第11話 婚礼
リオネル王子は王位継承権を放棄し、王子の位を返上した。
国王がこれを認めた。
国王は直轄地のうち辺境の小さな村テネブラエを領地としてリオネルに与え、男爵位を授けた。
テネブラエ男爵となったリオネルはテネブラエ家を創設し、リオネル・ゼフィール・テネブラエと名乗ることとなった。
廃太子となり、王族としての地位を返上したことで、名誉将軍としてアンフェール要塞へ赴く話は帳消しとなった。
王太子として名誉挽回する必要がなくなったからだ。
――良き日。
テネブラエ男爵リオネル・ゼフィール・テネブラエと、モンストル公爵家の養女アンジェリク・モンストルの婚礼が、王都でひっそりと行われた。
婚約破棄の醜聞や、感心できない経緯があるため、家族のみが参列する内輪の控えめな婚礼となった。
参列者は、新郎の実家である王家、新婦の養家であるモンストル公爵家。
そして新婦の実家メルル男爵家からは、新婦の実祖父母メルル男爵夫妻が馳せ参じた。
メルル男爵の頭髪は大半が白髪であったが、ところどころにピンク髪が残っており、新婦との血の繋がりを感じさせた。
婚礼が行われた場所は、新郎の曽祖父が王都に建築し、新郎実家に代々所有権が引き継がれている大聖堂。
婚礼の儀を取り仕切ったは新郎の叔父である大司教。
身内による手作りの婚礼である。
新郎実家の家業の事情で、新郎実家から大聖堂までの道筋には目立たない服装での警備が配置されることとなったが、終始、家庭的な雰囲気であった。
またアンフェール要塞に赴任している新郎の旧友たちからは、祝いのカードが届けられていた。
(アンジェリクの願いが叶う時が、ついに来たのね)
婚礼に参列したマリスは、身分の差を乗り越えた真実の愛の奇跡に感極まり、ともするとこぼれそうになる涙をレースのハンカチでおさえた。
(本当に願いを叶えてしまうなんて、なんという奇跡でしょう)
ピンク髪に花嫁の花冠を乗せ、純白のドレスを纏った新婦アンジェリクは、天使のように愛らしく美しい。
その隣には、始祖と同じ白髪紅目を持つ美貌の新郎、テネブラエ男爵リオネル。
気さくで地味な婚礼ではあったが、新郎新婦の類稀な美しさにより、ここが神々の国であると錯覚しそうになるほどの幻想的光景となった。
――
「おめでとう!」
婚礼を終え大聖堂から出た新郎新婦に、家族たちが口々に祝いの言葉を送る。
「おめでとう、リオネル!」
「幸せになるのよ!」
「兄上、おめでとうございます!」
新郎リオネルに、実家家族から溢れんばかりの祝意が送られた。
その一方で、新婦アンジェリクの養家と実家は、笑顔で祝いの言葉を口にしているが温度は低い。
(私が頑張らなければ!)
新郎実家の祝意に負けじと、マリスは奮起した。
「アンジェリク、おめでとう!」
マリスは凛とした声でアンジェリクに祝いの言葉を送った。
「あなたはついに奇跡を起こしたわ。幸せになるのよ!」
「マリスお姉様、ありがとうございます」
楚々とした仕草で、花嫁アンジェリクがマリスに返礼を述べた。
「私は、必ず、幸せになります」
金色の瞳に、運命すら変える強い意志の光を宿し、アンジェリクは答えた。
花嫁アンジェリクを腕にぶらさげている花婿テネブラエ男爵リオネルも、その紅い双眸にマリスを映した。
「マリス、君には深く感謝している。私たちがこうして結婚できたのも君のおかげだ。本当にありがとう」
「テネブラエ男爵、アンジェリクをよろしくお願いします。幸せにしてあげてください」
「もちろんだ」
リオネルは神々しい美貌に輝くような笑顔を浮かべた。
その傍らでアンジェリクも天使の微笑みを浮かべると、金色の瞳でマリスを見据えて言った。
「マリスお姉様も、ちゃんと幸せを捕まえてね」
――
新郎の叔父である大司教が、雇い入れている奏者を動員してくれたのだ。
一流の奏者によるカリヨンの流麗な楽の音が響き渡る中、美しき新郎新婦テネブラエ男爵夫妻は手に手を取り合って馬車に乗り込んだ。
(奇跡を目の当たりにしてしまったわ)
晴天の空の下、テネブラエ男爵夫妻を乗せた馬車が遠ざかっていく光景が、マリスの感動の涙でゆらりとにじんだ。
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