第十話:公衆の面前での告白と、城塞都市の裏側
魔術師ギルド長の拘束後、D組の教室は異様な静けさに包まれていた。生徒たちは、アークライト家の落ちこぼれ三男が、騎士団長に逆らい、ギルド長を逮捕に追い込むという前代未聞の出来事を処理しきれていない。
ルークはすぐに教室を出て、ディートハルト副団長と合流するため教務塔へ向かった。彼の目的は、騎士団長が不在の隙に、騎士団内部の裏切り者を一掃することだ。
教室には、俺とルナリアだけが残された。
「カイトさん……」ルナリアは、未だに事態の大きさに震えている。「わたくしのせいで、貴方は騎士団長に目をつけられてしまいました」
「君のせいじゃない。これは、この世界の決まった運命だった。俺がそれを変えようとしているだけだ」
俺はルナリアの席の前に立ち、周囲の生徒たちに聞こえるように、はっきりと言った。
「ルナリア。これからは、俺のそばを絶対に離れるな。俺は、君をバッドエンドから守るためなら、騎士団長だろうが、魔族だろうが、この世界の理不尽だろうが、すべて打ち砕いてみせる」
この時、俺は**「ある重要なフラグ」**を立てる必要があった。
俺は、ルナリアの手を強く握り、皆が見ている前で、頭を下げた。
「ルナリア・ヴァルシュタイン。俺は、貴方の護衛騎士として、貴方を守り抜くと誓います。たとえ、それが、アークライト家を敵に回すことになろうとも」
その言葉は、貴族社会における**「忠誠の誓い」**に等しい。 そして、それは同時に、周囲に「俺がルナリアに執着している理由」を植え付けるための、重要なカモフラージュでもあった。
生徒たちは、その宣言に息を呑んだ。 落ちこぼれが、王国最強の聖女に、公衆の面前で騎士の誓いを立てたのだ。
ルナリアは、涙を浮かべた。 「カイトさん……わたくしは、貴方の誓いを受け入れます。貴方は、わたくしの守り人です」
これで、俺とルナリアの関係は、単なるクラスメイトではなく、「護衛対象と守護者」という、公然の絆となった。誰も、俺がルナリアの側にいることを不自然だとは言えなくなる。
「(これで、彼女を監視する騎士団長や魔族の目から、彼女を隔離しやすくなる)」
俺は、ルナリアと共に教室を出た。向かう先は、ルークとの合流地点、教務塔だ。
教務塔の屋上。そこは王都を一望できる場所で、ルークとディートハルトが、王都の地図を広げていた。
「カイト! 遅かったな」ルークが俺たちを迎えた。
「ルナリア嬢。貴方が無事で何よりです」ディートハルトが恭しく頭を下げる。
「状況はどうなっていますか?」俺はすぐに本題に入った。
ルークは地図を指差した。 「騎士団長は、ゼノスを拘束した直後、王都の主要な門と、兵糧庫、そして魔術研究施設に、私兵を配置した。正規の騎士団ではなく、彼個人の忠実な部隊だ」
「(来た! 王都の私物化イベントだ!)」
原作では、騎士団長はこの私兵を使って、王都の物流を止め、王族に圧力をかける。そして、ルナリアを捕らえるための包囲網を敷くのだ。
「彼は、王都を**『騎士団長個人の城塞都市』**に変えようとしています。正規の騎士団が動けないようにするためだ」
ディートハルトは焦燥した顔で言った。 「正規の騎士団員は、騎士団長を裏切り者だと知らなければ、彼に逆らえん。我々が動けば、規律違反で討たれる!」
「動く必要はありません、ディートハルト副団長」俺は自信を持って言った。「この私兵たちには、致命的な弱点があります。それは、彼らが『王都の市民の支持』を一切得られていないということです」
俺は、王都の地図の上を指でなぞった。
「彼らが王都の主要な門を占拠しても、王都の物流は止まりません。なぜなら、王都の地下には、**『秘密の輸送路』がある。それは、長年王都の裏側で活動してきた、『影の商会』**だけが知るルートです」
「影の商会だと?」ルークが眉をひそめた。「それは、王家も手を焼く、非合法組織だろう」
「非合法で結構。彼らは、王家の支配が及ばない場所で生きる、王都の真の**『生活者』です。彼らにとって、騎士団長による王都の私物化は、自分たちの縄張りを荒らされることと同じ。彼らは、騎士団長に敵対する動機**がある」
