ケリをつけるために・・・
(新栄への移動 - 夜9:45)
私はアクアブルーの車を、雨に濡れた狭い路地からそっと走らせ、指示通りに新栄の倉庫へと向かった。
ワイパーが規則正しく雨を払う音が、私の鼓動とぴったり重なる。
フロントガラスに無数の雨粒が叩きつけられて、視界がぼやけて歪む。
さっきの爆発の余韻がまだ体にこびりついていた。
男の血と焼けた油の匂いが鼻腔に残ってる。吐き気が込み上げてきて、喉が熱くなる。
ハンドルを握る両手が細かく震えて、10年前のコンテナの記憶が鮮やかに蘇った。
心の傷は、時間が経てば風化するなんて、絶対に嘘だ。でも、今は違う。
助手席に置いたナイフが太ももに冷たく触れて、現実を引き戻してくれる。
安田さんの死、雑賀舞ちゃんを助けること。それだけを考えて動こう。
千景の解析で新栄倉庫がボスの拠点だって判明したし、凛のバックアップが待機中だって連絡が、心の支えになってる。
車窓から見える新栄の街は、雨に濡れたネオンサインが歪んで、薄暗い路地が闇に飲み込まれていく。
ゴミ箱の陰でネズミが素早く動いて、プラスチックの破片を転がす音が不気味に響く。
遠くで救急車のサイレンがかすかに鳴って夜の静けさを切り裂いていた。
安田俊介さんの死は、私の調査のせいだって頭をよぎる。
玲奈は「違う」って言ってくれたけど、私はやっぱり自分のせいだと思ってる。
昨夜の彼の震える声「変な電話が怖かった」が耳にこだまする。
あれが別れの言葉だったのかと思うと、胸が締め付けられた。
あの時、彼の家に行って警備してれば。
私は警戒を怠ったんだ。大体的に殺しを行うなんて頭に入ってなかった。
ハンドルが汗で滑って、革の感触が指先に染みる。深呼吸を繰り返して集中しようとするけど、息が少しずつ乱れていく。
今は、被害者を助けるために。
私はアクセルを少し強く踏んで、雨の闇の中を進んだ。
凛の「了解、気をつけな」という短いメッセージがスマホに届き、割り切りの関係を超えた彼女のメールが精神的な安心となっていた。
だが、心の奥で10年前の私が「罠かもしれない」と囁く。
不安が雨音に紛れて、アクセルを踏む足が重くなる。背筋に冷たい汗が流れた。
なぜか、行動が読まれてる。見られてる。そういう気配が離れない。
なぜこんなに私の行動が読まれている?
これは、私が関係を持ってる人たちの気配じゃない。そこだけははっきり分かる。
久しぶりの恐怖で、思考がズレてるんだろう。
私の師匠が教えて言葉を思い出した。
「そういう直感を信じなさい」
助手席のナイフを手に取って、刃を指でなぞる。冷たさと硬さが、私を今に引き戻す。
バックミラーの路地の奥で、黒い影が動いた気がして、追跡って言葉が頭をかすめる。
ヘッドライトが一瞬だけ点滅して、心臓が跳ねた。
どうやら私の杞憂で終わって、前を見る。
ラジオのノイズがやけに大きく聞こえて、反射で窓を閉めた。
ナビを開始してルートを確認した。
倉庫に近づくにつれ、雨が一段強くなる。
フロントガラスが白く曇って、街灯もネオンも、滲んだ絵の具みたいに伸びる。
ワイパーは最速にしてるのに、追いつかない。拭ったそばから叩きつけられて、視界がいちいち途切れる。
普段はこの雰囲気は好きなんだけど、今日だけは胸の奥が、いやなタイミングで跳ねる。
凛の指示が来た。
「北東入口に裏口ある。そこがセキュリティの弱点だよ」
