第2話 普通そんなとこ壊すかよ!?

スマホのアラームより少し早く目が覚めた。聞いたことのない鳥の囀りが、ここが実家ではないことを思い出させる。薄目を開くと、一部破けたカーテンの隙間からは、朝日が差し込んでいた。


小日向さんから借りた余り物の敷布団は、かなりぺちゃんこだった。無いよりマシというくらいで、ベッド派の俺としては最悪の寝心地。

横に視線を移すと、向こうの布団には諸悪の根源である黒い頭が見える。規則正しく上下する膨らみは、まだ夢の中のようだ。


「朝メシは…寮まで行く、かぁ…」


身体を伸ばしながらボロ小屋の中を見回す。前野先生が言っていた通り、生活インフラは整えられているから、電気はもちろん、水やガスも使える。生活はできる。でもいざ使おうと思ったら、冷蔵庫は故障していた。そんなわけで食事は基本、寮の食堂で食べる予定。

…でも、これがちょっと億劫。なぜなら、この幽霊小屋から男子寮までは、結構距離があるから。

はぁ、とため息を吐いてから、薄汚れた洗面所で顔を洗い、身支度を整える。


「…千秋、」

「はよー」


アラーム音が何度か鳴った後、涼海も目を覚ました。ボソボソと口は動いているものの、目は開ききってない。コイツ朝弱いんだな。昨日の印象だと、もっと朝からハイテンション野郎かと思ったけど、まあ静かな分にはいいけど。


「朝メシ、寮の食堂8時までだから、俺は今から行くけど」

「ああ、俺も…。……コンタクト入れて…、支度…して……」

「あと10分で出るからー」


時刻は7時5分。幽霊小屋から寮までは歩いて15分掛かる。待てて10分だよな。

今にも再び寝てしまいそうな涼海を急かすと、枕元のメガネを掴み、フラフラと洗面所に消えていった。


このひたすらに広い学園は、普通の校舎に加えて、2年生以降に選択する「特別クラス」で使う校舎がある。特別クラスとは、地域振興や自然科学、芸能芸術などなど、ちょっと専門的なことを学ぶクラス。各クラスで必要な施設もこの敷地内にあるから、姉貴が通ってる大学みたいな広さを擁している。まあ、そんなところに金かけてるから、校舎とかボロいままなんだろうけど。


「…待たせた」

「支度早っ」


ダイニングテーブルでスマホをいじってると、昨日見たキリッとした吊り目が、いつの間にか隣に立っていた。いつ切り替わった?

立ち上がり、スマホをポケットに突っ込むと玄関ドアへ向かう。

入学式は10時からで、生徒は30分前集合。少し時間があるから、面倒だけど、一度この幽霊小屋まで戻るしかない。


「お前何組?」

「1-Aだ」

「うわ、一緒かよ…」

「反応が失礼だぞ」


学校からの連絡事項は、基本的に学園専用アプリ経由。入学式の今日も、あらかじめクラス案内がアプリで通知されていた。


「昨日も言ったけど、お前と一緒だとロクなこと起きないし」

「昨日の件は、俺だけのせいじゃないだろ」

ガチャンッ!

「「え」」


涼海が、話しながらドアノブを捻った瞬間、想定外の音がした。

涼海の手の中に握られているのは、ドアノブ。ドアから取れた、ドアノブ単品。


「は〜〜〜〜!?普通そんなとこ壊すかよ!?」

「わ、わざとじゃない!…ちょっと力が入って…。すまない…」

「やっぱりロクなことないわ!」


スマホに表示されてる時刻は、7時10分。ドアノブは脆くなっていたのか、一部欠けてるところもあるし、簡単に修理することはできなさそう。

どーすっかな。

考えようとしたところで、涼海が口を開いた。


「…よし、ぶちやぶろう!」

「は!?お前バカな…痛ってぇぇ〜!?」


止めるより先に涼海が扉に体当たりする。と、同時にガタン!という音と肩に衝撃。

涼海の体当たりの衝撃で、壁に掛けてあった額縁が落下し、俺の肩を直撃した。痛ぇ!

