第15話:疑惑の追跡
食堂での夕食中、エリザがニヤニヤしながら二人を冷やかした。
「秋斗と楓って本当に気が合うわよね。戦闘でも装備でも、もういっそ、籍入れて一緒に暮らしたら?子供も優秀な子ができるわよ」
エリザの軽口に対し、楓は普段のクールさを失い、反射的に怒りの視線を向けた。
「ふざけないでよ、エリザ。不安定な毎日、17歳の子供が子供を作っている場合じゃないわ。自分の故郷を守るために戦って強くなるべきよ」
「楓、怒りすぎ、エリザの軽口は、いつもの冗談ってわかってるだろう」
陸が楓を諫める。
「そうね、ごめん」
「気にしてないわよ、それよりPT仲間のことが不安なの?私が治せるって楓もわかってるんでしょ」
楓は反省し、エリザはまったく気にしていない。
秋斗にとってこのやり取りは、心の奥底で抱えていた「恋愛なんかしている場合ではない」という葛藤と酷似していた。
「うん、わかってる。楓に直してもらって頭がクリアになったら、故郷が普通じゃないことに気が付いたのよ」
「わかりやすく話せよ、なんのことかさっぱりわからんぞ」
陸が楓に言う。
「頭で整理ができたら言う。今はうまく言えない」
「ああ、そういうことあるよな、思春期なら思ったことがうまく言語化できなくてイライラするってやつ」
「はあ?でも、そうかも」
「なら、秋斗にスキルで覗いてもらえよ、整理してくれるぞ」
楓は陸のアドバイスを受け、秋斗を見る。
「いい、覗かれたくないこともある」
「覗きいてねえよ」
「ははは、無断で覗いてやれよ、うっとおしい」
「楓を押し倒してやって、秋斗」
「お前らも、楓をからかうな。楓が全快したから、変に気を使っていないのはわかるが」
秋斗は楓の言語化できない課題に対する覚悟を感じ取った。
陸とエリザは、秋斗と楓が「恋愛感情を超えた同志」として強固な連帯感で結びついたことを悟った。
しかし実際は、楓だけが空回りしていた。
翌日。一行は『猿隠れの谷』へ向かう道すがら、道中にあるランク8級上位ダンジョンに向かった。
装備更新後の実戦投入と三人のLv. 30を目指した。
新たな装備は、秋斗の【解析演算】による最適化を極限まで高めていただけでなく、共有スキルにもその効果が表れた。
最短ルートで敵グループを誘導し、楓とエリザ、陸のスキルが連動した。
楓の完全解放された弓矢は、これまでとは比べ物にならない火力を生み出した。
戦闘は極めてスムーズに進み、他の冒険者が何日もかけて攻略する層を、彼らは数日で突破した。
■:猿隠れの谷の麓
ダンジョンの風は、生温かく湿っていた。
だが、楓の動きはその湿気さえ切り裂くように軽かった。
「陸、右前方、二体。エリザ、支援お願い」
冷静な声が響く。矢が放たれ、音もなく敵の眼を貫いた。
陸が即座に詠唱を重ねる。
「悪意あるものたちの足を止めよ―ストーン・スパイク―!」
地面から石の槍が生え、秋斗に迫る複数の魔獣の足を止める。
「秋斗、今!」
「ああ!」
剣の閃きが走り、敵は瞬時に霧散した。
戦闘はほんの数十秒。
秋斗の解析演算が最短ルートを示し、三人は迷いなく連携する。
声を出さずとも互いの意図が共有スキルを通じて伝わる。
「……完璧ね」
楓が小さく呟く。
髪を払うと、解呪後の黒髪がさらりと肩に流れた。
その指先の感触が、戦場に立つ自分が“本当に戻ってきた”証のように思えた。
「楓、命中率、上がってないか?」
「ううん、ただ本調子に戻っただけ」
彼女はそう言って弓を背に収めたが、その表情には確かな自信があった。
「さて、そろそろか……」
秋斗が呟くと、光が三人を包み込む。
そして、ダンジョン最下層で、ついに三人はLv. 30に到達した。
【秋斗・エリザ・陸:Lv.30に上昇】
【秋斗:身体強化を習得】
【エリザ:消費魔力逓減を習得】
【陸:支援魔法(鈍足/魔封じ/スロー)を習得】
「お、デバフが来た! ようやく、前提が安定しそうだ」
「俺一人だからな、後衛が三人。あと二人は、前衛が欲しいな」
「揃うまでは分散させようぜ」
「ああ、戦闘中の司令塔を後ろにいる楓に任せたい。俺が振り向いて指示してる暇がない」
「わかった。戦闘中の指揮は私がやる。秋斗、前線維持をお願い」
「了解」
互いの視線が交わり、誰もが確信していた。
このパーティは、すでに“ただの臨時編成”ではない。
目的に向かって進むための、ひとつの“意志”になっていた。
パーティの総合戦闘力は飛躍的に向上した。
彼らがダンジョンを後にする際、すれ違う他の冒険者PTが、ボロボロになった秋斗を見て心配の眼差しを向けてくる。
―強くなる目標に向けた準備は、ひとつひとつ叶っている。次は楓の故郷だ。―
■:猿隠れの谷
猿隠れの谷は、中規模の町ながら冒険者の活気で満ちていた。外見上は、彼らが先に立ち寄った町よりも資金が潤沢に流れ込んでいるように見える。
高レベル装備の冒険者が多い一方、喧噪さは荒くれどもの雄たけびではなく、談笑する明るい声が町の雰囲気を表していた
秋斗は、さすがはレベル50~60のランク5級のダンジョンが支える町だと思った。
楓は町の賑わいを見ても、顔色一つ変えなかった。
―見た目の明るさに騙されないで、秋斗。人が多いということは、悪い奴もそれなりにいるってことよ―
彼女の冷静な声が、集団意識を通じて皆に届く。
―この賑わいは、私たち三組を排除するために仕組んだ『銀の刃』による一時的な投資と支配が生み出したものよ―
「貧しいままだって、腐る村はあるさ」
「言えてるな」
「ゲートウェイのリビングデデッドよりマシじゃない」
三者三様の印象を受けたようだ。
楓は呆れたようなため息をつき、元PTメンバーである昏睡状態のミカ、ユキ、呪詛を強く受け意識はあるが動けないアヤ、サキのそれぞれが二部屋に分かれ隔離されている。
其の四人がいるギルド併設の施設へ向かった。
施設に着くと、まず昏睡状態の二人は衰弱しきった状態で横たわっていた。
楓は硬い表情のまま、一歩前に進み出る。
「秋斗、エリザ。お願い」
「おう」
「任せて」
【解析演算―アナライズ・オペレーション―】
『対象:
(詳細)精神攻撃や恐怖を引き起こす「呪歌」のデバフ/怨霊獣系統ボス ランク5級ボス(レベル58)
― 彼女に纏う呪いの歌声を消し去れ! いざ! ピュリフィケーション!―
エリザは頷き、一人目の美香に浄化の処置を施した。聖属性の光が呪詛の残滓を焼き払う。
一度目の処置で、彼女が目をさます。部屋には呪詛の残滓が霧散した。
「もう一度、いく」
― 呪い残滓を塵と化し滅せ、ピュリフィケーション!―
美香は長い夢から覚めたように、
視線は隣のベッドに横たわっている幸に向かった。
二度の処置で、幸の意識はすぐに戻った。
幸は、楓の姿を見てすぐに状況を理解し呪詛から解放されたことに心底感謝した。
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