第12話
「じゃあ、次は食事のメニューだな。そうだなあ、俺は今日は中華の気分だな」
義兄妹盃を交わした天飛さんは今度は食事の注文に入ったようだ。
中華料理か。どんな料理が出てくるんだろう。
まさか北京ダックとか? さすがに家での食事にそれはないよね。
「僕は今夜はフランス料理で」
今度は暁刀さんが食事を注文する。
へ? みんなで中華料理を食べるんじゃないの?
もしかしてひとりひとり別々の料理を自由に注文するスタイルってこと?
「私はイタリアンでお願いします」
眼鏡を指でクイッと上げながら静かな声で愛斗さんが自分の食事メニューを告げる。
やっぱり別々に注文するんですね。
ピンポイントで料理名を言うんじゃなくて何系の料理をっていう感じで指定するのか。
でもそれってこの家の食事を作る人ってめっちゃ大変なんじゃないの?
だってどんな料理にも対応しなきゃなんでしょ。
それに同じ料理人が中華もフランス料理もイタリア料理も作れるとは限らない。
そうなるとこの家の料理人は何人もいる可能性がある。
お金持ちの家というのはそういうものなのだろうか。
「凛子は何にする? ここの料理人の作る北京ダックはうまいぞ。フカヒレスープもイケるしな。俺と同じ中華にしろよ」
天飛さんは自慢気な表情で私に中華料理を勧めてくる。
もしやと思ったが北京ダックが出てくるのか。
食べるかどうか分からないのにここの料理人はどんな注文にも応えられるように仕込みをするのかな。
それって料理人泣かせでは。
「リンリンは僕と同じフランス料理だよね? 牛肉の赤ワイン煮は絶品よ」
暁刀さんがニコニコと笑顔を浮かべて私を見つめる。
おっと、今度は牛肉の赤ワイン煮か。
それも美味しそうだけどフランス料理を選んだ場合はフルコースということになるのかな。
いきなりそんなの贅沢過ぎない?
「何を言ってるんですか、天飛兄さんも暁刀兄さんも。女の子が好きな料理はイタリアンです。凛子さん、この家のスパゲッティは最高レベルです。私と同じイタリアンにしませんか?」
愛斗さんが自信満々の顔で眼鏡をクイッと指で押し上げる。
う~ん、本格スパゲッティも魅力だな。
確かに私はパスタ好きだしなあ。
「いや、凛子は俺と同じ中華だ」
「違うわよ、リンリンは僕と同じフランス料理なの!」
「いいえ、私と同じイタリアンです」
三人の義兄たちがお互いに鋭い視線でそう主張する。
なぜかテーブルを挟んで視線だけで火花が散っているように見えた。
え? もしかしてこの状態で私が誰かと同じ料理を頼んだら兄弟の間で禍根を残すんじゃないかな。
なぜこの三人が自分と同じ料理を私に選ばせることにこだわっているのかは分からない。
だけどここで三人の義兄の仲に亀裂が入るのは避けたい。
だってこの三人の義兄たちは怒らせると怖い人たちだと思うから。
それなら私にできることはただひとつ。
「わ、私は、和食がいいです……」
小声で私は三人の義兄たちと被らない料理を選択した。
中華とフランス料理とイタリアンを作る料理人たちにさらに和食を作らせることは気が引けるがここで流血事件になる方が困る。
すると三人の義兄の視線が私に集まった。
「気が変わった。俺も凛子と同じ和食にする」
「僕もリンリンと同じ和食にしてちょうだい」
「私も凛子さんと同じ和食でお願いします」
は? あれだけ他の料理を勧めておいてみんな私と同じ和食に変更するの?
それなら最初からみんな同じ料理でよくない?
「皆さんも同じ和食でいいんですか?」
「もちろんだ。同じ釜の飯を食うのも義兄妹として必要なことだしな」
「そうよ、リンリンが食べる物と同じ物を食べてるって思うだけで僕は幸せだもん」
「私も凛子さんと仲良くしていくためにはまず凛子さんの好みを知らなければなりませんから同じ料理を食べることは必要不可欠です」
三人の義兄たちはさも当然だと言わんばかりの視線を私に向ける。
「そ、それなら、これからはみんなで同じ食事をすればいいのではないでしょうか?」
そうすれば料理人たちも毎回大量に仕込みしないで済むはずだし選ばれなかった料理が無駄になることもない。
食べ物を無駄にするというのは私の心情に反する。
「それもそうだな。それならこれからは凛子の食べたい料理を俺たちも食べることにするか」
「賛成よ」
「異議はありません」
三人の義兄たちの意見はまとまったようだ。
「それじゃあ、凛子が食べたい料理を料理人に伝えてくれ。俺たちがそろって食事をする時だけでいいから」
「わ、分かりました」
う~ん、それって意外とプレッシャーかも。
でも流血事件になるよりはマシか。
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