第24話

 ひかるは青年と書店近くのファミレスに行った。

 ウェイトレスに案内されたテーブル席にひかると青年は座った。

 目の前に座っている、初めて知りあった青年に、ひかるは緊張していた。

 青年はテーブル席に置いてあったメニューを手にした。

「何にする?あっ、このチーズケーキ美味しそう!」

 言いながら青年は、ひかるにメニューを見せた。

 ひかるは青年と一緒に、メニューを眺めた。

「チーズケーキ好き?」

「はい」

「じゃあ、チーズケーキとドリンクバーのセットにしようか」

「はい」

 オーダーを済ませた青年は、ひかるに向き合うと済まなさそうに言った。

「勝手に決めちゃって、ごめんね。もっと、ちゃんとメニューをみたかったよね?」

「そんなことしたら迷っちゃって、迷惑をかけます」

「迷惑だなんて」

「チーズケーキ大好きです」

「良かった!ドリンク、取りに行こうよ」

 ドリンクを取りに行き、席に戻ったひかるにあらためて青年は言った。

「無理矢理連れてきて、ごめんね」

 やさしく言う青年に、ひかるはほっとした表情になった。

「名前を、聞いても良いかな?」

「……倉木ひかるです。平仮名のひかるです」

「ひかるちゃんって、言うんだ!可愛い名前だね。ひかるちゃんに、ぴったりだよ」

 ひかるは顔を赤くした。

「あっ、ごめん……初対面なのに、なれなれしく名前で呼んで」

 ひかるはうつむいたまま、首を横に振った。

「名前で呼んでもいいかな?」

「……はい」

「良かった!僕は、筒井つつい。筒井つよし。全然、強そうじゃないだろ。完全に、名前負けしている」

 ひかるはやっと笑顔を見せた。

「私はひかるって、名前なのに。輝いていません。私も、名前負けしています。だから、この名前嫌い」

「そんなことないよ!ひかるちゃんに、ぴったりだよ!それに、僕はひかるちゃんみたいなおとなしい子が好みのタイプだし」

 初めて聞く言葉を耳にしたひかるは、照れ隠しをするように、慌ててグラスを持ってジュースを飲んだ。

「僕ね。明るい子より、むしろおとなしくて、落ち着いた子が好きなんだ」

 ひかるは、黙り込んでしまった。

「ごめん!突然こんなこと言われても、困るよな」

「いえ、嬉しいです」

 ひかるは、小さな声で言った。

「良かった」

 その時、オーダーをしたチーズケーキが運ばれてきた。

 ひかるとつよしはチーズケーキを食べ、食べ終わった後、携帯のライン交換をした。

 ひかるにとって初対面の相手だったが、少しずつ話が盛り上がり、時間はあっという間に過ぎていった。

 ファミレスを出たひかるとつよしは、電車のホームに立っていた。

 電車は、出たばかりだった。

「突然声をかけて、ファミレスに誘ったりして、ごめんね」

「いえ、ごちそうさまでした」

 ひかるは、頭を下げた。

「そんな……ファミレスで、ケーキとドリンク・バーをおごっただけだよ。おおげさだなぁ!」

 つよしの言葉に、ひかるはそっとほほ笑んだ。

 やがて、ひかるが乗る電車がやって来た。

 ひかるは、つよしと駅のホームで別れた。


 総合住宅に住む自分の部屋に着いたひかるは、ベッドに座って手の中の携帯をじっとみつめていた。

 突然携帯の着信音が鳴り、ひかるは携帯を落としそうになった。

 慌てて携帯をつかみ、着信ボタンを押した。

「……もしもし」

 なんとか、落ちついた声を出すことが出来た。

「筒井です……ひかるちゃん、今大丈?」

「はい」

「今日は、ありがとう。また、会ってくれないかな?」

「……はい」

 つよしはひかると会う約束をし、取り止めのないおしゃべりを楽しんだ。

 通話が終わり、ひかるは携帯を握り締めた。

 出会ったばかりの、つよしのことを考えていた。

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