第7話
仰向けになった一色さんに顔を近付け、今度こそ唇を重ねキスをした。
……柔らかい感触。
「もっと。足りないな。」
触れただけで離すと一色さんに言われ、また唇を重ねて隙間から舌を入れた。
……熱い。
頭がクラクラする。
口内の粘膜を擦って絡めて。
唇を離した。
銀色の糸を引き切れて、一色さんの唇は艶やかに濡れてた。
色気に当てられ欲情した。
私は寝巻きのワンピースを脱いだ。
ブラジャーを付けてないので、ショーツだけになった。
布団に押し倒されて、首筋に顔を埋められた。
肌を吸われながら、大きな手で胸を愛撫される。
一色さんの手の中で胸が形を変えて、硬く勃ち上がる乳首を摘まれた。
「あっ。」
乳首を舌で転がされて、甘く歯を立てられた。
……気持ち良い。
感じて愛液が溢れ、ショーツのクロッチ部分を濡らした。
下を触られる前から私の体は、一色さんのものを受け入れる準備が出来ていた。
早く欲しいと、期待して。
「はぁ、あッ。んぅ。」
腰の動きに合わせ、ひっきりなしに声が漏れる。
「……愛美。」
低い声で優しく、名前を呼ばれて幸せを感じた。
幸せ過ぎて怖いくらい。
……この幸せを失ったら。
きっと、もう生きていけない。
「いらっしゃい!おっ、美人なお二人さんのご来店だ。」
暖簾をくぐり店内に入ると、店主の元気な声で出迎えられた。
カウンターの中で料理を作ってた。
「褒めてもなんも出ないから。」
「こんばんは。」
千花さんは笑って、私は会釈した。
仕事終わり、千花さんから誘われ居酒屋さんに来た。
千花さんの行きつけで、地元の食材を使った料理を食べられるお店だ。
何度か来ていた。
店内は地元客と観光客で賑やか。
千花さんとカウンター席に座った。
「とりあえず瓶ビールと、冷やしトマト。」
おしぼりで手を拭きながら、千花さんが注文した。
「はいよ。ビールはそこから取ってくれ。」
席を立ち千花さんは、店内に置かれてる冷蔵庫から瓶ビールを取り戻って来た。
カウンターにはグラスと栓抜きが置かれた。
「愛美ちゃんは?」
「今日のおすすめはなんですか?」
「今日はいい鯵が入って刺身の盛り合わせと、おっきい鮑も入ったから、焼き物もおすすめだな。」
おすすめされた、刺身の盛り合わせと焼き物を注文して、追加で千花さんが玉子焼き、イカの一夜干し、キスの天ぷら、カニグラタン、穴子のお寿司を。
「お疲れ。」
「お疲れ様です。」
ビールで乾杯した。
一杯だけ付き合って、後は烏龍茶を飲んだ。
どの料理も美味しかった。
会計を済ませて居酒屋さんを出て、千花さんと別れた。
夜風を浴びて、歩いて帰る。
自転車はアパートに置いて来た。
波音が聞こえ、夜の海は少し怖い。
全てを飲み込んでしまいそうで。
夜空には星が輝いてた。
……綺麗だなぁ。
一色さんはもう寝てるかな。
朝、早いから。
アパートに着いて、階段を上がり鍵を開けた。
起こさないように、静かに入り鍵を閉めた。
玄関で靴を脱いで部屋に上がった。
鍵と荷物を置いて、シャワーは朝にしようとシャツとズボンと靴下を脱いだ。
洗濯カゴに突っ込んで、ブラジャーを外して専用のネットに入れた。
服にはそんなにこだわりは無いが、下着だけは良いものを身に付けてた。
襖を開けて、寝室に入った。
箪笥の引き出しからTシャツを取り被って、下は面倒で履かずにそのまま布団に寝転がった。
……眠い。
欠伸を漏らして、目を閉じた。
一色さんはやっぱり寝てた。
おやすみなさいと、心の中で呟いた。
私は狭い部屋に立ってた。
嫌なのに、足が動き進む。
男の背中が見えた。
痩せ細い女の子の上に馬乗りになり、首を締めていた。
その腕には、タトゥーが入れられてた。
涙に濡れ絶望に染まる、女の子と目が合った。
……助けて。
ハッと目が覚めた。
目を見開き、涙が溢れ出た。
自分が何処にいるのか、一瞬分からなかったが、隣を見ると一色さんの姿があった。
瞼を閉じて眠ってる。
胸を手で抑えて、乱れる呼吸を整えた。
気持ち悪いくらい、寝汗がびっしょりだった。
あの頃の自分に、見張られてるのか……。
私を置いて幸せになるなんて、許さないと。
母親の恋人は、私が包丁で刺してもまだ息があった。
子供の力で弱いから、トドメを刺せず血を流しながら喚いてた。
“クソガキ、殺してやる!”