俺は、原作の**「サブクエスト:影の商会との取引」**を思い出した。このルートを使えば、騎士団長の包囲網を無視して、王宮に物資を運び、情報を伝えることができる。
「ルーク兄さん。ディートハルト副団長。あなた方は、騎士団を動かそうとするな。代わりに、『影の商会』のリーダーと接触してください」
ディートハルトは困惑した。 「影の商会と接触? それは、王国の規律に反する行為だぞ!」
「規律ですか? 騎士団長は、すでに国を裏切っている。規律を守って、ルナリアをバッドエンドに突き落としますか?」
俺はルナリアをちらりと見た。彼女は何も言わず、ただ俺を信頼した瞳で見つめている。
ルークは即座に決断した。 「わかった。ディートハルト、貴様は王宮の動きを警戒しろ。俺が、カイトの指示に従い、『影の商会』と接触する。そのリーダーの居場所は?」
「王都の下層、ゴミ捨て場の裏にある、古びた酒場です。リーダーの名前は**『クロウ』**」
ルークは頷き、騎士服の甲冑を脱ぎ捨て、平民の服に着替えるため、屋上を降りていった。
ルークが調査に向かった後、俺はルナリアと共に、学園の自室へと戻った。 俺の部屋は、アークライト別邸の自室より、彼女と接触しやすい学園の寮の一室を急遽借りたものだ。
「カイトさん。影の商会などと、危険な方々ではないのですか?」ルナリアは心配そうに尋ねた。
「危険だが、信頼できる。彼らは、自分たちの生活を守るためには、騎士団長にも魔族にも屈しない、強い意志を持っている」
俺は、ベッドの上に王都の地図を広げた。
「ルナリア。君にも、この戦いに参加してもらう」
「わたくしに、ですか?」ルナリアは目を丸くした。
「ああ。俺たちの最終目的は、王宮にいる王族たちに、騎士団長の裏切りを信じさせることだ。そのためには、**『真実の証拠』と、『聖女の言葉』**が必要だ」
「聖女の言葉……」
「君の持つ聖魔力は、ただの攻撃手段じゃない。それは、**『真実を映し出す鏡』**だ。俺は知っている。君の魔力を特定の魔法陣に注ぎ込めば、過去に起こった出来事を、映像として再現できる」
原作の終盤で判明する、ルナリアの隠しスキルだ。このスキルこそが、騎士団長の裏切りを、王宮の面前で証明する唯一の手段となる。
「その魔法陣は、どこに?」
「王都のどこでもいい。だが、魔力を最も効率的に集められる場所がある」
俺は地図上の、一つの建物を指差した。
「王立大聖堂だ。大聖堂の地下には、古代から伝わる聖魔力の魔法陣が隠されている。君の聖魔力を、そこで最大解放する。それが、俺たちの最終決戦だ」
ルナリアは、少しの躊躇もなく、力強く言った。 「わかりました。わたくし、その聖魔力を恐れません。カイトさんがいるなら、わたくしは力になれます」
俺は、ルナリアの強さに感銘を受けた。彼女はもう、絶望に打ちひしがれていた頃の『推し』ではない。
その時、窓の外から、ルークが戻ってきた音が聞こえた。
ガラッとドアが開き、ルークが平民服姿で部屋に入ってきた。その顔は、土埃に塗れ、疲労困憊している。
「カイト……信じられん。お前の言った通りだった」
ルークは、興奮した面持ちで、俺に報告した。 「影の商会は、騎士団長に激しく敵意を抱いていた。リーダーのクロウは、俺の協力を受け入れた。彼は、王都の地下輸送路を、私たちに提供すると約束してくれた!」
「さすが兄さんだ! では、これで騎士団長の包囲網は無力化できます!」
「ああ。だが、それだけではない」ルークは声を潜めた。「クロウは、騎士団長に関する、恐ろしい情報を一つ教えてくれた」
「何だ?」
「騎士団長は、ルナリア嬢を生贄にする儀式を、明後日に強行するつもりだ」
俺の脳内のシナリオが、大きく崩れた。 原作の儀式は、まだ一週間後の予定だった。騎士団長は、俺たちの妨害を察知し、日程を早めたのだ。
「明後日……!」
残された時間は、わずか二日。 俺のRTAは、最大の敵との最終決戦へと、一気に加速する。
「(やるぞ。俺の1万時間を、この二日にすべて叩き込む!)」
俺は、ルナリアとルークを見つめた。 「兄さん、ルナリア。作戦は最終段階に入る。明後日、王立大聖堂の地下で、騎士団長の裏切りを暴き、ルナリアのバッドエンドを完全に消し去る!」
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