あやの しのぶ

第1話 視点1

 星間調査部では、時空間瞬間移動の実験により、先日発見されたテルン星の観察を行っていた。その星の高知能生物『ヒューマニー』はペルソナ星人とは違い、身体を構成する物質均一で、微弱な電気信号で体内を動かしていることが確認されている。


 会議室には一枚の扉とコンピューターが置いてあり、五人の男女が制服に身を包み、今後の実験内容を話している。


「へえ、この扉がテルン星と繋がるってことか。で、今から実際に行けるかって実験すんの?」

「どんなところかな?」


 シウテンはテーブルに肘をついて質問をし、シズカはテルン星へ期待に胸を膨らました。


「いいえ、当分の間は今までと同じように擬態カメラでの観察よ」

「星の気候や植生から私たちの身体の影響がないか確認が先だ」


 ルシアはシウテンの質問を小型端末を持ちながら否定し、ヤコは彼女の発言の補足をした。


「なんだ、つまんねえの」


 シウテンはテルン星に行けないと知り、不貞腐れてテーブルに突っ伏した。


「つまらないとか、言うんじゃない」サーベイはシウテンを注意する。


 ガチャン。開くはずのない扉が開き、陽気な鳴き声が響いた。そこには一匹のヒューマニーと思われる生物がいる。ヒューマニーは飾り気のない上下分かれている服を着て、カバンを持っていた。ヒューマニーは「うぇー」と鳴いて首を傾げてた後、後ろを振り返る。お互い数秒の沈黙。


「捕獲しないと‼︎」


 シウテンはブレスレット型ポーチから警棒型スタンガンを取り出してヒューマニーに立ち向かう。しかしヒューマニーは怯えることなく咆哮を上げ、カバンを振り回しシウテンに向かって来た。そして、ヒューマニーの振り下ろしたカバンはシウテンのすねに当たり、彼は前に倒れ込んだ。


「シウテン‼︎」


 シズカは悲鳴を上げ、サーベイと一緒にシウテンの元にかけよる。だが、ヒューマニーはペルソナ星人に比べて約一・五倍大きさ。二人はシウテンを助けようとするが、簡単に飛ばされてしまった。


 ヒューマニーはシウテンに馬乗りになり「ソーカールー」と低音に鳴きシウテンの首をしめる。それでは飽き足らず、ヒューマニーはシウテンの額を持って強く引っ張った。


「シウテンを離してよ!」

「シズカ‼︎無理をするな。」

「でもこのままじゃシウテンが‼︎」


 シズカとサーベイは既に満身創痍。それでもシウテンを助けるために、ヒューマニーに何度も立ち向かう。


 一方その頃、ヤコとルシアは時空間瞬間移動の実験用コンピューターを確認していた。


「実験的に繋いだ場所がどこかの扉だったみたいだ」

「うそ⁉︎ あそこで暴れているのは本物のヒューマニーなの⁉︎ 前に見た映像ではこんな暴れ方していなかったわ」

「ああ、何か様子がおかしいどうにかして暴走を止めないと。こちらの環境がヒューマニーを暴走させるのか?」


 ヤコは焦らず一度深呼吸をして、コンピューターのキーボードを叩く。

 ルシアが物音に気づいて振り向くと、ヒューマニーが腰を曲げて自分たちの方へ向かってきているのに気づく。このままでは、ヤコとコンピューターが危険だ。今時空間瞬間移動の誤作動が起きれば甚大な被害が出るだろう。


「……あの、大丈夫ですか?」

 ルシアは、コンピューターを守るようにヒューマニーに声をかける。そうすると、ヒューマニーはとろけたような笑顔で「アートー」と鳴いた。幸いにもヒューマニーはコンピューターよりも机が気になるようだった。


 ヤコはそっとルシアとヒューマニーの間をすり抜けて、サーベイ達の元へ向い現状を伝える。


「シウテン、勝手に動くな。先生、どうも実験的につなげた座標からヒューマニーが来てしまったようです」

「うるせえよ。ってか、ヒューマニーってあんな獣みたいな動きしてたか?」

「翻訳機能使えば会話できる知能あったよね?」

 

 シウテンとシズカは疑問を持っている。


「実験は成功したのか」

「はい、捕まえますか?」

「いいや、普段の観察と別の動きをしている。一度返そう」

「わかりました。既に座標コードを読み込んでいるので、終わり次第対応をします。いいか、シウテン。これ以上ヒューマニーを刺激するなよ」

「わかったよ」


 ヤコはシウテンに念押しした。

 ピピピっと室内に電子音が響く。四人がルシアとヒューマニーを見ると、コンピューター近くのテーブルの上で、ヒューマニーが飛び跳ねている。


「もしかして、テーブルの自動移動ボタンを押したのか!」


 ヤコが慌ててヒューマニーとルシアの元へ向かうが、テーブルは足を折りたたみ動き出した。ヒューマニーは幼児のようにテーブルを乗りこなして上機嫌だ。ルシアがさり気なく広い場所へと誘導する。次の瞬間ヒューマニーはテーブルのボタンを操作してスピードを上げ、シウテンに向かって行き、シウテンの腰を強打する。


「痛ぇ!」

 ヒューマニーは「おーにーたーじー!」と元気に鳴いていた。しかし、ヒューマニーの顔がだんだん青くなっている。

 サーベイはハッとして、


「もしや、あのヒューマニー泥の中かもしれん。いかんこのままだと吐くぞ」


 急いでブレスレット型ポーチか転送型らゴミ箱を取り出してルシアに渡す。


「泥の中って……。そんな危険なものを摂取しているなんて」

「彼らにとっては嗜好品かもしれんがな」


 二、三十分もすると、ヒューマニーの顔から色がなくなり、テーブルに座り込み嘔吐する。ヒューマニーの嘔吐物は隣の密封ケースへ転送された。

 その後ヒューマニーは眼球と呼ばれる機能から水を出し始め、ギャンギャンと鳴いた。


 ピピピ ピピピピ


 帰還用の扉が用意された。ルシアはヒューマニーにカバンを手渡し、扉へと促した。


「早く帰れ!」

「ちょっとシウテン!」


 シズカはシウテンを注意し、ヒューマニーも顔を膨らまし返事するかのように鳴く。ヒューマニーはカバンとゴミ箱を持って扉からでていった。ヒューマニーが去ると、扉も消えていく。

 ルシアには一つ心配事があった。


「先生、ヒューマニーがゴミ箱を持っていってしまいましたがよろしいのですか?」

「生態を調べるのに使えるだろう。座標も研究部に届くようにしてある」


 サーベイは朗らかに続ける。


「意図せずの接触だったが、とても良い調査になった。とりあえず消毒班に連絡じゃな」


 サーベイはとてもにこやかだった。

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