異世界転生した先でヒロイン全員に好かれてるのはきっと気のせいなので魔王を倒さず帰りたいと思います

六道 傑

序章 初めての転生

第1話 ベリー・セレニア

学校の帰り道、私はいつも通りの道を歩いていた

空は淡い夕暮れ色。心地よい風が吹き

少し散り始めた桜はまだ夕暮れと重なって綺麗だ

しかし次の瞬間、視界が揺れ、地面が消えた



「……え?」


気づけば、見知らぬ草原に立っていた。周囲には大きな樹々と澄んだ川が広がる。

足元には小さな動物たちがいるが、人間の姿は見当たらない

明らかに、私の知っている場所では無い


「……ここ、どこ?」


私は冷静に状況を確認し、背中にかかる銀髪を一度振り払った

ひとまず状況を整理したい

何とか人を見つけないと……

そう思って辺りを散策する

木や草をかき分けて見渡しのいい場所についた


「なにこれ……」


初めて見る景色におもわず驚愕する

でも、西日が心地よく、辺りの緑風景に思わず見とれる

綺麗な風景、こんな時じゃなきゃ楽しめただろうに

今はここがどこなのかを調べるしかない


すると「キャーー!」という悲鳴が聞こえた

明らかに恐怖の悲鳴だ

人がいる喜びよりも、不安の方が勝つ

駆けつけると派手なドレスを着た姫っぽい女の子と

2人の武装した人と狼が戦っていた

片方の人は倒れてしまっている

兵士さんなのかな……?


「来るなバケモノ!姫様!お逃げ下さい!」


「そんなのダメです!貴方達も逃げなくては!」


よく見たら片方の兵士は既に重傷だ

見るに堪えない状況に思わず私は狼と兵士の間に割って入る


「な、なんだね君!君が勝てる相手じゃない!」


体が勝手に助けてたんです、という言い訳は流石に飲み込んだ

こういう時の対処なんて分かるわけない

でも、このままじゃ皆、狼に食われる

やるしかないが、殺すのも嫌だし……


「これ、借りるよ」


倒れた兵士が置いていた槍を持ち出し

その槍で横にフルスイングする

狼の体にヒットし、その狼は野球ボールみたいに

遠くに弾き飛ばされてしまった

え…………

本当は打撃による痛みで逃げてもらう予定だったのが

予想以上の自分の力にビックリしてしまう


「かっこいい……」


後ろで姫と呼ばれた人がなにか呟いたのが聞こえ

「怪我の手当を早く」とだけ伝えると

姫は慌てて兵士に手をかざし

緑色の光が手から宿って

兵士の傷が癒えていくのが分かった

え、なにそれ……


「な、なんてパワーだ……ありがとう、旅の人よ」


「あの……それは?」


「姫様は治癒魔法が得意なんだ、見たことがないのか?」


ちゆ……まほう……

さっきから兵士だの、姫だの、薄々勘づいてたけど

ここ、異世界というものでは

転生したってこと……?


来た理由がわからない以上、帰る方法も分からないかもしれない

どうしたものか……


「国から感謝の意として褒美をあげたい、一緒に国に来てくれるか?」


このまま行き先が分からない状態でうろつくのも危ない

私は頷くと

兵士さんはもう1人の兵士を担いで先に進んだ

私は後ろからついて行くと姫が私の隣に来た


「あの……お強いんですね?」


「え、そうかな?そうかも」


「謙遜なさらないで下さい、あんな力、この世界のどこを探してもいません」


そんな持ち上げなくても……

ここは素直に受けとっておくか


「それにしても、こんな所で何をしてたの?」


「最近、国では奇病が流行ってまして、それに効く薬を探していたんです。まだ見付かっていませんが……」


姫が直々に出てくるってことは

相当大変なことになってるんだな

というか、それ私にも伝染しないよね……


「あの……その手の甲にあるものは?」


姫に言われた右手の甲には

私も見た事ないアザがついていた

ここに来るまでについた傷にしては

すごく綺麗で、紋章のようなアザだ


「ここに来るまでに無かったね……」


「その紋章、どこかで見たような…国の書物を漁れば分かると思います。貴方のお名前を教えていただいても?」


「えっと……神楽愛華」


「カグラアイカ様ですね?私はベリーと申します」


「うん、よろしくベリー。ていうか愛華でいいよ」


「よ、よびす……!?んんっよろしくお願いします!アイカ様!」


しまった、年下っぽいからつい呼び捨てしちゃったけど

姫なんだったら私より偉い人だよね


「ごめん、ベリー姫様って呼んだ方がいいかな」


「いえ!そのままで!そのままで大丈夫ですよ!」


「そ、そう?」


何だかんだ、ここに来て初めて会う人が話のわかる人でよかった

異世界か……この先どうなっちゃうんだろう





「かっこいい女性の方と仲良くなれた上に呼び捨てで呼ばれるなんて……産まれて初めてです……!もっともっと、この人と仲良くなりたい……」


そんな姫の言葉は

私に届くことはなかった

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