第11話

 この日も学校の門の外で、ひかるは校舎から出てくる教師を待ち伏せていた。

 教師が門から出てくると、ひかるは一定の距離をあけて教師の後をつけた。

 早足で教師の横に並び、内気な性格のひかるは、初めて自ら教師に声をかけた。

「あの」

 教師は立ち止まり、ゆっくり顔を上げた。

「あの……先生。助けてくれてありがとうございました。お礼を言うのが、遅くなってすみません」

 ひかるのことを忘れてしまったように、教師は黙ったままひかるをみつめていた。

「廊下で……」

 ひかるが言いかけようとした時、教師は思い出したように小さくつぶやいた。

「ああ」

「本当に、ありがとうございました」

「わざわざ、それを言いに?」

「お礼を言わなきゃって、ずっと気にしていました。私、倉木ひかるです」

「倉木さん……」

「はい」

「遅いから、帰りなさい」

 そう言った教師は、ひかるに背を向け歩き出した。

 教師が歩いていく後ろ姿をひかるは、じっとみつめていた。

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