怖くなり、私は交番に自首した。
母親の恋人の事も、自分のしでかした事も。
自分の身を守る為とは言え、人を刺して殺そうとした。
母は仕事中で家にいなかった。
警察に保護され、捜査が始まった。
そこからの記憶は曖昧だった。
頭に靄が掛かり、何を言われても朧げで。
拒絶して、自己防衛が働いた。
布団から起き上がり、シャワーを浴びに寝室を出た。
蛇口を捻り冷水を頭からかぶった。
鏡越しに見える背中は、今日も醜かった。
お風呂場の壁を殴った。
体を燃やして、消したい衝動に駆られた。
綺麗だなんてとても言えやしなかった。
タイルにしゃがみ込み、声を押し殺して泣いた。
「何してるの……?」
休みの日、近所を散歩してると海音くんの姿を見つけ、小さな背中に声を掛けた。
地面を掘って何か埋めていた。
「チョウのお墓、作ってる。」
島には綺麗な蝶がいて、昆虫のコレクターから人気があった。
虫カゴに入れて飼ってた、蝶が死んでしまったらしい。
海音くんと海まで歩いた。
砂浜に枝で絵を描いて、絵しりとりをしてると、ツアーガイドの水樹さんが、観光客を引き連れてやって来た。
ツアーガイド中で案内してた。
「仲良くデートかい?」
観光客から離れ水樹さんがこっちに来ると、海音くんは私の影に隠れようとした。
「年下の可愛い男の子とデート中なので、邪魔しないでいただけます?」
「そりゃ悪かったな。楽しめよ、じゃあな。」
水樹さんは笑みを漏らし、手を振ると戻って行った。
「もう行ったよ。」
「……うん。」
さっきまでは楽しそうだったのに、海音くんの気分は沈んでしまった。
……何か、楽しい話題。
あっ。
「来週だっけ?夏祭りがあるよね。」
ポスターが貼り出されていて、千花さんは運営の実行委員会に入ってるから忙しくしていた。
「お母さんと行くの?」
「仕事で忙しいから、……行けないって。」
夏休みは観光客が増えて、かもめ荘は繁忙期。
お土産さんもそうだが、夕方の五時にはお店を閉めた。
「私と行く?」
「え?」
俯いてた顔を上げ、海音くんと目が合う。
長い睫毛が瞬いだ。
海音くんは、綺麗な顔をしてる。
「行く!絶対、行きたい!」
「じゃあ、今からお母さんに許可、もらいに行こっか。」
砂浜から立ち上がると、海音くんは走り出した。
「愛美ちゃん、早くっ!」
先に行く海音くんに急かされる。
「転ばないでよ。」
……良かった。
元気が出たみたいで。
かもめ荘に到着して、渚さんから夏祭りに一緒に行って良いと許可が出た。
一色さんも夏祭りの日は、仕事のシフトが入っていて行けなかった。
海音くんと楽しもう。
奥まで突き刺さり、子宮が壊れそう。
卑猥な水音を響かせる。
「あっ、ん。あァッ!」
淫らに喘いで、また絶頂に達した。
腰を激しく動かされる。
「…気持ち、いっ。」
背中に手を回して、一色さんにしがみ付いた。
一色さんの熱い吐息が、首筋を掠めてそれさえ感じる。
「あッ。」
胸と胸が重なり合い、敏感に勃ち上がる乳首が擦れた。
一色さんの体の重みが心地良い。
「一色さ、ん。」
私が縋る様に呼ぶと、最後の仕上げだと腰を引くと一層奥まで打ちつけられた。
