暴食魔王 with the スワンプマン 〜魔力なしの俺がひたすら魔術を研究した結果、気付けば厄災級のラスボスになっていました。過保護な令嬢たちに溺愛されながらも自由に生きます。〜
047 - エピローグと言えなくもない爛れた日常①
047 - エピローグと言えなくもない爛れた日常①
ひとまずのエピローグといこう。
結論から言えば、うちには同居人が──否、メイドがひとり増えた。
「おはようございます、
「……おはよう、オズ」
早朝、眠たい目で一階に降りると、リビングで彼女が迎えてくれる。
黒いゴシック調のドレス、目元にレースの布を巻き付けたその女性はオズという。俺が所有する、ただひとりの奴隷である。
つい先ほど、ザリア、ノーチェ、エギーユが半裸で絡み合った肉布団から抜け出してきたばかりの身としては、彼女の一歩引いた距離感は非常にありがたい。
「お茶を淹れましょうか」
そう言って、オズはすでに沸かしてあったらしいお湯とティーポットを手に取る。
うちでは相変わらず、当たり前のように高価な茶葉が常飲されている。レヴィ姉妹の趣味……というか生活水準だ。
これまで朝のお茶を淹れるのはエギーユの仕事だったが、俺がオズを買い戻してからは、彼女がその役割を代わった。
そう、俺はオズを買い戻した。
必要な手続きはすべてラークシィ老人が済ませてくれていたようで、俺がやったことといえば必要な金を支払っただけ。
なお、さすがに魔眼使いというレアな奴隷ということで、オズには相当な高値がついた。それでも後悔はなかった。
氷の竜、剣の魔王との戦いで得た莫大な報酬金は、今回のことでほぼすべて持っていかれる形になってしまったが──
「なんで? 別にいいじゃん、ウチらが金持ってんだから」
「……ハロは私たちが一生養うよ?」
──などと当たり前のように言うザリアとノーチェの言葉をきっかけに、俺は今、四人の女性にあらゆる生活の面倒を見てもらっているのである。
「さあ旦那様、ソファへ」
「ああ」
「肩の調子は問題ありませんか?」
「だ、大丈夫」
義手となる予定の人形腕は、今はまだ長さや重さを調整中。だから俺の右肩には相変わらず腕がない。
未だバランス感覚に慣れない俺の腰を抱くようにして、ソファまでの歩行を支えてくれるオズ。
「今朝は少し肌寒いですね。どうぞ
さて。
一歩引いた距離感は非常にありがたい──などと先ほど述べたが、彼女も彼女で距離感が狂っていないわけではない。あくまで "ザリアたちの時間にはそちらに譲る" というだけだ。
どうぞ私をお使いください──
などと言って隣に座った彼女は、そのまま俺を膝の上に抱き上げ、ぎゅう、とその力を強めた。
「……っ!」
やわらかな胸に、顔を突っ込む。
ぶにゅ、むにゅんっ、たぷんっ。ぽかぽかと温かい女の肌が吸い付く。
どいつもこいつも、こうすれば俺が途端に抵抗しなくなると、情報を共有し合っているのだ。
「紅茶を蒸らし終えるまで、もうしばらくかかります。私を使いながら、ごゆるりとお待ちください」
「お、オズ……あまり、自分を消費するようなことは……」
「……なんとまあ。旦那様、あなた様は本当にお優しい」
けれどお気になさらず、と言ってオズは俺の髪をぐりぐりと撫でる。
そのたびに鼻元が胸の深い谷間にうずまり、びくびくと跳ね上がりそうになる腰さえ、見透かすようにオズは手で抑え込む。
反った腰を落ち着かせるようにさすりながら、オズは耳元でぽそぽそと言う。
「大変にご立派です。力を持ちながらも、決して驕らず、私のような奴隷にも心優しい……けれど気張ってばかりでは疲れてしまうでしょう。せめてこのような時間だけでも、この私に甘えてください」
「……き、君は……あの修道院でも、きっといい姉だったのだろうな」
