【BL】兄とイケメン幼馴染の距離は、今日もバグっている
🐏御羊 藍沙🐏
おはようからおやすみまで①
「兄貴ってさ、私に内緒で利壱さんと付き合ってたりしないよね?」
「……は?」
兄の
私と同じ色素の薄い薄茶の髪が、朝日をうけてキラキラと綺麗だ。
「朝から何を言ってるんだ、お前は」
訝しげにこっちを見てくる眉間に、深い皺が出来ている。
あら怖い、せっかくの美形が台無しだわ。
まあ良くあることだと、私は朝の一杯を啜る。
やっぱり朝は抹茶オレ、これに限るわね。
「別に? 友達に、兄貴と利壱さんの事話したら「それ絶対付き合ってるよ」って食い気味に言われたから気になっただけよ」
「お前、ボク達の事を変な風に話してないだろうな……」
失礼ね、見たままを話してるわよ。
二人の話を聞かせている友人から、お礼と称して手作りのお菓子を大量に貰っているのはまあ、黙っておこう。
「だって、兄貴たちいつも一緒だし、距離もなんだか近いじゃない?
友達にしては親密すぎると思うわ」
「そんな事は無いと思うんだけど」
「その筋の友人が言ってるんだもの、間違いないわよ」
「どの筋だよ」
まあ、薔薇を嗜む淑女とでも言うのだろうか。
私はそういった趣味は無いけれど、兄と幼馴染のビジュアルを見ればそういった邪な想像をする女の子も一人や二人や三人くらいは出てくるかも知れない。
「……ボクとリーチが付き合うなんて、恋人だなんて」
僅かに、兄の薄茶色の瞳が苦しげに揺れるのが見える。
「有るわけがない」
兄は溜息をつきつつ、お手伝いさんが日中に作ってくれている常備菜のタッパーを開ける。
中身は私の大好きな人参と枝豆のツナ炒めだ。やった、嬉しい。
「そうなの、私はてっきりそんな仲なのかと思ったわよ。
隣の部屋から変な物音が聞こえても、スルーしなきゃと覚悟していたくらいだわ」
「おい、変な想像をするな」
「だって私と兄貴の部屋の壁、薄いんだもの。
たまに利壱さんと兄貴のやたらテンションの高い歓声が夜中に聞こえたり、兄貴の子守唄が聞こえたりするのよ」
「うぐ、それは悪いとは思うけど……」
テーブルには弁当箱が三つ並んでいる。
一つのは私の、一つのは兄の分だ。
「今日もお弁当、豪華ね」
「まあ、昨日の残りとお手伝いさんが作ってくれた常備菜がメインでボクは卵しか焼いてないけどな」
『みつせ産婦人科』の院長と副院長である両親は、明け方に破水した妊婦が二人居るからと先程家を出ている。
……十月十日腹の中で尊い命を育んできた彼女たちがついに出産を迎えるのだから、全身で、全力で、総力をかけてサポートをしてほしい。
だからその、なんだ。
この三つ目の弁当箱は両親のものではないのだ。
「ふうん、そうなの」
兄の作る卵焼きは、母の作る塩味のものではなく砂糖をほんの少し加える甘いものだ。
それが好きな人間が、居るからだ。
兄は私の物言いが引っ掛かったようで、険しい顔で私を睨む。
「冗談でもそんなこと、二度と言うなよ。
……リーチはモテるんだから、いずれ彼女くらいすぐ作るさ」
多分牽制のつもりなんだろうけれど、嘘が下手な人だ。
――自分の言葉で傷ついていたら、世話ないじゃない。
私はコーヒーを飲みつつ、軽く頷いた。
「確かにそうね。
失礼だったわ、利壱さんに」
「ボクにも失礼だと思わないのか」
「兄貴、もう七時よ」
私の言葉に、弾かれるように兄が時計を見る。
あたふたと弁当の蓋を閉じた兄が、身に付けたエプロンもそのままに玄関へと向かう。
「唄子、トースト三枚頼む!」
「はいはい、分かったわ」
「一枚はあんまり焼きすぎないようにしてくれ!」
「分かってるわよ、早く起こしてきたら?」
シッシと手を振って兄を見送れば、階段を登る音が聞こえた。
「おい、リーチ! いい加減起きろ……!」
幼馴染である
昨日も夜中まで話し声がしていたので、さぞかし盛り上がっていたのだろう。 ……多分、健全な意味で。
そうでなくても兄は毎朝ああやって、利壱さんを起こしに家まで赴いたりしたりしているのである。
(……まあ、付き合ってるって言われても仕方ないと思うんだけどね)
漫画や小説お馴染みの幼馴染ムーブ、『朝の弱い幼馴染を起こしに行く』を約十年ほどやり続けているのだ、妹ながら恐れ入る。
さて、利壱さんは朝が弱いと聞く。
上でワイワイと兄が何やら怒鳴っているが、物音がした後急に静かになった。
大方、体格のいい利壱さんにベッドに引きずり込まれたんじゃないかしら。
「ミイラ取りがミイラになったかしらね」
取り敢えず、トーストを焼いてしまおうか。
私は食パンを取り出しながら、疑惑の二人が降りてくるのを待つのであった。
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