第2話

― 研究報告書(抜粋) ―

発見報告:199█年5月16日

発見者:私企業研究チーム(名称非公開)


山間部で異常な寿命を持つ植物群を採取.

葉面の細胞構造が老化しない特異な性質を確認.

酸素供給実験で植物の呼吸周期が停止せず,理論上死なない植物である可能性が浮上.






― 研究ログ(破棄前記録) ―

05/20 サンプル抽出成功

老化を抑制する未知の成分を確認.名称「E-Extract」

服用試験を行ったラットが20日間で皮膚再生.白髪の消失.


05/23 主任研究員の発言:「これは再生医療の革命だ」

同夜,主任が研究棟屋上から転落死.

遺体の損傷は少なく,血液が赤黒く変色していた.


05/24 副主任が発狂

「植物が見ている」「根の奥に声がある」と叫び,試験体を破壊しようとして制止.


05/28 残る研究員3名が連絡途絶

森林調査で樹皮の内部に埋め込まれた人体組織を発見.

DNA鑑定の結果,行方不明の研究員と一致.






― 研究報告書(抜粋) ―

残存したデータベースを解析した結果,当該植物の遺伝子配列は戦時期のE細胞由来である可能性が高い.

50年前の事故で外部に流出した試験用種子が山中で自然繁殖し続けていたと推測される.


また,近隣の動植物から同様の遺伝子断片が検出されている.

E細胞は生態系全体に組み込まれつつある.






[以下,該当資料]

― 極秘研究報告書(抜粋) ―


件名:E細胞由来遺伝子の植物細胞組換実験

実施機関:国立生体再生学研究所

日付:194█年4月2日

機密区分:A-1(破棄予定資料)


概要

目的:老化抑制・再生能力向上の可能性を持つ未知の細胞群(E細胞)の植物組織への導入実験

試料提供元:不明.遺伝子配列が被験者Eと類似.


葉の切断後,数時間で再生.

根からの分裂速度は従来比で約30倍.

異常なほどの耐環境性を示し,枯死個体なし.


実験主任はこれを「老化抑制物質を産生する植物」として特許申請の準備を進めていた.

しかし,研究棟で不審な事故が発生.

防疫記録によれば,試験区画が高温化し種子の保管室が自然崩壊.

同日夜,非常用換気装置の作動により,外部へ種子が流出した.


報告書はここで途切れている.

以降の研究者名はすべて黒塗り.

[資料閲覧終了]






― 機密保全局報告書(最終追記) ―

本件に関わった全研究者が死亡または行方不明.

プロジェクトの再開を望む者なし.

ただし,現地の植物群はいまだ枯死せず,観測衛星によるスペクトル分析で夜間にわずかな発光を確認.






― 背景注記(閲覧禁止・A-1権限)―

※ 本報告書は,戦中の「第三野戦病院」において被験者Eの体細胞から得られた標本を用いた戦後再現実験であることが後に判明.

実験事故により拡散したE遺伝子は,現代における若返り研究の起源である可能性を示す.


ただし,E細胞には「情報的伝達性」が確認されており,言語・映像・思考を通じても感染が発生しうる.


本報告書を読む者は,観測者として感染リスクを負う.

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