つーか、なんでコイツはすぐに腕力に物言わそうとすんの!?

実際、上品そうな見た目に反して力はやたら強いから、こいつはこいつでそうやって生きてきたんだろう。…だろう、けどさ?俺にとってはマジで迷惑でしかない!


「お前、ほんっっっとバカ!!」

「す、すまない!肩、大丈夫か?見せてみろ」

「いい!大丈夫だから!」

「…本当に、悪かった…」


フツフツ湧き上がる苛立ちをそのままぶつけると、涼海は目を閉じて、眉間に皺を寄せる。反省はしてるみたいだけど、そんな顔見たところで、俺の肩の痛みは癒やされないから!


「俺は窓から出る。お前、前野先生に連絡しとけよ」

「…わかった。…千秋、本当にすまな…」

「あーもー分かったから!先行ってるからな」


玄関の靴を取ると、悄然と落ちた額縁を拾い上げている涼海の横を通り抜け、窓に向かう。

近くのチェストに足をかけ、開けた窓に手をかける。


「うわ、汚…っ」


ぐにゃりとした感触と共に、手に泥が付く。窓枠を乗り越えて外に降り立った時には、制服も所々汚れていた。クッソ!着替えは、朝食の後にすればよかった!


むしゃくしゃした気持ちのまま森の中を歩く。森の中の幽霊小屋から学園に抜ける道は、枕木が敷かれている。角が欠け端々に苔の生えた枕木は、苛立ちから大股で歩く俺の歩幅より、短い感覚で敷かれている。歩きにくさから仕方なく枕木と同じ歩幅で歩いていくと、そのリズムから不思議と気持ちも少し鎮まっていった。


「今は…、7時35分か」


風に揺れる緑と、澄んだ空気が、ジンジンしていた肩の痛みを癒す。緑の小道が終わると視界も開け、やっと学園の建物が見えてきた。

ここから寮までは10分程度。朝食の提供時間には間に合いそうだけど、ゆっくり食べる時間はなさそう。

イライラは鎮まったけど、なんかもう疲れたし服は汚れるし、ため息しかでない。はぁ。







「千秋!」

「思ったより早かったじゃん」


食堂で朝食を受け取り、適当な席に着いたところで後からやってきた涼海と合流した。食堂内の人はまばらで、残っていた学生も殆どが食器を片付けて部屋に戻るところだった。


「小日向さんに救急箱を借りてきた。肩、見せてくれ」

「…どーぞ」


俺を見つけるや否や、食事より先に手当をしようとする涼海。律儀というか真面目というか。今朝は俺も、少し感情的に怒ってしまったかもしれないと反省の気持ちがわく。涼海に促されるまま、大人しくジャケットを脱ぎ、シャツのボタンを少し開け肩をだした。


「…傷はないが、赤くなってる。痛むか?」

「少しだけ」

「念の為、湿布は貼っておこう。いいか?」

「さんきゅ。…あのさ、さっきは、ごめん」

「千秋…。いいや、俺が悪かった。怪我させてすまない。」


至近距離にある涼海の顔は、優しい笑みを浮かべた。

すぐに視線を戻し、手当に集中する涼海を観察する。

白い額にかかる前髪は、サラサラしていて、時折俺を見る瞳は、澄んでいて、とても綺麗だ。


まつ毛、長っ…。


昨日も思ったけど、ほんとキレーな顔してる。…中身はバカだけど。


「よし、できた。午後も痛むようなら、保健室に行こうな」

「ガキじゃないんだから、よけーなお世話。ほら、お前も早く食べろって」

「ああ。そうだった」


そうだった、じゃねーよ、何しにきてんの。

慌てて食事を取りに行く涼海の背中を見て、フッと笑いが漏れてしまう。

根は悪い奴じゃない。誠実な奴だと思う。

朝食に向き直り、一口飲んだ味噌汁は、温かく、出汁の香りがほんわり広がった。

悪くない、かも。

温かい食事と一緒に、胸の奥が、じんわり温まる気がした。







結局汚れたままの制服で入学式に出ることになった俺は、別れ際に親から「何故服が汚れてるのか?」と聞かれたけど、とても説明する気になれずテキトーにはぐらかした。ちなみに、兄の時も姉の時も花のプレゼントがあったのに、「なんで今年は無いのかしら?」というボヤキも、聞こえないフリをさせてもらった。それについては、ノーコメントです。


