「圧縮」スキルで異世界崩壊 ~なんかみんなの様子がおかしいけど楽しく異世界ファンタジーやるね?~

たばこっち

プロローグ【悲報】女神ワイ、転生者選びを完全に失敗し死亡

 

「下界の愚民共を眺めながら飲むワインは最高ねぇ」


 我が名はリリス。紛うことなき天才女神よ。

 長期のバカンスから帰ってきて久しぶりの天界出勤。

 玉座に腰掛け、土産のワイン片手に下界のあらゆる事象を映す大水晶を眺めてみるけれど、休暇前と全く変わり映えしない光景を映している。


 愚民共はせこせこと田畑を耕していたりだとか、魔物から逃げ惑っていたりだとか、愚鈍で愚劣でザ・愚民といった様子でしょうもない暮らしを続けていた。

 優雅さの欠片もないわ。


「私を見習って少しはスマートに生きられないのかしらねぇ? まあ私がそうさせていないんだけれども! うわっはっはっはっは!!!」


 あらいけない。笑い過ぎてワインをこぼしちゃった。

 美しく聡明な女神たる私に相応しい純白のドレスが台無しだわ。

 でも大丈夫。手を叩くだけで私の下僕である天使ちゃん達が着替えを用意してくれる。


「えっ、なんでスウェットなのかしら? しかもねずみ色! もしかしてあなた怠惰ですか?」

「いえ怠惰ではなく……本日お召し物を汚されたのがこれで七回目ですので、もうドレスはございません」

「ドレスがなくてもこの私に相応しい服装があるでしょうよ!? 他に何があるのか言いなさい?」

「えーと……背中に『漢』と書かれた法被と、あとふんどしです」

「……」     

 

 元はしがない日本のOLだった私。

 この世界の管理を任されてからはや五百年になる。

 愚民共が魔物に程よく蹂躙され、勇者の力で程よく押し返す。でも大局はいつだって魔物有利で、愚民共は女神に助けを求め続ける――私の類稀なる運営力により、世界は信仰心をじゃぶじゃぶ稼いでくれる絶妙なバランスを保っている。

 

 この調子なら、私が更なる上位神となる日は近いでしょうねぇ。

 人生の成功者……いや神生の成功者。

 成功という言葉は私だけの為にあると言っても過言ではない。

 

「笑いが止まらないわぁ!! あーっはっはっは!!!」

「リリス様。服を着てください」

「うるっさいわねぇ! ドレスを早く洗ってきなさいな!」


 超絶美貌のこの私にスウェットなんて似合わない。

 もはや、ドレスでさえも私の美しさを損ねてしまいかねないのではと最近は思ってしまうわ。

 それほどの圧倒的美。世界は私にどれだけ与えれば気が済むというのかしら?


「……ん?」

 少し目を離した隙に、大水晶に映し出される場面が変わっていた。世界運営に影響を及ぼしうるトラブルが起こればその場面を映すように設定しているのだ。


 でも何この光景?

 何やら三十人前後の、腰の曲がった同じような見た目の老人共が森を散歩して……。


 そこで私は血相を変えた。


「否――ッ!断じて否ッ! 表情が穏やか過ぎるがあまり散歩に見えているけれども、これは間違いなく行軍ッ! 時速二百キロくらい出てない!? しかも道行く魔物が悉く蹴散らされているわ!? このジジババ一行は何者なの!?」

 かぶりつくように水晶を覗きながら怒鳴りを上げると、バカンス中に下界監視を任せていた天使がニコニコと、まるで事態の緊急性を分かっていない様子で答えた。

「あれはユーシャ村の皆さんです。お花見に行かれるそうですよ?」

「お花見って……今下界の季節は?」

「冬です」

「ボケちゃってんじゃないのよ!?」

  

 異常な移動速度、魔物を歯牙にもかけない戦闘力を兼ね備えたボケ老人が三十人?

 そんなのいつの間に湧いたのよ!? 嫌な予感しかしないのだけれど!?


「コイツらはどこに向かっているの!?」

「蛇行や後退をかなり繰り返しているのでなんとも言えませんが、現在の位置と進行方向から推測しますと――魔王城かと」

「魔王城!? まさかコイツら魔王を討伐する気!?」

「いや、違うんじゃないですか? だってお花見って言ってましたよ?」

「魔王城の近くなんて荒廃しまくったTHE・魔物住んでますって感じの場所なんだから花なんて咲くわけないでしょ!?」  

 

 ただ最強老人共が集団迷子になっているだけ……?

 いや待って。何かひっかかる。

 ユーシャ村というと、確か……十年前に転生者の、あれ何だったかしら? ナントカっていうパッとしない女子大学生を送り込んだ場所だった気が……。


 私は急いで大水晶を操作し、かつて適当に選んだ転生者を探す。

 すると、転生者――気怠そうなジト目が悪印象の金髪少女はどこかの街にいるようだが、

 

「えっなにこれは(ドン引き)」

 アホヅラのひよこみたいな謎の生物をたくさん乗せた台車を押していた。

 

「転生者は……これ何をしているの?」

 ひよこの行商でもしているのかしら?

 でもそんなことある?だって転生者よ?

 いくら適当に選んだとはいっても、転生者なんかどうせみんなか弱い現地人を守ろう、とか言っていい感じに魔物退治に明け暮れるはずよ?

 ひよこ売りなんて一昔前の祭りの出店じゃないんだから。

 

「チンピラ狩りです」


 耳を疑った。

「えっ、どういうこと?」

 ヒヨコで? チンピラを?

 そんな強いヒヨコいたかしら?

 

「あと強い魔法使いとヒーラーも欲しいと言っていました」

「……んー??」

 ダメだ。言っていることが全く分からない。

 なんのスキルを渡したかも思い出せないけれど、なんとなくジジババ進軍の原因はアイツにある気がする。

 これはもう、直接見に行くしかなさそうね……。


「出かけるわッ!早急に準備なさい! 水筒とお弁当、それからハンケチーフ!緑のヤツね! 」     

  

 この女神リリス様が、直々に身の程ってものを分からせてやるわ!

          

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る