第17話

 街に出て禍津が現れたという場所までやってきた、繁華街から少し外れた路地……人通りはなく街灯が僅かにあるだけの少々不気味な場所だ


「あそこに禍津発見……それじゃあユキちゃん、相手してみよっか」


 そしてすぐに禍津を発見、一匹がふよふよしている。


「はっ、お任せくだされ!禍津の一匹さくっと祓ってみせるでごさるよ!」


「うん、ユキちゃんなら大丈夫!でも油断しないでね、周りの警戒は怠らないように!」


「あい、任せるでござる!」


 早苗さんはそういって、意気揚々と槍を片手に禍津のところへ走っていく


「早苗さん、いきなりだけど大丈夫なんですか?先にカタコちゃんがお手本見せるとかするもんだと……」


「危なそうだったらすぐ助けるから大丈夫、私実践主義なので」


「スパルタだっ」


「実践に勝る練習はありません!それに、ユキちゃんなら禍津くらい大丈夫ですよ。まぁ最初はコツを掴むまでちょっと戸惑うかもしれないけど……」


「カタコちゃんって結構鬼教官ですよね……」


 普段もたまに見せるが、カタコちゃんは結構Sなんじゃないかと思う時があるよ僕は。

 


─────


 目の前にいる、輪郭が曖昧に揺らめいている煙のような敵…人の淀みから生まれた魔の存在『禍津まがつ』。


 古来からこの国で存在を確認されており、取り憑けば人々を悪へ蝕み死に至らしめる恐ろしい存在でござる


 それを狩るのが討魔剣士、我々討魔剣士は人々の安寧のため日夜魔の存在と戦うのでござるよ。


「初めての実戦……!焦らず、天鳳てんほうに霊力を通す……!」


 討魔剣士となって、初めて対峙する禍津でござるが事前に様々な話を聞いていたおかげで恐怖や焦りはない


 拙者の修めてきた武と、うちに秘めた霊力されあれば決して倒せない相手ではないと確信があるからだ。


「人に仇成す魔の使徒よ、我が槍の贄となるがいい!早苗流討魔剣士、早苗ユウキがいざ参る!」


 拙者の初陣故に、高らかに禍津へ口上を名乗るが無反応。

 禍津には明確な意思がない……らしい、それこそこの国の自然現象の一種だと考えられている故だとか


「……なんか、ちょっと気が抜けるでござるが。とりあえず成敗するでござる!」


 禍津へ向けて我が槍『天鳳てんほう』を一閃薙ぐ、霊力を伴い僅かに光る軌跡の一撃は禍津の身体を抵抗なく両断する!


「むっ、ただ薙いでも手応えなし……まるで煙を相手にしているような……」


 しかし両断された身体は何事もなかったかのように元の不定形に繋がり、聞いている様子はない

 霊力を伴った攻撃は禍津に有効と聞いているが、無闇に攻撃しても意味はないらしい。


「なるほど……煙のような身体を形成する、おそらくは核となる部分に攻撃を通さねばならぬのでござるな……しかし核の部分も流動的に漂っていると」


 何度か攻撃を加えてみて、禍津の身体を観察する。

 その様子から禍津は弱所が存在し、そこへ正確な攻撃を通す必要があるのだと判断した


 おそらくカタコどのは特殊な目を持って禍津の弱所を正確に見抜いている、拙者には到底出来ぬ芸当にござるが…


「そうならば、やりようはあるでござるよっ……ヤァァァーーーッ!!!」


 まずは霧状に身体を槍の連撃によって拡散させる!


「……やはり!見抜いたでござるよ!」


 禍津の霧状の身体は拡散すると、またある程度一定の形に収束する

 その身体の収束点こそが、弱所。そして収束時、弱所が動くことはない!


「そこを一気に、穿つッッッ!」


 剥き出しになった弱所へ、拙者は身体を引き必殺の一撃を出す構えを取る


「早苗流武槍術……奥義!『誇威秘武槍こいひめむそう』!」


 早苗流武槍術は我が家にて受け継がれてきた由緒ある槍術、その奥義の一つであるこの技は拙者が一番得意とする。

 握り込んだ片手を軸受けとし、槍自身に超回転をかける必殺の槍技!


 それは正確に禍津の弱所を貫き、禍津は弾けるように四散した。

 しばらくの残心、禍津は身体を再び再生させることもなく……それは禍津の討伐を成功したことを意味していた。


「……やった!討伐成功にござる!ハッハー!どんなもんでござる!」


 初めての禍津討伐、我ながら見事なものだったと思うでござる

 冷静に禍津の性質を見抜き、霊力の扱いも問題なく点数をつけるなら100点といっても過言では……


「ユキちゃん!油断しない!」


 拙者が自身の勝利の余韻に浸っていると、離れてみていたカタコどのの鋭い声が飛ぶ

 その声に即座に意識を切り替えるも遅く、路地の死角から禍津が拙者に襲いかかった!


「えっ……あっ!くっ、死角に……っ」


 禍津に取り憑かれる、話には聞いたことがあった

 取り憑かれると、まずは身体の硬直と意識の混濁……そのまま時間が経てば精神を蝕まれ死に至る。


<ア、ハ……ィ、レ、テ……>


「ぐっ、やめ……ろ……!入って、くるな……っ」


 たしかに、話に聞いていた通り身体は気怠さに見舞われ身動きが取れなくなり立つのがやっと

 そしてその上、頭の中に何かが入り込むような感覚に意識が混濁してくる


 こうなると取り憑いた禍津を振り払うことすらままならない。


<イ、レ、ロ……イ……レ、ロ……>


「な、る、ほど……!こ、れは……まずいでごさるな……!」


 予感する"死"の気配、なるほど……これは恐ろしい。

 これがこの国の、討魔剣士の敵……禍津まがつか!


