいせい?いや、さすがにきっかけとしては弱すぎる。

 異性に何か思うようなことがあった?これも違う、なぜなら今まで生きてきたがあまり関わる事がなかったからだ。


 私は平凡な人生を送っているなと思う。

 家族はみんな仲がいいいし、成績も普通、人間関係も問題なしでとても平凡、そしてとても幸せな人生を送ってきたつもりだ。


 だからなのかもしれない、私が物語を書きだしたのは。

 物語の中では山あり谷ありの恋愛だって体験できるし、運命としか言いようのない奇跡だってできる、刺激を得るには最適のものだった。


 いや、そうだとしても私がどろどろの恋愛、しかも同性のものを書く理由にはならない。

 無論私は異性を好きになるはずの人間だと思うしこれから変わることもないと思う。




 すっかり私の足に馴染んできたローファーに足を入れ、家に帰ろうとする。


「…あの!」


 後ろから声がかかる。


「私、ですか?」


 知らない男子生徒、先程の上ずった声、緊張して固まった体...ああ、またか。


「そうです!オレ、貴方のことが少し前から気になってて...好きです!」


 嘘みたいに薄い告白。

 私の性格も何も知らないのに好き?


「すいません。貴方の事全く知らないのですが、話したことはありましたか?」


「関わった事は、1回もないんですけど...廊下で見かけたりとかそういうちょっとした瞬間に見かけると素敵だなって...」


「なるほど...ごめんなさい。私はまだ恋とかそういうのが分かんないみたいだから。」


 私はもう話すことはない無いという気持ちを込めて校門へ向かう。

 彼の声が聞こえるような気もするが無視をし、こんなに酷い性格なんだと気づけばいい。どうせまたすぐにでも好きな人ができるだろうから。




「はぁ...」


 告白はこれで何回目だろうか、最初はどう断ればいいかすごく焦っていたと思う。最近になっては早く終わってくれなんて思ってしまう自分がいる。


 みんな告白の仕方こそ違うけれど、私の体、見た目だけで好きになっていることは同じだった。


気持ち悪い...


「えっ...?」


 誰かが耳元で囁いたと思い振り返る、誰も、居ない。

 今の発言は私の...?

 私は私自身の事が分からないみたいだった。

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