第12話 「創造主の目覚め――滅びの鐘が鳴る」

 空が――割れた。


 月が完全に欠けた瞬間、世界全体が震えた。

 夜空の中心に、巨大な瞳が“開いた”のだ。

 それは炎でも、闇でもない。

 ――存在そのものを拒絶する、“無”の光。


 空から零れ落ちる白い粒子が、大地に触れた瞬間、城壁が溶けた。

 音もなく、ただ“消える”。


「な……なんだ、これは……!」

 王都の兵士たちが次々に悲鳴を上げる。

 空を覆うそれは、まるで天から降り注ぐ“神の視線”。


 ルシアが息を呑む。

「……始まった。創造主デウス=アルマの覚醒よ」


 リリアが震える声で問う。

「創造主……? 魔王とは違うの?」


 ルシアはゆっくりと頷いた。

「魔王はこの世界を滅ぼす存在。でも創造主は……“世界を造り直す”存在」


「造り直す?」

「そう。今の世界を、一度“完全に消して”からね」



 城の上空に、巨大な人影が浮かび上がる。

 性別も年齢もわからない。

 光の衣をまとい、頭上には十字の輪。

 その瞳は、まるで何も“見ていない”ように、虚無を映していた。


「我は“原初の意志”。欠けた秩序を正す者」

 創造主の声が、世界全体に響く。

「光と闇が一つとなった。ならば、輪は閉じる。――再誕の時だ」


 瞬間、空が反転した。

 黒と白が入れ替わり、重力が崩壊する。

 地上の建物が浮かび、兵士たちが宙に舞い上がった。


 ルシアが叫ぶ。

「みんな、地に魔力を集中して! 意識を保って!」


 だが、それでも次々に意識を失う兵士たち。

 圧倒的な“存在”の前に、抵抗すら意味をなさなかった。



「……ふざけんな」

 俺は剣を握りしめる。

 空に浮かぶ“神”を睨みつけ、足を踏み出した。


 剣から白と紅の光が溢れる。

 その輝きだけが、この崩壊した空間で唯一の“色”だった。


「創造主だろうがなんだろうが、そんなもん関係ねぇ。

 この世界は――みんなの生きてる場所なんだ!」


 叫びと同時に、俺の背中に光の翼が展開する。

 片翼は白、もう片翼は黒。

 両方が交差して燃え上がる。


 ルシアがその姿を見て、息を呑む。

「レン……あなた、まさか――!」


「行くぞ、ルシア!」

「ええ……!」


 二人の魔力が共鳴し、巨大な光の槍が形成される。

 名を――《創界槍アトラ=レギオン》。



 創造主の手が動く。

 指先から、音もなく“世界が消えた”。

 それは攻撃ですらない。ただ“無”を押しつける力。


「――っ!!」

 俺は槍を構え、全身の魔力を一点に集中する。


「“双極融合――ディヴァイン・オーバードライブ”!!!」


 爆音。

 空を貫く閃光が、創造主の胸を貫いた。

 だが――その体は、崩れない。


「我は、終わりを恐れぬ。終わりこそ、始まりだ」


 無数の光弾が俺を襲う。

 その一つ一つが、世界を“消す”力を持っていた。


 シルヴィアが叫ぶ。

「《氷壁陣・セレスティア》!!!」

 巨大な氷の盾が、仲間たちを包み込む。

 だが、盾が音もなく砕け散る。


「くそっ……!」


 リリアが魔法陣を展開する。

「《聖域の祈り》!! ――どうか、みんなを守って!!」


 彼女の魔力が光となり、王都を覆うドームを形成する。

 その内側で、レンとルシアの姿が神々しく輝いた。



「……ルシア、離れろ。これは、俺が――」

「いやよ」

「ルシア!」

「あなたを一人で行かせたら、今度こそ取り戻せなくなる。だから、私も行く」


 その瞳は、涙を浮かべながらも、まっすぐだった。


「――一緒に終わらせよう、この世界を守るために」


 俺はうなずく。

 二人の手が重なり、剣が再び形を変えた。

 炎でも氷でもない、純粋な“生命の光”。


「これが……俺たちの力だ」


 そして、二人は天へと舞い上がる。

 創造主が迎え撃つように手を掲げ、空全体が“消滅”し始める。


 それでも、レンの声が響いた。


「――終わりは、俺が決める!」


 光が爆ぜた。



 王都の人々が見上げる空。

 そこには二つの光が交錯していた。

 一つは滅びの白。

 もう一つは希望の赤。


 その境界で、何かが“生まれる”ような音がした。


 やがて、光が世界を包み込み――

 空から静かな“鐘の音”が鳴り響いた。

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