「ありがとう。千景にもお礼言っておいて」
「了解」
私は路地の暗さに車を滑り込ませた。ブレーキを踏む足にまで雨の重さが乗ってくる。
慎重に、音を立てないように止める。
エンジンを切った瞬間、世界が一気に静かになる。
外の雨音だけが、車体を叩いて響く。耳の奥にキーンと残って、鼓動がやけに大きいく感じる。
ハンドルから手を離すと、掌がじっとり濡れてるのが分かる。
ナイフを手に取る。刃の冷たさが、皮膚を通して骨まで伝わってくる。
硬い現実に触れたみたいで、少しだけ落ち着く。
隠しカメラのスイッチを入れる。小さな操作音がやけに目立って、息を飲んだ。
革のホルスターは湿気を吸って重い。指先が冷えて、感覚が薄くなる。
握る力を入れたつもりなのに、頼りない。
櫻華流の「
吸って、吐いて、吸って。胸を広げて、喉の奥の震えを抑える。
それでも心拍は落ちない。むしろ、数えるほどに速さが目立つ。
師匠に聴かれたら、また怒られるんだろうなぁ。
そしてあの地獄の特訓が来るのか
そう思ったら、口元が少しだけゆるんだんだけど、やっぱり恐怖を感じた。
キャップを深く被り直す。濡れた銀髪が頬に貼りついて、冷たい水が首筋へ落ちた。
師匠には感謝してる。
現場で動けるように鍛えてもらった。
元々は、過去の自分を乗り越えるためにだったけど、あの人のようになりたいその気持ちを組んでもらって鍛えてくれた。
どうしても頭の片隅で「戻れないかもしれない」って予感がよぎる。
胸の奥がきゅっと縮んで、肋が内側から押されるみたいに痛い。
いつもとは何か違う。理由は言えないのに、不安だけがずっとまとわりつく。
それでも決心を固めた。
ここで迷ってる時間が一番危ない。
ドアを開ける。空気が一気に流れ込んで、冷たさが肺を刺した。
雨がコートの裾を叩いて、服が重くなる。
足を地面につけた瞬間、泥と水が靴裏に吸いつく。体の芯が冷えて、緊張が一気に全身へ回った。
車を隠すために、近くのコンテナの影へ移動させる。
タイヤが小さく軋んで、すぐ雨に飲まれる。音が消えたあとも、心臓の音だけは消えないまま、胸の内側で鳴り続けていた。
(倉庫への潜入 夜10:00)
倉庫の裏口に近づく。
雨がコンクリの壁を舐めるみたいに流れて、黒い筋になって落ちていく。
苔の匂いが湿った空気に混じって、鼻の奥がむずっとした。
壁の亀裂は薄暗い街灯を拾って、濡れたところだけが鈍く光る。
触ったら指が汚れそうな、ガチで嫌な光りかただった。
錆びた鋼鉄の扉が、風に揺れて小さく鳴る。キィ、とも、ギィ、ともつかない音。
扉の向こうからは、かすかな機械音。一定じゃない金属の擦れる音が混ざって、たまに止まって、また鳴る。
中で誰かが何かしてる。そういう感じが、じわじわ背中に貼りつく。
扉の前に見張りは二人いた。
雨の下でタバコを吸ってて、火の点だけがやけに目立つ。吸い込むたび、赤く膨らんで、吐くと白い煙が雨に叩き落とされる。
首元に龍のタトゥー。汗と雨でテカって、皮膚がぬめっと光って見えた。
見張りなのにタバコを吸ってたらダメだと思う。
光が見えてバレバレじゃん。
今の私には好機だけどね。
櫻華流の「
視線だけじゃ足りない。耳も、鼻も、皮膚も使う。
三百六十度を意識し、首と目を動かして気配を捉える。
雨音や風を聞き分けて周囲を確認した。
雨音の下に、靴底の擦れる音がないか。
見張りの呼吸の癖。咳の間。火を落とす指の動き。
