第44話

「はぁ…っ、はぁ…っ!拙者は……先生を、捕まえ……?……いや、先生の……言う通りにしなければ……そうすれば、全て……」


 頭を抱えて立ち尽くすユウキちゃんの側に駆け寄った、虚ろな目をして苦しそうにしている。

 こんな洗脳なんて、なんて酷いことを……!


「ユウキちゃん!大丈夫、絶対に僕らが助けるから……!」


「うっ……オウカどの、拙者の心配してくれるのでござるか……?」


「当たり前じゃないか、カタコちゃんだって……」


「やはりオウカどのは素敵な殿方でござる……ぎゅ〜〜〜♡」


「わっ、ちょ、ユウキちゃん!?」


「えっ!?ユキちゃん何してんのっ!?」


 さっきまで苦しんでいた様子とは打って変わり、嬉しそうな顔で僕のことを抱き上げてしまうユウキちゃん

 辛そうではなくなったのは良かったが、僕を捕まえた剛腕は力強く抜け出せそうもない。


「ん〜〜〜♡」


「離して!なんで頬ずりするんだい!?」


「ここまでずっとカタコどのと一緒にいたのでござろう?匂いが染みついているでござるからな、拙者のでしっかり上書きしておかねば♡」


「は?は?は?ユキちゃん???」


 ユウキちゃんの突然の奇行に、戸惑う僕ら

 特にカタコちゃんなんか戸惑いすぎて女の子がしてはいけない顔をしている。


「ほらほら、オウカどのも拙者にマーキングしてもよいでござるよ〜〜〜♡うりうり〜〜〜♡」


 頬だけでは飽き足らず柔らかい上半身を擦り付けてくるユウキちゃんに見ているカタコちゃんの顔がどんどん険しくなっていく


「ムフーーー♡殿方は豊満な胸が好きとお聞きしました、これはカタコどのにはできぬでござろう♡むぎゅむぎゅ♡」


 大変だ、ユウキちゃんの豊満な胸に僕の頭を挟まれてしまった

 食べられる!僕がユウキちゃんの胸に食べられてしまう!


「……センパイ、まさか、喜んでないですよね?(ビキビキ)」


「ねぇユウキちゃん!カタコちゃんの顔が鬼みたいになってるからね!?カタコちゃん、ユウキちゃんは今正気じゃないから!ねっ!怒らないで!?」


「フー……ッ、フー……ッ!わ、かって……ます、けどぉ〜…?」


 カタコちゃんの立つ地面にバキバキと亀裂が入っていく、何もしていないのに……気迫だけで!?


「ハーッハッハッハ!これは傑作だ!愛されてるねぇ花道オウカくん!」


 その様子をみていた瀬甲斐牛次郎が、腹を抱えて地面に転がり大爆笑をしていた

 こ、この……!ユウキちゃんをこんな風に弄んで……!


「ムキーーー!笑っていられるのも今のうちだぞ!すぐにユウキちゃんを正気に戻して捕まえてやりますからねっ!」


「くっ……くくっ……!これは別に私が指示してるわけじゃないのだがね……!よ、欲望に対して少々正直になっているみたいだね……!くっくっ……!」


「カタコどの、このままオウカどのは拙者がいただくでござるよ♡」


「な、な、なな…!ユキちゃん何を……!」


「ユウキちゃん!?何を言っているんだい!?くっ、はやく正気に戻ってくれ……!」


「拙者と結婚し共に我が家を再興しましょうぞ♡オウカどの♡子供は10人作りましょう♡」


「け、けっ!?ダメーーー!い、いくらユキちゃんでもそんなの許さないんだからーーー!」


 カタコちゃんが僕を奪い返すためにユウキちゃんに走る、僕の目では追えぬほどの速さだったはずだがそれよりも先にユウキちゃんの槍が牽制していた。


「フッ!」


「ッ……!また、私のスピードについてきた……?今のは全力だったのに……!」


「ククク……どうかね、今やユウキくんはグレーターデモンの力により身体能力は君にも並び……霊力も禍津の力によりはるかに増大している。理論では君を越えるスペックのはずだが……さて、現代最強の討魔剣士である君はそんな彼女に勝てるかな?」


 バカな、カタコちゃんを越える力だって……!?


 あり得るのかそんなことが……いや、今の様子を見たら少なくともカタコちゃんと並ぶ力は持っている!アレが本気じゃないとしたら……


「うむ……やはりオウカどのを手に入れるには、カタコどのと決着をつけねばならないでござるか。オウカどの、少し離れていてくだされ。」


 僕を離したユウキちゃんは両手で槍を構えて、真剣な顔でカタコちゃんと向き合った。

 た、戦う気なのか……カタコちゃんと!


「待って、カタコちゃんとユウキちゃんが戦う必要なんてない!やめてくれ!」


「安心してくだされ、オウカどの。愛の障害となるものは拙者が全て倒してみせましょう……それがたとえカタコどのであっても!」


「センパイ、今は話しても無駄みたいです……だったら倒して、ユキちゃんを無力化してからあとは考えましょう!」


 カタコちゃんもやる気になってしまったようだ、二人の間には目線で火花が散るような緊迫感が走る。


 そんな、二人が戦うなんて……


「僕が、僕が止めないと……!」


「クックック……!邪魔をしてはいけないよ、私達はゆっくり話でもしようじゃないか。安全なところで彼女らの戦いでも眺めてね。」


「なんだと!?うわっ!」


 迫り上がってきた壁が、僕と瀬甲斐牛次郎、カタコちゃんとユウキちゃんを分断してしまった


 くっ、これじゃあ二人を止められない!


「出せ!ここから出せー!」


 壁を叩いてみるが僕の力ではビクともしない、そんな様子を瀬甲斐牛次郎はニヤついてみていた。


「ククク、この壁は魔鉄ほどではないがそれなりに硬く分厚い……あの二人とてそうすぐには突破もできないよ。つまりは全力で戦っても問題ないってことさ、ほら鑑賞会といこうか」


 壁に埋め込まれたモニターに、カタコちゃんとユウキちゃんの姿が映る。

 カタコちゃんは壁に向かっておそらく僕を助けようとしているがユウキちゃんに邪魔されているようだ。


 そして何か話し合っては、部屋の真ん中へ向かい互いに武器を構えて対峙した。


 ダメだ……二人の戦いが、始まってしまう。


「さて、現代最強の討魔剣士と私が開発した最新の兵器……どちらが勝つかな。君は飲み物でもいるかい?」


「ふざけるなっ!だったら僕が!お前を捕まえてしまえば……!」


「よく考えたまえ、君が私を捕まえたところでそれからどうするんだい?確かに私は非力で君にも劣るだろう、だがそうしても君はここから出ることはできないよ?私を殺そうともね。」


「む、むぅ……!」


「大人しくここで伊達巻カタコと早苗ユウキの決着を見届けたまえ。どちらにしろ、一般人の君に危害を加えるつもりはないからね。」


 瀬甲斐牛次郎の言葉に嘘はないだろう、僕に何かするつもりならここに閉じ込めた時点でしていると思う

 この男が言う通り、僕は二人の決着を見届けるしかないのか……


「さぁ、始まったよ」



 ───そしてついに、二人が動き出した。

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