ツリーLOVE
うさうさ
第1話
私は木に恋している。
変かな?変だって思うよね。
一般的な感覚からしたら変って思われてしまうんだろう。
でも今どき物と結婚する人がいるんだから、木と恋愛しても別にいいじゃない?
木だって生きてる訳だし。呼吸してるんだし。
禁止されてるわけじゃない。
法律で咎められるわけじゃない。
だから……。
私の想い人は私の住む団地から少し離れた林の中にいる。
とても背が大きくて、高くて、そして、葉っぱの色がエメラルドグリーンに見える素敵な木だ。
私は内気な子だったから、小さい頃は遊び相手もいなくて、不思議とこの存在感がある木に吸い寄せられるように近づいていった。
公園の中でも、樹齢が凄い経過しているようなひときわ大きな木だった。
傍に行くと、定められていたかのように手が樹皮へと伸びた。
手で触れると落ち着いた。
耳を樹皮にあてて目をつぶって、そうして、風と木の葉の揺れる時間をただ感じる幼少時代。
その時間がなによりも落ち着いた時間だった。
どんなことをしているよりも。
そして、なんとなく悩みなんかも話すようになった。
「あのね、お母さん、いつも私のこと無視するんだよ。綺麗な格好してるけど、いつも誰かと電話してるの。お父さんは帰ってこなくて」
「私、いつもコンビニおにぎりなんだぁ、うん、でもおにぎり好きだよ、シーチキンが好きなの。でもね…幼稚園でみんな色んなご飯食べてて、焼肉とかカレーとか食べてみたいな」
そんな事を木を見上げながら話す。
木はゆらゆらと葉っぱを揺らして、そうなんだね、うん、気持ち分かるよって肯定してくれてるみたいで、私はその葉っぱの揺れに勇気を貰って、元気を貰って、そして、自信ももらっているように感じていた。
幼稚園では1人だった。
私は本を読みながら木に想いをはせた。
今木の傍に行って1日話しかけられたらどんなにいいだろう。
今微笑みかけられたら。木に風気持ちいいねとか、鳥さんの歌一緒に聞こうとか……。
そんな事をたわいなく話せたら。
ここで1人で本を読んでいる時間よりもっと満たされるのに。
孤独な私の心はいつもいつも木の元へと向かっていた。
私はそのまま成長して、小学校に上がってからも毎日家に帰らずに木の傍に行っては、樹皮に耳を当てて話しかけつづけた。
完全に怪しい子だと思うけど、林の中の奥まった場所にあったその木の場所はあまり他の人に見つかることはなかった。
木と話すのは楽しくて、穏やかな時間すぎて……。
話しかけると、木の葉を揺らしてくれるんだ。私の周りの空気も柔らかくなったような気がするんだ。
悲しい時や辛い時は慰めるようにさわさわっていつもと違う動きをするんだ。
……私にはわかるの。
そして……。
私はいつの間にか木に恋してるって気づいた。
こんなに肯定してくれる人(木)いない。
何でも優しい木の葉の揺れで包み込んでくれる。
さやさや、それでいてどっしりとした温もり。
柔らかい空気。
その木がいるからその場が優しい空間になっている気がした。
「ねぇ、私、あなたが好きになっちゃったかも。そーだよね、びっくりするよね、ごめん⋯でも、今日学校で友達が好きな人のこと話してて、思ったんだ。私他の男子には全然興味わかない。あなたが真っ先に思いついたの」
何となくいつもと違う木の葉の動きだった。
乱れているような、一定でない動き。
この動きを見るのは初めてだった。
「ごめんね、混乱させちゃったよね、でも、私が好きでいるのは自由でしょ?私はあなたが好きなんだもん。好きでいさせて欲しいな」
そう言って木を抱きしめて見上げると木の葉は分かったよ、っていう感じで動きが規則的に、いつもの優しい感じに戻った。
私はその木の葉の動きを見てホッとした。
「ありがと、そう言ってくれると思ってた。大好き」
そう言ってギュッと木を抱きしめると胸が何だかキュンとした。
それからも、毎日欠かさずに木の元に通いつめた。
家でいる時間が減っていくと共に、木と一緒にいる時間が増えて行った。
母親は、小学校中学年頃になると、家に毎日違う知らない男性を連れ込んでいた。
段々その頻度は酷くなっていくように感じた。
父親はいつからか全然家に帰ってこなくなった。
家はもはや安心出来る場所じゃなくなった。
母親は、何もしてくれない。
学校の費用も祖母に連絡が行って、祖母が払ってくれている。
私の食費なんかも祖母が家に来て渡してくれる。
だから、何とか生活できてた。
でも、母親はいつもブランド物の服に身を包んで、贅沢な宅配サービスを頼んで男と楽しげに酒盛りをしていた。
そんな家、帰りたくなかった。
そんなことを木に話しながら上を向くと、優しく木の葉が揺れていたわってくれてるみたいに感じた。
できうる限り一生懸命元気づけてくれてるみたいで、私はただそこにいたかった。
木のそばにいたかった。
木以上に私が安心出来る居場所はなかったの。
どこにもなかったの。
だからずっとその後の状況も良くなかったけど、私は木のそばに行って、癒しの空気を感じながら、家の辛い気持ちを吐き出していたんだ。
他の友達に言おうなんて思わなかった。
そんな話しても暗い雰囲気になるだけだし、それに私を分かっている木がいてくれさえすれば、それで良かったから。
私にとっての全ては木だけだったんだ。
木がそこにいるから、そう思えれば生きられた。
頑張れたの。
そんな風に木と私の穏やかな日々が過ぎていった。
そして、私が中学3年の時、その事件は起きた。
母親の連れてきた男が私を乱暴しようとしたんだ。
ベッドに押し倒されたけど、思い切り足でキックして男が怯んだスキに、ドアを開けて家を飛び出した。
パニックになって、心臓の音がドクドクうるさくて飛び出そうだった。
そのまま泣きながら木の傍に走って行った。
木を見たとたん、安心して、全ての感情が込み上げてきた。
今までの寂しさとか、やるせなさとか、悔しさとか、恐怖とか、悲しさとか⋯全てが。
涙がボロボロと零れた。
止まらなかった。止めたくても止まらなくて……。
思い切り泣いて、何も言えなくて、ただ木の下で泣きじゃくってた。
木はどうだったんだろう。
自分の乱れた気持ちにしか意識が行ってなかった。
それでも、木のそばにいられるだけで慰められて、居場所に帰ってきたって思ったの。
だから全ての想いをぶつけて泣けたんだ。
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