WIZARD of JUSTICE 02―犯罪者の息子から正義の魔法使いの道へ―
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MBU結成編
第1章:動く時代、新たに始まる時代の巻
001:そして、時代が動いた先の未来
2452年、年明けの青森空港。
この時期の青森は常に雪が降っており、日本でも有数な豪雪地帯の一つに数えられている。比較的開発が進んでいる青森市周辺でもこれなので、他の地域――例えば、弘前市や八戸市については言うまでもないだろう。ただ、青森空港は雪を運行したことは殆どない。何故なら、大雪が降る地域故に除雪技術が発展しており、作業も非常に迅速だ。なので、飛行機も問題なく離陸着出来るという話である。
そんな青森の除雪技術に一役買っているのが――WW2の戦後以降、急速に発展した科学的でありながらも非科学的な存在・魔法というものである。
この魔法、今でも謎が多く、研究が進められている分野である。日本には古来から魔法を使える血族や一族も存在し、普通に生活している中でいきなり能力が発現する者も少なくはなく、国内における魔法使いの割合は推定でも2〜3割程度とされている。
そして、魔法の存在が認められて500年程度が経っている現代、政治の世界にも魔法使いは存在しており、あろうことか総理大臣にまで上り詰めている。
……肝心の本人は、想定外の出来事らしいが。
『何で私がこの席に座ることになったのか、未だに皆目見当がつきませんが』
今、ニュースで流れている総理大臣就任の映像から飛び出す彼の言葉がこれだ。
彼は
そして、芦田繁夫の前では絶対に有り得なかった、かつ、前例がない「魔法使いが国のトップ」という事実に、日本中どころか世界中が湧き上がった。あの魔法の本国・イギリスですら未だに魔法使いが首相になったことがない。そういう意味では日本は先を行ったのだ。
そんな前代未聞な状況なので、当然ながら、インターネット中もその話題で持ちきりだ。
特に政治兼魔法使い系バーチャル・ライバー(以下:Vライバー)である
『いや〜……本人すらなれると思ってなかったのに、本当になっちゃったものだから、我々も困惑にゃよ〜。魔法使いはこの数百年で見事に市民権を得たけど、差別も無いとは言い切れないし、これで状況が好転したりするのかにゃ? にゃーの個人的な感情は……立木本さん自身は嫌いじゃにゃいから、応援はしたいと思ってるにゃ』
これに賛同の意見やスパチャが飛んでいる辺り、魔法使いの人間からしたら、このななこの意見通りなのだろう。立木本龍一郎個人は応援したい人間が多く、その一方でいきなりの台頭で困惑がある。手探りの状態のまま、龍一郎はどう国家を発展させていくのか、今後はその手腕が問われるだろう。
――で、雪が舞い散る青森空港のバス乗り場。とある少年は、そんなニュースやVライバーの映像をスマートフォンで眺めていた。
(立木本さんが総理かぁ……ま、あの人が総理になるのはわしにとっては喜ばしいことじゃが)
少年の口から白い吐息が漏れる。
一通りのニュースを見終えて、少年がスマートフォンを一旦コートのポケットの中にしまうと、丁度、自分の目の前を通りがかった子供から何かが落ちた。何かのキャラクターのキーホルダーらしい。
緋色の瞳で子供を追ってみるが、彼は自分がそのキーホルダーを落としたことに気がついていないようだ。
(……こんぐらいだったら)
少年がキーホルダーに意識を集中させると、キーホルダーは1人でに宙に浮かび、そのまま持ち主の子供の元へと戻っていった。流石にすぐにキーホルダーそのものを落とす前の状況には戻せないので、バッグの小ポケットに入れるぐらいしか出来ないが。
子供は特にそれに気付いてる様子もなく、青森空港前を親と一緒に去っていった。
少年はそんな子供の背中を姿を見送ると、丁度、青森駅行きのバスがこちらのバス停に到着した。今回のバスは後払いらしく、少年も他の客同然にバスの中へとさっさと乗り込んでゆく。
席を取りそこに座ると、少年は再びスマートフォンを取り出して、今度はマップアプリで周辺の地図を確認した。そして、とある箇所にピン留めがされている。
(
――そして、この少年もまた、魔法使いの1人であった。
*
そのピン留めされていた箇所というのは、青森市内でも少し外れの場所にある。青森空港が見事に山の中に存在している空港なのだが、そのピン留めされている箇所もまた、微妙に山寄りの場所にあった。近辺にはスキー場や公立大学、公園なんかが施設としては揃っているものの、出掛ける際は多少なり街中に寄っていた方が何かと便利である。一番の救いは青森駅からは大体バスで10分〜20分ぐらいの場所、という点ぐらいか。
そんな場所には、とある風変わりの家族が住んでいた。
「日本に移り住んで大分経つけど、年末年始が休日な文化は本当に素晴らしいべな〜。イギリスだったら、有り得ないよこんなの」
――その家の長男らしい少年が、炬燵の中に体を突っ込みながら、暢気に蜜柑を食べていた。
「そして今は絶賛冬休み、ゲームも漫画もアニメも動画も見放題。こんなに豊富なコンテンツを楽しめる日々さ最高だべ」
「朔真〜。サブカルチャーもいいけど、宿題もやりなさい」
「……わ、分かってる」
少年・朔真は母親にそう突っ込まれて、言葉を詰まらせた。
風宇路朔真。中学進学手前の12歳の少年であり、言葉から察する通り、元々はイギリスに在住していた。そして、父親の方が白人の血を多く持ち、母親は日本人という、見事な混血児だった。その影響かは分からないが、
朔真はとりあえず今は動画を見ようと、好きなVライバーのチャンネルを眺めていた。その中で、ふと、外国人と日本の関係について解説している動画が目に入った。
(おれの先祖、イギリスと日本を行き来してて、クォーターとかハーフどころじゃなかんべ……本当の意味で混血児さ)
朔真はこういう話題を見ると、そういう理由でどうしても苦笑しか出来なかった。
彼の先祖はWW2の前に一度イギリスに移住していた。そして、その子供は大人になって日本に移住し、そして、その子供は大人になってイギリスに移住し――という流れをひたすら繰り返し、現代に至る。今は総合的にみると日本人の血の方が強いのだが、それでもこうやって見た目として白人の血を引いている証は出てくるわけで、日本人とも言い切れない自分の存在が複雑になることがある。
ただ、朔真の中では日本での永住は決まっている。
(でも、おれは既に決めてんべ。アニメや漫画を楽しむためには、日本に住むのが一番だべさ)
――と、まぁ、朔真は日本の二次元コンテンツにかなり入れ込んでいるのでいる、いわゆる「オタク」に分類される人間である。
朔真は掛けている眼鏡をクイッと中指で持ち上げ、好きなVライバーの新着を眺めていた。
(最近の推しは硝子ななこちゃん。猫耳大正女学生というあざとい要素で構成されているのに、中身は政治と魔法に関しての解説動画。何も分からないおれにも分かりやすい上に、可愛くて親切さ)
そして、
(にしても、親もイギリスから移住するならなんで青森にしたんべ〜。こういう時って大体都内とか、その周辺のベッドタウンじゃなかんべか〜!)