「新入生のみなさん、入学おめでとう。私は、A組を担当する、丸弘義まる ひろよしです。1年間、よろしくお願いします。」


入学式終了後、教室に移ると担任教師の挨拶からホームルームが始まった。丸顔の30代くらいの男性教師が、俺たちの担任らしい。

しかし、そんなことはどうでもいい。俺は隣の席に視線を移す。


「席も隣なんて運命的だな。教室でもよろしくな」

「勘弁してよ…」


なんの因果か、隣の席は昨日からうんざりするほど見ている涼海の姿。ホント早く席替えしてくんないかな?


今日はこのホームルームの後はすぐに解散になる。今朝の教訓を踏まえて、購買で冷蔵不要な朝ごはんを買ってから戻ろう。

鐘の音と共に、短いホームルームが終わり、さて購買に行こうと立ち上がった瞬間、前の席2人から声をかけられる。


「千秋楓くん、だね。僕は玉置真琴たまき まこと。よろしくね」

「俺は篠岡玲央しのおか れお。よろしくぅ!」

「あー、よろしくー。」


童顔にゆるいパーマが似合う玉置と、くっきりした二重に三白眼が印象的な篠岡。おっけー、覚えた。

当たり障りなく、ヘラリと笑って応える。

クラスの中のポジション取りは、もう始まっている。とりあえず、近くの席の奴とは、仲良くしとくに越したことはない。テキトーに合わせて、無難にやり過ごす。それで平和に生活できるから。


「お前は、涼海だっけ?よろしくな!」

「ああ。よろしく。」

「2人は、このまま寮に戻る?」

「あ、寮といえばさ、聞いたかよ!あの水浸しの121号室、あの部屋の奴ら、入学前に退学させられたらしいぜ!」


ドキリ。ケラケラと笑う篠岡とかいう奴の言葉に、背中に緊張が走る。121号室の奴らというのは、俺たちのことで間違いない。けど、これはバレたら見下されるに決まってる。絶対に隠し通さなくちゃ…


「それは違う。退学はしてない。だからここにいる。」

「は?」

「え?」

「ちょっ、お前…ッ!」

「え!?あはははは!お前らだったのかよ!ウケる!!」

「えええ!?2人が噂の121号室だったの!?」


クッソ〜〜〜!!

羞恥と怒りで顔が赤くなるのがわかる。なんだコイツ!本当バカ!


「なんだあ!退学って嘘だったのか!派手にやらかして、先生に連れていかれて戻らなくてさ、もう退学になった!って噂だったぜ」

「あれ?じゃあ2人はどこにいるの?寮室に空きはないって、入学前に聞いたけど…」

「はぁ…。学園の奥にあるボロ小屋。掃除しながら住むよう言われてんの。」


諦めて白状する。

ダメだ。涼海がいると全然思い通りに進まない。噂なんて、どんなふうに尾鰭背鰭がつくか想像できたもんじゃない。そこに俺の名前が入るのが本当に不本意。

てゆーかコイツは、恥ずかしいとか思わないわけ?

