心の中の宝物

雨音|言葉を紡ぐ人

第1話 片付けられない部屋

ダンボールに囲まれた部屋で、私は途方に暮れていた。来週には新しいマンションに引っ越す。もっとシンプルに、もっとスマートに暮らしたい。そう思って始めた断捨離だったのに、全然進まない。


私、藤崎奈々は26歳。アパレル企業でバイヤーとして働いている。仕事では「センスがいい」「判断が早い」と評価されているのに、自分の部屋を片付けることすらできない。情けない。


手に取ったのは、引き出しの奥から出てきた小さな箱。開けると、そこには中学生の頃に友達と作ったミサンガが入っていた。色は褪せて、ほつれている。もう使えない。捨てるべきだ。


でも、指先でミサンガに触れた瞬間、あの日の記憶が蘇った。


親友の千春と二人で、夏休みの午後、必死に編んだミサンガ。「願いが叶うまで切っちゃダメなんだよ」って、千春が真剣な顔で言った。私たちの願いは「ずっと友達でいること」だった。


でも、高校で別々の学校に進んで、いつの間にか疎遠になった。千春は今、どこで何をしているんだろう。


ミサンガを箱に戻して、私は次のアイテムに手を伸ばした。引き出しの中には、まだまだ「捨てられないもの」がたくさんあった。

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