第6話 「王都凱旋――勇者隊の新たな日常」

 戦いが終わった翌日。

 朝の王都は、まるで春祭りのような賑わいに包まれていた。


 王城の前の大通りには、戦から帰還した兵士たちを称える人々の歓声が溢れている。

 花びらが舞い、子どもたちが「勇者さまーっ!」と叫びながら手を振る。


 俺――天城レンは、その中央をゆっくりと馬で進んでいた。

 隣には王女リリア、そして後方にはシルヴィア、フィーネ、ニャル。


「ふふっ、みんな嬉しそうね」

 リリアが小さく笑う。

 戦場では指揮官として気丈に振る舞っていた彼女も、今はただの少女のように柔らかな表情を見せていた。


「そりゃまあ、勝ったからな。負け戦じゃこうはいかない」

「……それでも、あなたがいたから勝てたのよ。皆、そう思ってる」


 彼女の言葉に、ほんの少し照れくさい気持ちが胸に広がる。



 王城に戻ると、盛大な凱旋式が行われた。

 玉座の間に響き渡るファンファーレ。

 王は立ち上がり、俺たち勇者隊に向けて言葉を放つ。


「勇者レン、そして勇者隊の皆。今回の勝利、まことに見事であった!」


 兵士たち、貴族たち、侍女までもが拍手を送る。

 壇上の上で立つのは、俺と仲間たち――まるで物語の英雄そのものだ。


「勇者レン」

 王が一歩前へ出る。

「そなたに“聖剣守護者”の称号を授ける。この国における最高位の戦士の証だ」


 王の手から渡されたのは、白銀に輝く紋章。

 それを胸に受け取ると、会場中に歓声が響き渡った。


 ……そして、その光景を見つめるリリアの瞳には、ほんの少しの誇らしさと――別の色が混じっていた。



 式典が終わった後。

 俺たちは城内の一角にある食堂で、ささやかな宴を開いた。


「かんぱーいっ!」

 ニャルが尻尾を揺らしながらグラスを掲げる。

 フィーネはすでに顔を真っ赤にしており、酔いが早いらしい。


「れ、れんさまぁ……あの、わたし、戦場で全然役に立てなくて……」

「そんなことない。お前の防御魔法がなきゃ、シルヴィアが危なかった」

「えっ……そ、そうですか……?」


 褒めると、彼女の顔がさらに真っ赤になって俯いた。

 その様子を見てニャルがにやにや笑う。

「フィーネ、顔まっかだニャ。勇者様のこと、好きニャ?」

「そ、そんなことっ! そ、そんなのまだ……っ!」

「“まだ”って言っちゃったニャ」

「~~~~っ!!」


 シルヴィアが苦笑する。

「まったく、戦場より賑やかね……でも、こういうの、悪くないわ」



 宴のあと、夜風に当たろうと中庭に出た。

 月が王城を照らし、夜空には星が静かに瞬いている。


 その中で、リリアがそっと姿を現した。


「……やっぱり、ここにいたのね」

「リリアか。眠れないのか?」

「あなたがいなくなると、少し……落ち着かなくて」


 彼女はゆっくりと歩み寄り、隣に立つ。

 月光に照らされたその横顔は、どこか儚く、それでいて強い意志を秘めていた。


「レン……あなたは、本当に強い。でも、それが少し怖いの」

「怖い?」

「あなたがどこかに行ってしまいそうで。私たちの手の届かない場所に――」


 静かな風が吹き抜け、彼女の髪が頬をかすめる。

 俺は少し間を置いてから、答えた。


「行かないよ。少なくとも、リリアが泣く顔を見るまではな」

「……ずるい言い方ね」

 リリアが微笑む。その頬には、ほんのり赤みが差していた。


 その瞬間――彼女は小さく手を伸ばし、俺の袖を掴んだ。

 まるで、離れないようにと願うように。



 だが、穏やかな時間は長くは続かなかった。


 夜空の奥――王都の外れに、黒い光が一瞬だけ瞬いた。

 瘴気のようなそれはすぐに消えたが、俺の肌が本能的に反応する。


「……今の、気のせいか?」

「どうしたの?」

「いや……何でもない。けど、嫌な気配がした」


 そのとき、城門の方角から小走りに兵士がやって来た。

 息を荒げながら、俺たちの前で膝をつく。


「報告です! 王都西部の交易路で……“裏切り者”が出ました!」


 空気が一変する。

 リリアの表情が凍り、俺の瞳が鋭く光を宿す。


「裏切り者……?」

「はっ! 王国軍の幹部の一人が、魔王軍と通じていたとの情報が――!」


 夜風が冷たく吹き抜ける。

 宴の笑い声が遠くにかすかに残っているのに、世界は一瞬で戦場の空気に戻っていた。


 俺は剣の柄に手を添えた。

「……面倒な展開になってきたな」


 リリアが震える声で問う。

「レン……これから、どうするの?」


「決まってる。裏切り者は、この俺が斬る」

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