タバコの煙の匂いが、風向きで一瞬濃くなる。その瞬間が近い。そういうのを拾って、私は身を低くした。
とりあえずあの二人以外誰もいないのを確信した。
影に溶けるように近づく。
コートの裾が濡れて重い。歩くたび、布が脚にまとわりつく。
水たまりを踏むと、靴の中まで冷たさが刺さる。滑りそうで、踏み出しが小さくなる。
終わったらお風呂に直行は確実だなぁ
それでも心臓が早鐘を打つ。
十年前のコンテナの扉が開く音が、勝手に耳の奥で鳴った。
暗闇の中で男たちの目が光って、鎖の冷たさが足に絡みつく。
一瞬だけ、息が浅くなる。
引き返せない。沢山の人生がかかってる。
そう言い聞かせて、唇を噛んだ。
見張りの一人がタバコを地面に落とす。路地に煙草を道路に落とさないでほしい。
火が雨に潰れて、ジュッと小さく鳴る。煙が薄く広がって、すぐ流される。
もう一人はタブレットを操作してる。画面の光が顔の下から照らして、目元が暗く沈む。何か確認してる。
警戒範囲を広げてるかもしれない。
壁に寄りかかる。冷たいコンクリが肩に染みる。
雨粒がコートを叩く音に、自分の呼吸を紛れさせる。
タブレットの画面が一瞬だけ明るくなって、光が雨に反射した。
その光がこちらへ向いた気がして、背中がきゅっと硬くなる。
風が強まって、扉がまた軋む。音が遠くまで転がっていって、戻ってくる。
見張りが咳払いをした。タバコの匂いが、風に乗って一気に流れてきて、喉がひりつく。
遠くで犬が吠えた。低くて長い声。心臓がその声に合わせて一段跳ねる。
警戒範囲が広がる前に、動かないと。
そう思った瞬間、手のひらの汗が冷えて、スマホが少しだけ滑った。
一人の見張りに、雨音に紛れて背後から忍び寄った。
櫻華流の
足音を完全に消して、素早く男の背後に立つ。
両腕を首に巻きつけ、
気道を締め上げ、指先で脈が弱まっていく感覚を確かめながら、力を込める。
男が慌てて抵抗して、右肘を振り回してきたけど、左膝で「
脇腹に強烈な一撃を叩き込む。鈍い音が雨に混じって響き、男が膝をついた。
2人目はそれに気づいて、棍棒を構えて飛びかかってくる。
骨が砕ける乾いた音が響いて、男が後ろに吹っ飛び、頭をコンクリに打ち付ける。
血が薄く広がるけど、雨がすぐにそれを洗い流していった。
息を整える間もなく、錆びた扉の鍵にナイフの刃を差し込んで、こじ開けた。
金属が軋む嫌な音が耳に残りながら、内部へ滑り込む。
心臓が喉にせり上がってきて、汗が背中を伝う。
足元が水たまりで滑って、膝に微かな痛みが走ったけど、壁に手をついてバランスを取る。
見張りのタブレットが光り始めて、警報が鳴りそうになるのを素早く踏み潰した。
破片が飛び散って、雨に濡れた足元でキラキラ光る。
背後で別の足音が近づいてきて、慌てて影に隠れる。
3人目が懐中電灯を手に近づいてきて、ライトが私の足元をかすめた。
素早くコンテナの陰に身を隠して、息を殺す。
4人目はインカムで連絡を取ろうとして、ノイズが響く。
やり過ごせた。
そのまま倉庫の中に入り込んだ。中は薄暗くて、鉄のコンテナが迷路みたいに並んでる。
空気は湿ってて、油と錆の匂いが鼻を刺して、喉に違和感が残る。
蛍光灯がチカチカ点滅して、影が不規則に揺れて、足元の水溜まりに反射する。
奥から、女性の泣き声が聞こえてきた。鉄の椅子に拘束された少女舞ちゃんの前に、ボスらしき男が立ってる。