膣内が収縮して強く締め付け、一色さんは絶頂に達した。
子種が中に出された。
射精する時に眉を顰め、微かに漏れる声は壮絶な色気を孕んでいた。
夏祭り当日。
仕事終わり、海音くんを迎えに行った。
渚さんからお小遣いをもらったみたいで、首からお財布を下げていた。
会場は浴衣を着た女の子達、地元民や観光客で賑わい、人が多く混雑してるので、迷子にならない為に海音くんと手を繋いだ。
「下手っぴだね。」
「海音くんは、上手だね。」
私はすぐにポイが破れてしまった。
金魚すくいの屋台で、海音くんは金魚を二匹取った。
赤と黒で可愛い。
「焼き立てで熱いから、火傷しない様にね。」
「うん。」
海音くんはフーフー冷ましてから、たこ焼きを食べた。
「美味しい?」
人混みから離れた神社のベンチに腰掛け、金魚の入った袋を持ってあげて聞いた。
「美味しい!中、とろとろでタコ、大っきいの入ってる。愛美ちゃんも食べる?」
「良いの?ありがとう。」
お言葉に甘えて、あ~んしてもらい一つ食べた。
フーフーもしてもらった。
「本当だ、美味しいね。」
唇に付いたソースを舐めた。
夏の良い思い出になった。
持ち帰った金魚は水槽に入れて、海音くんの新しいペットになった。
餌を与えてお世話してると。
千花さんと仕事終わりの水樹さんと、合流して居酒屋さんで乾杯した。
夏祭りの後片付けが済み一息着いた。
「海音が楽しそうで良かった。」
千花さんは実行委員の一人で、当日に会場で顔を合わせた。
渚さんと千花さんはこの島の出身で、歳は少し離れてるが幼馴染みたいな関係らしい。
千花さんが渚さんを、妹みたいに可愛がってた。
渚さんは千花さんを、姉みたいに慕っていた。
「こっちに来てから、元気に明るくなったって。渚が喜んでたよ。愛美ちゃんのおかげだね。今日は好きなのなんでも頼んじゃって。」
「おっ、太っ腹だね。流石、千花ちゃん。」
カウンターの中から店主が煽てる。
「俺もいいっすか?」
メニューを見ながら、水樹さんが聞いた。
「あんたはダメ。海音に気安く話し掛けんなよ。」
「辛辣過ぎません?」
「自分の分は自分で払いな。」
私は千花さんからご馳走になり、水樹さんは自分で支払った。
居酒屋さんからスナックに移動して、深夜まで飲んで楽しんだ。
常連の地元客と歌謡曲をデュエットしたり、観光客と一緒に飲んで話が弾んだ。
タクシーに乗り込み、アパートの前で降りた。
「……水。」
部屋に上がり、喉が渇き蛇口を捻った。
水道水をコップに注ぎ、一気に飲み干した。
流し台にコップを置き、寝室の襖を開けた。鍵とバッグを畳に放り投げて、布団で横になる一色さんに突撃した。
「ただいま帰りましたっ。」
体に抱き付いた。
「おかえり、……酒臭いな。飲み過ぎだ。」
起きてたようで、返事があった。
「そんなに飲んでませんって。」
「酔ってるだろ。」
「酔ってません。まだ飲めます。」
「酔っ払いはそう言うんだ。」
ダル絡みする私に鬱陶しそう。
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