誰にも気づかれないくらいさりげなく涼海を見る。ジトっとした目で。そのくらい、いいだろう。

すると、篠岡が興奮したように身を乗り出した。


「え、お前それって…!『幽霊小屋』ってやつ!?」

「…まあ、それ。」

「「幽霊小屋?」」


首を傾げる涼海と玉置。

おい涼海、お前は住んでるだろ、そこに。知らなかったのかよ。


「知らねーの?雨の日の夜、人がいない幽霊小屋から、煙が立つんだよ。真っ暗な森の中で、まるで助けを求める狼煙のように…」

「や、やめてよ!僕ホラー苦手なんだからっ!」

「あ、わり。」


丸い目を更に大きく開いて、耳を塞いだ玉置の反応を見て、すぐ口をつぐんだ篠岡。

なるほど。篠岡は、話口調こそふざけた感じだけど、案外空気は読めるタイプっぽい。弁えてるって感じ。


「まー、とにかく大変だな、2人とも。毎日あそこから校舎まで来てんだろ?」

「まーね…」

「そっか。僕にも何か手伝えることがあったら言ってね。」

「ああ。ありがとう!」


笑顔で返事をする涼海。そんな笑顔して…、社交辞令に決まってんだろ、真に受けんなって。

話が一区切りしたところで、教室のドアから丸先生の声がした。


「千秋と涼海はいるかー?」

「はい」

「前野先生が呼んでるぞ、社会科室に行ってくれ。場所は分かるか?」

「「…はーい」」


ドアノブのことか、部活のことか…。どうせまた面倒な話だろう。

じゃあまた明日、と軽く挨拶しながら2人と別れ、俺たちは社会科教科室へと向かうのだった。








社会科教科室は、今日も雑然としていた。窓と扉以外は高い本棚で埋まっていて、古そうな資料が並んでいる。部屋の真ん中には先生たち4人分の机が向かい合うようにくっつけて置かれていて、資料の海の中に浮かぶ島のよう。

もっとも、その島の上も書類の山だらけで、近付かないと前野先生がいるかどうかもわからないくらいだけど。


「来たか。ドアノブの件は手配した。明後日には修理できるから安心しろ」

「ありがとうございます!」

「…はい。」


明後日には修理って、それまで窓から出入りかよ?ありえねー。


「今日は掃除を進めよう。俺も手伝うから、そこにある道具を手分けして持っていこう」

「わかりました!」

「はーい」


先生の足元にあるのは、ゴミ袋、軍手、カビ取りスプレー、ウェットシート…と、掃除に必要だけど納屋にはなさそうなやつ。

全てそのまま手に持とうとする涼海に、ゴミ袋を一つ開けて、まとめて持たせてやる。


「これなら持ちやすい。…ありがとう!」

「いーえ」


爽やかな笑顔でお礼を言う涼海。

袋にまとめたことで、結局、荷物のほとんどは涼海が持ってるのに…、俺楽させてもらっていーの?

コイツ、いつか壺とか買わされそうだな。






幽霊小屋まで着くと、前野先生の指示の下、手分けして作業を始める。

涼海は水回りの掃除、俺は今朝散々な目に遭った窓の掃除。前野先生は、室内の傷んだ床や壁の確認をしてくれている。作業の途中で、ふと、前野先生に声をかけられる。


「千秋、お前、ここの壁どうしたらいいと思う?」


示されたのは、ダイニング横の壁。今朝踏み台にしたのと同じチェストが並べられていて、その上、ちょうど目線の高さのところが黒ずみ、穴が空いていた。


「何かで隠すってことですか?」

「違う」

「直すなら、木の板で補強したりパテで埋めたり…?簡単な方でいいですけど。」


そう言うと、前野先生は体ごと俺に向き直り、あの真剣な眼差しで俺を見た。

何?技術的な話とか、俺わかんないんだけど?