周りに3人の部下が、ナイフ、鉄パイプ、短刀を構えて向かってきた。
「
1人目の胸に右肘を強打。息が詰まる音が響いて、男がよろめいてコンテナに手をつく。
2人目に「
左足を軸に体を回転させて、脚が弧を描き、脇腹を完璧に捉える。
男が悲鳴を上げてコンテナに激突した。
金属が鳴り響いて、衝撃でコンテナが揺れ、埃が舞う。
3人目は短刀を振りかざして斬りかかってきて、刃が左腕をかすめた。
血が
「
男がうめいて倒れ、短刀が床に落ちて金属音を立てる。
靴の雨水と男たちの血で足元が滑って、膝に鈍い痛みが走るけど、「
息が荒くなって、汗が目に染みて視界が一瞬ぼやける。
コンテナの影から別の気配を感じて、背筋に寒気が走った。
4人目が鉄パイプを振り回して現れるけど、素早く「
5人目はナイフで斬りかかってきて、袖を裂く。血が
6人目は背後から棍棒を振り下ろすけど、「幻歩」でかわして肘で後頭部を打って相手はそのまま倒れた。
7人目は鉄パイプで横に薙ぎ払ってきて、避けるのがやっと。
女一人に人、多すぎでしょう。まったく。心の中で毒づきながら、次に移る。
8人目がナイフを投げてきた。
避けたはずなのに、肩に熱い線が走って、反射で体が縮む。
太もものナイフホルダーから一本抜く。雨で冷えた刃が指に貼りついた。
そのまま投げる。
刃が相手の腿に食い込んだ。踏ん張ろうとした足が抜けて、男は膝をついた。
9人目が鉄パイプで地面を叩いた。
ガン、って音が倉庫の中で跳ね返って、耳の奥がびりっとする。
脅しのつもりなんだろうけど、そこで止まるほど甘くない。
踏み込んで、鳩尾に拳をねじ込む。
男は息を吐ききったみたいに折れて、そのままうずくまって倒れた。
10人目が背後から腕を掴んでくる。
指が食い込む痛みより先に、身体が動く。
「流転」で外して、膝を腹に叩き込む。
鈍い音がして、短い呻きが漏れた。掴んでいた手が離れて、男が崩れ落ちた。
11人目は短刀で足を狙ってくる。
刃が床すれすれを走るのが見えて、ステップで外す。
そのまま相手に向かって私はジャンプした。
とび膝蹴りが顎に入って、男の頭が跳ね、身体が後ろへ転がった。
12人目は棍棒で頭を狙ってきた。
すぐさま鉄柱の陰に滑り込んだ。
棍棒が柱を叩いて、衝撃が空気ごと揺れる。痺れたのか、相手の腕が一瞬止まった。
その一瞬に、手のひらを顎へ。押し倒すみたいに体重を乗せて、男を床に落とした。
これで全員撃破…女一人にワン・ダースとは、女一人に、いいご招待だよね。
そう思った瞬間、胸の奥がきしんだ。
笑う余裕なんて、もうない。腕が重くて、指先が冷たく感じていた。
ボスが黒く光る拳銃を抜いた瞬間、空気が凍ったような気がした。
引き金を引く音が響き、弾がコンテナに命中して火花が散る。
金属片が飛び散って、頬をかすめる熱が走った。
次の弾丸も発射されたが、「
左にステップを踏み、鉄柱の陰に身を隠す。
私自身息が荒くて、傷の痛みが全身を蝕む。早く終わらせないと。
心臓が激しく鼓動して、汗が首を伝った。
鉄柱の冷たさが腕に染み込んで、息を殺した。
タイミングを見計らって、「
ボスの右腕に「
肘を逆方向に捻り上げ、骨が軋む嫌な音とともに銃が床に落ちた。
ボスが膝をついて、私はナイフを喉に当て、低く唸る。
これで私の勝ちだと一瞬気を抜いた。
「舞を解放しろ」私はどすの効いた声で伝えた。
ボスがニヤリと笑った。
何を笑うことがある?
