第26話:連環の六星、守護者の誓い
■:錆びた盾、帰郷と因縁
旅の途中、「連環の五星」は秋斗の故郷「錆びた盾」 に立ち寄った。“どさ回り”の一環として、レッドゾーンの集落との協定を結び、情報収集も兼ねた帰郷だった。
村の広場で待っていたのは、秋斗の父・厳。かつて名の知れた前衛戦士で、今は膝の古傷を抱え隠居している。
「半年でここまで来たか……だが、盾役なしで前に出るのは無謀だぞ」
父の声は厳しく、その視線は秋斗の細いフレームを射抜いた。秋斗は苦笑しながらうなずく。
「それは痛感してる。だから今、俺たちの連携に耐えうる、完璧なタンクを探してる」厳はしばらく思案した後、ふと顔を上げた。
「昔の仲間に、優秀なタンクがいてな。その子どもたちが今、姉弟で同じ道を歩んでいる。確か近くの集落で遠征中だ。連絡を取ってみよう」
秋斗は父の古傷に視線を落とし、低く尋ねる。
「親父、その仲間の引退の原因となった魔獣は――」
「ああ。 《岩角の猛牛(ホーン・ブル)》だ。巨体と《特大突進》は、防御のタイミングをコンマ数秒でも間違えれば、鎧ごと体を穿つ。今日の目標はその因縁の相手だ。行くか?」
■:一戦目:猛牛の呪詛
翌日、情報を得た秋斗たちは試しのため、近隣の迷宮へ向かった。 目標は、父がかつて敗北した相手――『岩角の
迷宮の広間に、体高2メートルを超える漆黒の猛牛が低く唸る。
「《解析演算:戦術予測》展開」
秋斗の覚醒スキルが起動し、脳裏に猛牛の行動の可能性が秒単位で示される。
「初動は『咆哮』。続けて『特大突進』のフェイントから、角を捻る二次攻撃が来る!」
情報が共有される。戦闘が始まる。
秋斗と咲が前線に立ち、陸が魔法で援護、楓が射撃支援、エリザが後方で回復を構える。
猛牛は咆哮と共に地面を蹴り、地鳴りのような《特大突進》を放った。秋斗は 《解析演算》が示す唯一の回避ルート を信じ、紙一重で突進の軌道を躱す。
「回避成功! カウンター」
躱した直後、秋斗は剣を構えて猛牛の側腹へ切り込もうとした。しかし、秋斗の計算は『防御』を組み込んでいない、『回避と攻撃』に特化した極限の戦術 だ。
猛牛の 『特性変異』――父が語った角を捻る二次攻撃が、躱しきった秋斗の脇腹 を、アームガードごと貫いた。防御力のない秋斗の肉体は、文字通り角の衝撃を全て受け止めた。
「──っ!」
衝撃は、まるで高速で走る列車に撥ねられたかのようだった。アームガードは砕け、脇腹から噴き出した血が、薄暗い洞窟の床を濡らす。
秋斗は重傷を負い、戦闘不能。
「秋斗!エリザ、フォローして」
楓が即座に指令を出し、PTは動揺を押し殺して猛牛を殲滅したが、秋斗の失血はひどく、命こそエリザの回復で取り留めたが、数日は休養が必要だった。
■:治癒と、守護者の召喚
失意の中、秋斗は故郷で療養を強いられた。秋斗の母・紗香は村の診療を手伝い、エリザの聖魔法と秋斗の『解析演算』による診断により、紗香は久しぶりにスキルレベルを上げる。
「へえ、発動回数じゃなくて“効果貢献度”で上がるのね」
そう呟く母の横で、秋斗は笑った。だが、その胸には「父と同じ場所、同じ敵、そして『盾の不在』 によって負傷した」という痛烈な敗北感が残っていた。
さらに、エリザは父・厳の古傷に
ゆっくりと立ち上がった父の目に、若き日の闘志が戻る。
「恩にきるぜ。……あの姉弟を呼び戻そう。秋斗、お前たちのPTには、理不尽な攻撃を『無効』にする力が必要だ」
四日後、遠征に出ていたタンク一家が帰還。父と母は旧仲間のPTに復帰し、その代わりに、姉弟――姉の桜子(16)と弟の隼人(14)が秋斗たちのもとへ送られた
■:二戦目:桜子の完璧な防壁
桜子は長身でしなやか、背に大盾、手に槍を携えていた。
「タンク役を探していると聞きました。私は家族以外のPTに興味がある」
「俺は折角、フリーになるんだったら、友達と一緒にパーティを作るよ」
姉の桜子は興味を示し、弟の隼人は秋斗たちとではなく、集落の幼馴染を集めてパーティを新たに作りたいという希望を持っていた。
実際、桜子の落ち着いた声と確かな構えに、秋斗たちは圧倒された。