自分が青森住まいなことを嘆く朔真。
ななこから東京を羨ましがる流れ。全く繋がってないように見えるものの、彼はななこの動画を見るたび、都内やその周辺住まいの人間が非常に羨ましくなるのだ。彼女も中身の人間が都内出身らしく、アニメグッズや自作グッズ、その他諸々について全て自分の住まい周辺で済ませており、環境的にはかなり理想的である。
青森にもアニメショップ自体はあるのだが、いかんせん朔真の好きなジャンルのグッズはカバーしきれていない。最近はネットで注文するのも楽になっているが、やはり現場に行って買い漁りたいものである。
(大学は絶対に都内にするべ……。イベントも行き放題、グッズも買い漁り放題の暮らしをするのさ……!)
朔真の中で決意が固まる。現段階ではかなり勉強もでき、成績も良好だ。教師からも私立に行かないことを疑問視されるぐらいだったが、今はまだ二次元コンテンツを楽しんでおきたいのだ。その辺の細かい進路は中学に入ってから決めるで良いだろう。中学でも今の調子を自力で維持できれば、都内の大学も夢ではない。
朔真がそう思っている中で、家のインターホンが鳴った。ピンポーンという高い音が、耳の中へと突き刺さる。
ここで出るのはいつも母親なのだが、
「朔真〜。お母さん今、クッキー作ってて手が離せないのよ。出てくれる?」
「良いよ、おれが行く!」
(そういえば、もうそんな時間か。時の流れさ早いな〜)
朔真は炬燵から身体を出して立ち上がり、半纏をまとって玄関へと向かう。時間の方は既に14時を回っており、クッキーが完成するのは大体15時ぐらい。時間帯としては良い塩梅である。
朔真が玄関へと降りたところへ、鍵と扉を開いて、その先に誰がいるのか確認した。
「はい、どちら様ですか――って、ぇ……?」
その姿を見た瞬間、朔真は目を丸くして、動揺を見せた。
目の前にいるのは――美少年だった。
彼は葡萄茶色のワインレッドの髪の毛をポニーテールにまとめているのだが、それがよく似合う端正な顔立ちをしている。端正すぎるが故に、一瞬女子かと思ったものの、コートは男物のそれであり、少なくとも女子が着るようなものではないはずだ。
そんな彼の緋色の瞳は、朔真の姿を捉えるなり、ハッと反応して質問を投げた。
「風宇路朔真ってお前のことか」
「えっ……ぁ、は、はい。おれです」
(へっ、こっちの名前を知っとるの!?)
美少年の口から自分の名前が出てきたので、朔真は目を丸くして酷く驚いた。お互い面識もなければ、話したことすらない上に、距離が近い親戚でもなんでもないはずだ。少なくとも、朔真からしたら、赤の他人の1人でしかないのだが――美少年はそうでないと言わんばかりに、ズカズカと玄関の中へと入っていった。
朔真は美少年の図々しさに目を丸くして驚くものの、明らかに只事ではない様子に、思わずたじろいでしまった。そして、彼の名前を聞いていないことに気が付き、質問した。
「き、君の名前を教えてくれねか? そっちだけ知ってるのは不公平だべさ」
「……」
美少年は靴を脱いだところに、朔真からそんな質問を受けたので、コートを脱ぎながら答えた。
「……
「え?」
「わしの名前は
そして、白いワイシャツとズボンの組み合わせに、駱駝色の明るい茶色のサスペンダーという陽向の姿が、朔真の前に晒された。
「時間を食うのもアレじゃ、ここで単刀直入に言う」
と、
「お前、都内随一の魔法学校――魔修闘習学院に入れ。こんなところで管巻いてるような人材じゃないじゃろ」
「……えっ?」
朔真は一気に色々な情報が頭に流れ込んでいるところへ、とんでもない誘いを陽向から受けたので、思わずその場で固まってしまった。
そして、ある程度状況を理解したところへ、朔真は青森の片隅で絶叫した。
「ぇっ、ぇえぇえええ――――――ッッ!?」
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