棲影鬼
ゆきあさ
第1話
はじまり
満開を迎えた桜の古木からはひらひらと淡い紅色の花びらが時折降り注ぐ。風にあおられて千十星の黒髪のおさげも揺れた。
今日は私立桜山学園の入学式。最愛の妹
「
誰かが山道を上ってくる音。見ればひとりの少年がゆっくりと登ってくる。切りそろえた髪がさらさらと風に揺れている。
(タイの色が紺だ。二年生?わざわざここまで来る人も珍しい。うわっすっごい美少年!そういえば早紀と佳乃が去年中等部で有名な美少年が進級してきたって大騒ぎしてたっけ。たぶんこの子の事だわ)
今日の
「おはよう!」
そう言ってその少年に微笑みかけて
「桜の花の精霊?」
少年の呟きは桜色の風の中に消えた。
❀--------❀--------❀--------❀--------❀--------❀--------❀--------❀
「ちょっと!大変だよ!!
高校三年生の一学期、最初の授業があった日の放課後、新しい三年生の教室で仲良しの佳乃が慌てたように伝えてきた。よほど急いで走って来たのか濃紺のブレザーのえんじ色のリボンが緩んでいる。
「不良グループって……。そんなのこの学校にあったっけ?」
「ここって電波が入らないとこも多いから仕方ないか……」
何故かここ私立桜山学園の校舎には電波が入らない所が多い。学校どころか町の中もそういう所が多いけれど、皆それに慣れてしまっていた。
友達の話によると、
にしても、連れて行かれるとか……何してたの?トワ
仕方がなかろう?あいつは嫌がってなかった。嬉しそうについて行ったんだぞ
何ですって?どうしてそんな……
知らん。それに学校では騒ぎを起こすなと
そうれは、そうだけど。……もう、あの子一体何を考えてるのよ……
姿の見えない相手と
「はあ、仕方ないわね。
白上町。日本の某県に所在するこの地には未だ古い町並みが残る。町の北には白上山、南西には鉄道が走る。そんな町中の剣道場。神宮司剣道場と名前が書いてある大きな木の看板がかかっている。
「お茶どうぞ!!」
桜山学園中等部の制服である詰襟を着た少年が熱々のお茶を入れた湯呑を盆にのせてやってきた。
「わあ!ありがとう!!」
「もうすぐ帰って来るから!待っててくださいね」
別の男子が道場の板間に正座して
「はーい」
板の間の道場にふかふかツヤツヤな座布団。その上に座った
「
妹が連れて行かれたと聞いていた
「ちょっと!勝手に入ってこられちゃ困るんですよ!!」
「あんた、誰だよ?!」
「そうだよ!俺らが怒られるんですから!」
口々に中等部の生徒達が
「え?お姉ちゃん?どうして?」
あら、
うむ、同感だ
「どうしてじゃないわよ!こんな所へ来て!さ、帰るわよ!」
「え、でも、せっかくお友達になりたいって言われたのに……」
不満そうな
「お友達になるのなら学園でどうぞ。私達は帰らせてもらいます。お邪魔しました」
もちろんくれぐれも「お友達」にならないように後で
「ちょ、ちょっと待てよ!少し話をして欲しかっただけなんだよ!」
「そうだよ。もうちょっと待ってよ!」
男子達の一人が
私の花嫁に気安く触れるな
(ますいわね……。彼をこれ以上怒らせる訳にはいかない!)
「な、なんだ、今の風は?」
「私の妹に触らないで!」
「なんだよ!そこまですることはないだろう!?」
「大体、先輩の了解は得てるんだぞ」
そう言って叩かれた男子生徒も竹刀を取り、構えてみせた。
「関係ない癖にしゃしゃり出てくんな!……え?」
男子生徒には
「怪我をしたくなかったら、私に武器を向けないで」
「これは何の騒ぎだ?」
よく通る声が道場内に響いた。
道場の入り口から現れたのは高等部の制服を着た綺麗な少年だった。見覚えがある。入学式の朝に桜の古木の山道ですれ違った美少年だ。でも。
「あなたがここの責任者?」
「へえ」
少年は目を輝かせて竹刀を握った。数合打ち合う。
「すごいな……」
少年の口から感嘆の声が漏れる。
「そんな……」
「師範と互角?」
「まさか……透さんが手加減してるだけだ」
「お姉ちゃんっ!もう止めて!
「
「一体何が……」
先程まで
その瞬間、壁に作り付けてあった棚が音を立てて落ちてきた。先程の突風で壊れていたらしかった。
「きゃあっ!!」
「
真下にいた
「
「ん、大丈夫。お姉ちゃんは平気?」
「うん、大丈夫」
(良かった。怪我をしてなくて。
「大丈夫ですか?」
透が慌てたように近づいて来た。
「きゃあ、神宮司先輩がこんなに近くにっ!」
「え?
「ううん。違うけど。え?お姉ちゃん。知らないの?剣道部の王子様だよ?」
(何で剣道部で王子様なの?)
そんな風に
「!?」
「こちらへ」
透は
「「「「「え?」」」」」
その場に残された全員の声がハモった。
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