彼女のレベルは65。楓や咲を凌駕するレベルだ。
「桜子。私たちのPTと相性がいいか試してみよう」
「わかった」
桜子たちはまだ“臨時協力者”扱い。念話にも加わっていない状態で、再び猛牛との戦いに挑むこととなる。今度の相手は
桜子は戦場に立つと、静かに言った。
「この規模の個体なら、タンクが主導で。全員、私の指示に従って」
『
盾を構えて受け止め、隙を突いて槍で突き返す。その一連の動きは洗練されていた。猛牛の突進は、岩にぶつかったかのように一瞬で威力を失った。
「タンクがヘイトを管理します。魔法使いや回復士にヘイトが向かうと壊滅しますからね」
余裕の笑みでそう言いながら、仲間に口頭で指示を飛ばす。
「後衛は再詠唱時間を意識して。無駄撃ちは厳禁です。楓さん、右足の関節を狙って」
戦場が安定する。前線が全く崩れない。咲と楓、陸の攻撃が的確に桜子の防御リズムに重なり、 ついに猛牛は倒れた。秋斗が負傷した時とは比べ物にならない、安全で完璧な殲滅戦だった。
■:守護の核、正式加入へ
だがその後、秋斗たちは痛感する。
「誰でもいいから盾役を」という発想が間違っていたことを。
彼女はただの防壁ではない。全員の呼吸をつなぐ“守護の核”だった。
秋斗の『解析演算』に依存しない、完璧な防御線がそこにはあった。これは、PTの戦略の幅を無限に広げる力だ。
戦闘後、エリザが最後の治療を終えると、秋斗は仲間を見回し、そして桜子に向き直った。
「――桜子。 正式に、連環の五星に加わってくれないか。桜子の防御と指揮は、俺たちの戦略に必要不可欠だ」
桜子は驚きに目を見開き、そしてゆっくりと、深く頷いた。
「皆さんがそう言うなら。私の盾は、あなたたちのために」
■桜子の評価と実力
秋斗は、桜子のレベルと実力を冷静に分析し、彼女が単なるタンクではなく「守護の核」であることを改めて認識する。
指揮権の分担: 桜子と楓の間で、PTの指揮系統についての話し合いが行われる。桜子は前衛の安全を確保する声出しの統率を、楓は念話での全体戦略の維持を担うことで合意。
出発と試運転: 6人PTとして、近隣の集落へ向かう道中にある、ランク7(Lv30~40)のダンジョンで、調整のための実戦に入る。
「桜子、レベル65か。俺の解析演算でも、あの防御の精度は予測しきれないな」
秋斗は、療養所の窓から外の空を見上げながら、隣に座るエリザに呟いた。
「まさか、16歳で楓や咲よりレベルが高いなんてね。お父さんが厳しかったんでしょうか?」
「いや、違う。レベルは単なる数値じゃない。あれは、一種の才能だ。…なあ桜子、改めて聞いていいか。俺たちのPTに入って、何をしたい?」
秋斗の真剣な問いかけに、桜子はいつも通り落ち着いた口調で答えた。
「私は、『守りきること』にこだわりたい。そもそも銀級の魔獣が、アームガードだけで止められるわけないじゃない。どう考えても危なすぎるでしょ」
その夜、クランハウスへ移動する前に、PTの最重要課題である指揮系統について話し合いが行われた。テーブルを囲む6人の視線が交錯する。
「改めて確認だけど、PT全体の戦術立案と同期は、引き続き楓の担当でいいわね」咲が楓に視線を送る。
楓は頷いた。「ええ。秋斗の高速思考と私の射眼で、戦況の先読みはできる。それは念話で流す。ただし、前衛――桜子、秋斗、咲の三人が動くための、即時性のある指示は、どうする?」
陸が口を開いた。「念話(リンク)で同期は取れるけど、防御のタイミングはコンマ数秒の世界だ。桜子の『挑発』や『守護の槍陣』の発動に、俺の魔法のタイミングを合わせたい」
桜子は両手を組み、静かに言った。「私が、前衛の『声出しの統率』を担います。私の防御スキルは、発動に体勢維持が必要なものが多ので、声で、秋斗さんと咲さんの動きを私が誘導します。楓さんの全体戦略の指示と、私の前衛指示が、念話と声で分かれる形になります」
「――『念話中の会話』、は戦術の全体像と後衛の連携。『声出しの会話』は前衛三人の行動の誘導。これでいこう」秋斗が結論づけた。
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