第7話
部屋の中の物を確認すると一応最低限の生活に必要な物があるのは分かった。
なぜか大学で使う本などもそろえられている。
よく私が大学で使っている本とかまでそろえられたな。
ヤクザさんは何でも用意できる猫型ロボットなのだろうか。
それでも今まで自分なりに勉強したことを書き留めたノートとかはない。
さすがにそこまで用意はできなかったようだ。
う~ん、あのノートないと困るんだよなあ。
天飛さんにはアパートに帰るのNG出されたけど隙を見てアパートに戻ってそれだけでも取って来たいな。
私はそこで部屋の隅でおとなしくお座り……もとい、正座して次の私の命令を待っている吾郎丸さんをチラリと見る。
吾郎丸さんは付き人と言っていたのできっと私のそばから基本的に離れないように言われているのだろう。
たぶん私が外出する時は必ず吾郎丸さんはついてくるに違いない。
それって付き人ってより監視人みたい。
でも天飛さんは隙が無い人だったけど吾郎丸さんなら隙をついて身を隠すことができるかも。
アパートで必要な物を手に入れてからまたこの屋敷に戻れば天飛さんも文句ないだろうし。
しかし吾郎丸さんの隙をつくにしてもこのお屋敷にいる時では無理だ。
外出時が一番狙い目だろう。
仕方ない。今はおとなしくしていよう。
それにしても天飛さんの話って本当なのかな。
私は自分の携帯電話を取り出して母親の携帯電話にかけてみた。
しかし「電源が入っていない」と言われ通じない。
お母さんと連絡できないのは本当のようだな。
それなら天飛さんの話も嘘じゃないのかも。
未だに自分が極道の親分の義娘になり極道の義兄が三人もいると言われても信じられない。
あ、でも末の義兄は大学生だからまだヤクザさんというわけじゃないか。
だけど暴走族の総長をやってるみたいだし似たようなものだよね。
極道や暴走族など昨日までの私の生活にはない言葉ばかりだ。
そもそも自分が生涯においてそんな世界の人たちと関わり合いになるなんて思っていなかった。
こうなったのも今年の初詣の時にお賽銭をケチって「素敵な彼氏ができますように」なんて高望みした私への天罰だろうか。
天飛さんはイケメンで私のタイプだけど義兄だしヤクザだもんな。
義兄でヤクザって肩書きがなければこの出会いに喜んだかもしれないのに。
天飛さんの顔を思い浮かべながら私は溜息を吐く。
理想のタイプに出会えたのにそれが世間で「禁断」と言われる間柄なら出会わない方がマシだ。
「お嬢。溜息なんてついてどうしたんすか? 何か気に入らないことでもありやしたか?」
「いえ、なんでもないです。吾郎丸さん。気にしないでください」
吾郎丸さんに天飛さんとの禁断の恋について考えていたなど言えない。
「それよりまだ夕食まで時間があるならこの屋敷内を少し案内してくれませんか? 吾郎丸さん」
「分かりやした。ご案内しやす。屋敷内ならお嬢の自由にさせるように若頭から言われてるんで」
それって屋敷の外では自由にさせるなってことだよね?
まあ、今はまずこの屋敷の見取り図を頭に入れることが大事だからいいか。
何かあって逃げ出すにしても屋敷の中のことが分かってないと逃げれないもんね。
吾郎丸さんは私のそんな思惑など気付いた様子もなく屋敷内を案内してくれる。
お風呂やトイレや食堂などいろいろ部屋がある。
その時、廊下の反対側から若い私と同じ年齢くらいの男性が歩いてきた。
それまですれ違う男の人たちと違い、その男性はスーツを着ていない。
今時の若者が着るラフな姿。眼鏡をかけたその姿は好青年と言っていいくらいだ。
おお! この屋敷で普通の一般人のような人に出会うとは。
この人誰だろう。
すると吾郎丸さんがその好青年に頭を下げた。
「お帰りなさいませ! 愛斗さん!」
愛斗さん……?
え? もしかしてこの好青年が暴走族の総長をやってるという私の義兄なの……?
平凡な一般人にしか見えないんですけど!?
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