この状況なら逆転の余地はないはずだ。
「舞? あれは餌だ」拘束されていた女性がゆっくり立ち上がる。
黒いマスクを外して、黒髪の少女じゃなかった。
30代くらいの女が、冷たい目で私を見据えてくる。
その瞬間だった。
女が横に滑る。濡れた床を裂くみたいな足音。視界の端で影がずれて、気づいたときにはもう近い。
サイドに入り込まれて、靴先が低く唸るほどの鋭い蹴りが飛んできた。
私は反射で体を引いた。
ギリギリで避けられた。でもボスを締めてた腕がほどける。
喉の下の感触が抜けて、ボスの呼吸が戻った。自由になった喉が、湿った空気を吸い込む音まで聞こえる。
私は一瞬で周りを見る。
拳銃。床。距離。
女の位置。ボスの足運び。視線の癖。
心臓がうるさいのに、目だけは妙に冷える。
いける。気合じゃない。ここで折れたら終わるって分かってるから、無理やりそう思い込む。
二人なら、なんとかなる。そう確信した、その瞬間だった。
ボスが首笛を吹いた。
短く鋭い音が、倉庫の中で跳ねる。
次の瞬間、倉庫のシャッターが唸って開いた。
金属が擦れる音。外気と雨の匂いが一気に流れ込んで、蛍光灯が揺れる。
そして、闇の向こうから人影が溢れた。
二十人以上。
足音が重なって、床が鳴る。濡れた金属が光る。
数じゃない。終わりが見えない、そういう“塊”が押し寄せてきた。
棍棒、ナイフ、鉄パイプが薄暗い光に輝いて、円陣を組んでゆっくり近づいてくる。
罠だった。逃げ場が完全に塞がれて、冷や汗が背中を伝う。
コンテナの影からさらに足音が聞こえてきて、数はまだ増えそう。
ボスが嘲るように言った。
「紫微、よくここまでやってくれたな。あの方が言うように二重にしておいて正解だったよ」
部下たちが下品に笑い声を上げる。
嘲笑が、胸を殴る。
目の前の男の一人が鉄パイプを地面に叩いた。ガン、と反響して、空気が震えた。
別の男がナイフを投げる。足元に刺さって、金属が鳴る。
背後にも気配が増える。振り返るたび、距離が近い。
「
身体が勝手にやってるのに、頭が遅れてついてくる。
視界の端がチカチカして、蛍光灯の点滅が増えたみたいに見える。
もう何人目か分からない。
切り傷が増えて、打撲が重なって、呼吸のたびに痛みが遅れて追いかけてくる。
腕が上がらない。脚が言うことを聞かない。
床が近い。膝が落ちる。次に手がつく。水と血が混ざって、指先が滑る。
「小娘の癖にこれだけの人間を……あの方はどうしてこの女に固執するのだ!」
そんな声が、意識を手放す前に耳に届いた気がした。
どれだけ時間が経ったか分からない。
目を開けると暗い部屋だった。手足が錆びた鎖で繋がれていて、鉄の床が冷たく体温を奪っていく。
背中がじわじわ凍る。
呼吸をすると、鉄と湿気の匂いが喉に貼りつく。
あの10年前のコンテナが、ぴったりと私の記憶と重なる。
あの時もこうやって鎖に繋がれて、男たちの哄笑に囲まれた。
あの時と違う点は服を着ていることくらいかもしれない。
血と汗が混じって、鉄の味が口に広がる。
その感覚が、今の自分を覚醒させていた。
櫻華流の訓練が、冷静さを保たせてくれる。
フェイクの女性、ボスの笑顔、20人以上の包囲。
すべてが罠だった。舞ちゃんはまだ救えていない。
安田さんの死、千景の解析、凛の援護。
すべて裏目に出たのか。心が揺れて、涙がこぼれそうになるけど、歯を食いしばる。
だが、それよりも一つだけわからないことがある。
なぜ、私の動きがすべてばれていたのか。
それが、どうしてもわからない。
やはり、「
脱出の手順を頭の中で組み立てる。
敵の油断を待つしかない。
次は、私がこの落とし前を返す番だ。
鎖が軋む音がして、足音が近づく。
胸が焼けるように熱くなる。
暗闇の中で、隠しポケットに指を入れる。
深い身体検査はしていない?
アウトドア用の小型ナイフを手のひらに隠して、その感触を確かめる。
冷たいのに、頼もしく感じた。
遠くでドアの軋む音が聞こえ、チャンスが訪れるのを待つ。
ボスの声が再び響き、足音が止まる。
私は冷たい床に額を押し付けて、息を整える。
鎖が軋み、血が床にぽたりと滴る。
まだ、終わってない。
多分、この状況は凛も把握している。だから、私も諦めずにあがいてみせる。
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