「いいか、千秋。ここはお前たちが生活する場所だ。教室とか部室みたいな、その時限りの場所とは違って、『帰る場所』だ。だから、見てくれの話じゃないんだ。」


そこで区切ると、先生は静かに、でもどこか優しく。諭すように言った。


「どうなっていきたいか、その為にどうしたらいいのか。自分がどうしたいか。…よく考えろ」

「……はぁ。」


そんなこと言われても。

俺は気の抜けた返事しかできない。だって意味わかんねーし。

そんなこと言うなら、早くドアノブとか階段とか直してほしいんですけど?としか思えない。


「先生!洗面所終わりました!次はトイレやりたいんスけど、洗剤がなくなっちゃって…」

「洗剤ならここにもう一本あるぞ」

「…俺、ゴミ捨ててきまーす」


前野先生が涼海に気を取られている隙に、ゴミ袋を掴んで逃げ出す。

十分働いたし、ちょっとくらい休憩しても罰当たらないでしょ。







森の小道を抜けて、男子寮まで歩く。学園内のゴミ集積所は2箇所。それぞれ男子寮と女子寮の近くにある。


西日に照らされた男子寮からは、生徒たちの楽しそうな声が聞こえる。新学期に、新しい生活の始まりに、心躍らせているんだろう。

寮の裏手にある集積所はちょうど日陰で、その暗さは、既に夜の気配がしていた。


ここにいるみんなは、「自分がどうしたいか」を、ちゃんと考えてんのかな…。


ゴミ袋を置くと、ふとそんな考えがよぎり、そのまま足が止まった。前野先生の問いかけが引っかかっている。こんなこと考えても答えは出ないのに、分からなくて、動き出せなかった。


自分がどうしたいか。

自分の意思、って?


正直、俺は、自分の意思とか、志とか、そういう立派なものは持ち合わせてない。

だって、いつだって正解が目の前にあったから。兄貴や姉貴が、いつも正解を示していた。同じように、間違えた選択をして怒られたり、落ち込んだりしてる姿も見てきた。

だから俺は、間違えることはない。誰からも、怒られたり失望されることはない。自分が落ち込むこともない。同じように演じれば、大丈夫。

だけど、演じすぎて、もうどれが本当の自分かなんて分からない。

この学校を選んだ理由さえ、兄貴と姉貴が通ってたからに過ぎない。


「…ここにいることだって、なんの理由もないのに…。」


頭の片隅ではずっと感じていた言葉も、口からこぼれると、途端に自分が酷く空虚なものに思えた。

上辺は綺麗に取り繕っても、中身は空っぽ。

なのにいつも体は重い。

身動きが、取りづらい。


「千秋!…大丈夫か?」

「…涼海。だいじょーぶだけど?何?別にサボってないですー」

「そんなこと疑ってない。」


物思いに耽っていると、背後からゴミ袋をもった涼海に声がして振り返る。ハッキリと言い切る涼海に、眩しささえ感じる。

コイツはなんでいつもこう、真っ直ぐにいられるの?

ただの脳筋と言えばそれまでだけど、その素直さは、俺なんかよりよっぽど身軽に見える。


「掃除、疲れたな。このゴミで最後だ。今日はもう終わりでいいって、前野先生が言ってたから、このまま夕飯も食べていかないか?」

「…そーだね。」


ゴミを置いた涼海は、迷うことなく寮へ足を進める。

ほら。こいつはいつだって、次に進む一歩に迷いがない。それが合ってるかどうかなんて、考えることさえしてないんでしょ?

ねえ、怖くないの?お前は。


「千秋、」

「なんだよ」

「…この匂い…」

「「…カレーだ!」」

「早く行こう!」

「は?ちょっと、走るなよ!」


ひと足先に夕陽の中に駆け出した涼海。その後ろ姿が、ぐるぐるしていた思考を中断させ、ただ涼海を追いかけることに意識が向く。

涼海の向こう、遠くに見える春の海も、目の前の涼海の白いシャツも、全てがオレンジ色に輝いている。

眩しい。

思わず目を細めると、それはもっと遠くに感じた。


「ほら!」

「っ、」


急に振り返った涼海が、俺の手を掴む。

しっかりと握られた手から、不思議と心地よさを感じた。


なんか…ずるいよな、コイツ。


涼海の手に体が引っ張られて、俺の中にあった薄暗いものは、追いつけずにその場に残された。


駆け出した俺のスニーカーは、眩しさの中に踏み込んでいった。

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