「いいえ、そのようなことは。私はこれでも、鬼のように規律に厳しい長女として、院の子供たちから恐れられていたのですよ」
このように甘いのは、旦那様、あなた様にだけです。
そう囁くオズの、本当に甘ったるく媚びたような声色に……ぞくぞくとする下腹部の疼きは余計に悪化する一方だった。
ご立派です。
格好いいです。
本当に愛おしい。
心よりお慕い申し上げております。
愛の告白のような甘ったるい言葉をいくつも囁きながら、俺の身体がびくりと震えたのを、オズは小さく微笑みながら肯定した。
「硬くなってしまわれましたか」
「……っ」
「昨夜もお盛んだったようですね。旦那様の可愛らしいお声が、ずうっと聞こえておりました。一体幾度果てたのか……それでも、一晩でこうも回復するものなのですね」
オズは耳元に小さくキスをしながら、言う。
「……処理、致しましょうか?」
……まずい、逆らえない。
やわらかな白肌の甘さと匂い、腰をじっくりと撫でてこちらを昂らせようとするその小賢しい仕草に、脳の処理能力が融けていく。
俺がこくりと頷きそうになってしまったそのとき──
「あーっ! オズとハロがいちゃついてる!」
「……ハロ、朝から赤ちゃんになっちゃったの?」
紅茶の香りを嗅ぎつけ、半裸のまま階段を降りてきた姉妹たちに、俺たちは見つかった。
「……おや、バレてしまいました」
小さく舌を出して、いたずらっぽく言うオズ。けれど俺を膝の上からは下ろしてくれない。
俺も俺ですっかり骨抜きであり、この心地いい空間から自力で抜け出すことはできなくなっていた。
助けを求めるようにふたりを見れば──
「まったく、お盛んだな〜……んじゃ、ベッド行こっか」
「……オズ、そのままハロを運んでくれる?」
「承りました」
……え? ベッドに行くの?
俺はオズによって横抱きにされる。テーブルの上のティーポットは、人数分のカップと共にザリアたちが持っていくつもりらしい。
こいつら、巣に連れ込むつもりだ。
「エギーユ様はまだ眠っておいでですか?」
「ううん、起きてるよ。今、シーツ変えてくれてるとこ」
「……起きたらべとべとのかぴかぴだったから」
「左様ですか」
そんな話題で談笑しないでくれません?
もはや恥じらいも何もない爛れた空間に、俺は呆れながら……それでも彼女たちに逆らうことはできず、せっかく脱出した肉布団へと再び連れ戻されることになったのだった。
……待った、おかしい。全くエピローグとして成立していない。これではただの爛れたヤリ部屋日記だ。
勇者との戦いを制した男の後日談として、あまりに情けない。
もう一節だけ、エピローグらしい会話を切り抜こう。
「引っ越しがしたーいっ!」
きっかけはある日、ザリアの一声であった。
「……引っ越し? なんでだ?」
「だってさあ。ひとまず勇者には狙われなくなったとはいえ、各勢力に居場所を特定されたままなのって、何か気分悪くない?」
ああ、まあ。
ちょっと分かるけども。
ギルド、王国、魔術協会。
一度はすべてを敵に回そうとしちゃったものなあ。オズを守るためとはいえ、思えばあまりにリスキーな立ち回りであった。
ほとぼりが冷めるまで、どこか遠くで息を潜めるというのは正しい振る舞いなのかもしれない。
「そういうわけなので、ウチは引っ越しを提案します! できれば遠くの街とかに!」
いいんじゃないかな。
基本的に、残る四人の中でザリアの提案を拒否する人間はいない。というより、こうした大きな計画を動かそうとする人間がザリアしかいないとも言える。
さて、俺たちは引っ越しに向けて動き出す。
*
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