見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい
サチオウ
プロローグ サティエル誕生
第1話 サティシア姫
パンディニア大陸の中央南部に位置する中規模国家、マルムフォーシュ。この国に、ひと組の双子の姉妹が誕生した。
名は――
サティシア・マルムフォーシュ
レティシア・マルムフォーシュ
二人は共に、マルムフォーシュ王家に代々受け継がれる特徴――白銀に近いホワイトブロンドの髪と、紅玉のように赤い瞳を備えていた。そして、生まれながらにして強大な魔力もその身に宿していた。マルムフォーシュ家は古来より、魔法の力を礎として王国を築き上げてきた家系である。
だが、強すぎる魔力は、祝福ではなく呪いとなることもある。
双子が三歳を迎えた頃、その災いが姿を現した。
姉のサティシアが、「魔力石化症」を発症したのだ。
それは、肉体の魔力許容量を超えた者にまれ起きる難病だった 。体内で魔力が結晶化し、石となって組織を蝕んでいく。魔法の発動が困難になるばかりか、結晶ができる場所によっては激痛に襲われ、命を落とすことすらあるのだ。
唯一の治療法とされているのが、「気功術」による魔石の破壊である。
魔法は体内の魔力を体外に放出して効果を発揮するが、気功術は体内を巡る「気」を練り上げ、肉体を強化したり、物体内部へ衝撃を与えたりできる技法だ。
この性質を応用し、体外から気を送り込み魔石を砕くことは可能だが、周囲の組織にも損傷を与えてしまうため限界がある。
ゆえに、自ら気を循環させ、精密に制御し内側から魔石を破壊する必要があった。だが、その域に達するには十年はかかると言われていた。
さらに厄介なのは、気と魔力は相反する性質を持つこと。
気功術を身につければ、魔法はほとんど使えなくなる。
王家の者が魔法を失えば、その立場は著しく不利な状況に陥ることになるだろう。
それでも、命には代えられない。
マルムフォーシュ王家は、王都から遠く離れた南部の自然豊かなルース地方の別邸へ、サティシアを療養のため移した。
そこで彼女は気功術の修行を始めることになる。
師として選ばれたのは、かつて“武神”と称えられた剛気流の達人・ジューベー。
すでに隠遁していたが、王家の頼みにより特別に復帰した。
だが、現実は厳しかった。
すでに魔力石化症を発症し、寝込むことすらある三歳の子に、気功術を叩き込むというのは無茶な話である。ジューベー自身、健康な孫に三歳から教えてなお、石化した魔力に対処できる気功術を身に着けさせるまで八年を要していた。
そして、時間は残酷に過ぎていく。
二年が経ち、病状は悪化の一途をたどっていた。ジューベーが外から気功で魔石を破壊する応急処置を続けてはいたが、それにも限界があった。周囲へのダメージが蓄積し、回復する間もなく新たな石化が進む――もはや手詰まりだった。
その頃のサティエルは衰弱し、気功術を身に着けるどころか起き上がることも困難な日が増えつつあった。
そんなサティエルの唯一の楽しみは病床で本を読んでもらうことになっていた。
中でもお気に入りは月からやって来た魔法使いの話し。それがきっかけで、毎晩夜空を見上げ、月を見ながら、苦しい日々を乗り越えていた。
ある日、ジューベーは王からの召喚を受け、王都に戻ることになる。任務の成果が上がっていないことは分かっていた。
解任は当然、下手をすれば処罰もありうる。
「ジューベーよ。本日をもって、サティシアへの指導任を解く」
――やはりか。
「ははっ」
「おぬしにできぬのならば、もはや誰にもできまい。これまでよく尽くしてくれた」
思いのほか穏やかな辞令と労いの言葉。しかし、それが妙に引っかかった。
謁見を終えたジューベーは、かつての同僚であるキーファー大臣のもとを訪ねる。
そこで、思いもよらぬ事実を耳にする。
「おお、ジューベー、戻っていたか。安心したぞ」
「なにがだ?」
「お前がいたルース地方に、隣国カラカーナが進軍中だと聞いたからな」
「……なに?」
「まさか、知らなかったのか?」
その知らせは、彼には届いていなかった。
――なぜだ?
ジューベーは事の異常さを悟る。王命で自分だけを呼び戻し、サティシアを孤立させたのではないか?
疑念を胸に、ジューベーは急ぎルースへと向かった。
馬を駆る途中、空には赤い満月が不気味に輝いていた。
ジューベーの胸には、悪い予感が募る。一刻も早くサティシアの元へ――
別邸が見えてきた時――そこはすでに炎に包まれていた。
ジューベーは火の中を突き進み、二階のサティシアの部屋へとたどり着く。なぜか、彼女はひとり取り残されていた。
彼はサティシアを抱きかかえ、火の回った廊下を避けて窓から脱出。敵兵の目を逃れつつ、森を駆ける。
どこか休める場所は?
周囲を見回すと、先ほどの赤い月が目に入る。
死者の魂が活性化するという不気味な赤い月、何も起こらねば良いが......。
しかし、その月明かりに照らされた小さな洞窟を発見する。
そこに、サティシアを静かに寝かせた。だが、容態は最悪だった。
喉の奥に魔石ができ、すでに意識を失っている。外から破壊すれば即死する位置――どうすることもできなかった。
「……助けたはずなのに、意味がなかったか……」
そして、サティシアの呼吸が止まる。
「申し訳ございません。サティシア様」
手を握り、心の中でひたすら謝るジューベー。
しかし、その時――。
サティシアの喉がかすかに光を放った。
そして、彼女は目を覚まし、きょろきょろとあたりを見回して――
「なにこれ?」
ぽつりと、そう呟いた。
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