「破ッ!」


 弾けるような声と共に、身体を充てられる強い霊力…すると力に力が戻り意識の混濁からも解放された。


「大丈夫ユキちゃん!」


「カタコどの……!かたじけない……!」


 カタコどのが助けてくれた、あれは……霊力を禍津のみに当てて引き剥がしたのか!


「えいっ!よくもユキちゃんをっ!」


 そうして引き剥がした禍津へ一閃、刀を振るうとそのまま禍津を討伐してしまった。


 拙者のような木っ端な霊力では到底不可能な、小細工など不要とばかりの莫大な霊力に物を言わせた圧倒的過ぎる技。


(凄まじい、これが現代最強と言われる討魔剣士でござるか……!)


「倒した後にちょっと油断しちゃったね、周りの警戒は常に怠らないこと。すぐには死なないけど、禍津に取り憑かれると結構キツイし、普通の人は命の危険もいるんだから」


「は、はっ!肝に銘じるでござるよ!」


「カタコちゃんもいじわるですよ、最初から二匹いるって気付いてたなら教えてあげればよかったのに。」


「むー、自分で気付かなきゃ意味がないんですよ。それに今は私がすぐに助けられる状態でしたし、ちょっとくらい危険な目に遭ってもらわないと……」


 カタコどのはどうやら最初から二匹だと把握していたらしい、目の前の一匹のみに集中してしまいあまつさえ油断し隙をさらしてしまうとは……不覚でござる。


「これからは早苗さんだけで禍津と戦ったりすることだってあるんです、あとたまに感知の連絡された情報が間違っている時もありますしイレギュラーは何時だって想定できなきゃ!」


「くっ、やはり拙者はまだ討魔剣士として相応しくないのでござるか……!」


「いやいや、油断しなきゃちゃんと禍津を祓える力があるって分かったんだからそこは合格だよ!」


「本当でござるか!?」


「うん!ユキちゃんならすぐに見習い卒業できると思うよ!これから同じ討魔剣士として、頑張っていこうね!」


こうして、拙者の討魔剣士として初めて任務はちょっと苦い体験をしてなんとか成功したのでござる。



………


……



「母上どの!初任務完了でござる!」


 家に戻ると拙者はいの一番に母上へ報告する、禍津の討伐成功は討魔剣士として立派に仕事をした証……母上も喜んでくれる


「ユウキ、報告は聞きましたよ。討魔剣士として立派に仕事をやり遂げたそうですね」


「ハハハ、まぁちょっとピンチがありカタコどのに救われもしたのですが……」


「成功の報告を聞いて、あの人も来てくださっておりますよ。」


「おおっ、先生が!先生にも拙者の口からぜひ任務成功を報告しなければっ!瀬甲斐せかい先生ーーー!」


「はは、そんな呼ばなくても聞こえてるよ」


 奥の襖からやってきた、白衣を着た痩せ型の男性……歳も感じさせないどこか印象に残りづらい顔の彼は拙者が先生と呼び慕っている方でござる


 先生は、拙者及び我が早苗家と懇意にしてくださっており、我が家が没落の一途を辿っていることを知り資金面などで多大な援助等をしてくださった。


 また、本人曰く科学者とのことで様々な知識から拙者の霊力覚醒に一役買っていただけたのでござる


「先生のおかげで無事、討魔剣士の初任務完了でござるよ!禍津をスパッとやっつけたでござる!」


「ほぅ、それはめでたい!全てはユウキ君の直向きな努力のおかげだよ、私はちょっと手を貸したに過ぎないからね」


「いやいや、先生がご協力下さった故に拙者は霊力を目覚めさせることが出来たのでござるよ!」


「いやいや、霊力を覚醒させられたということはユウキ君には元から才能があったのだろうね。やはり早苗家の血を継いでいるおかげかな。」


「何を申されるか!あの修行法……なんて名前でござったかな、アレが無ければ拙者の霊力は目覚めておりませぬ!」


 そう、実は拙者が霊力に覚醒めたのはただ武術の修行をしていたわけではないのでござる

 先生の発案した修行法を取り入れた結果、なんと長年の夢だった霊力覚醒に至ったのである。


「あぁ、水流式霊力認知トレーニングか。あれはまぁ、霊力が水流のような流動する無形のエネルギーという仮説を基にお遊びで作った発明だったのだが……」


 拙者が先生に師事いただいた修行、それは水の流れる無数の細い管が通った矯正服を着込みひたすらに身体を鍛え、瞑想による自己問答、そして十分な休息を取るもの。


 先生の発明した特製の矯正服、この効果はてきめん……導入をして1年もしないうちに霊力が覚醒したのでござる。


「古来より霊的な修行法として似たような滝行などが存在するわけだからね。全身に密着させた水の流れるパイプで霊力の流れる感覚を擬似的に沁み込ませる形を取ってみたが……本人の才能もあれど一定の効果はあったのか。やはり水流の制御装置が下腹部にあったのが功を為した……?検証できることは……ブツブツ」


「うむ、先生の話は難しくてよく分からぬが!身体に走る水流の感覚、これがまさに身体から湧き出る霊力とピシャリと同じでござった!」


「私としても驚きの成果だよ、これからも討魔剣士として頑張っていきたまえ。ユウキ君がいれば家の再興なんて夢ではないと思うよ。」


「うむ、先生もこれからのご助力ご支援よろしくお願いするでござるよ!」


「それにしても……思わぬところで実験が成功するとは。では……次の段階に移行する……か……ブツブツ」


「ん?先生、何か言ったでござるか?」


 先生は時たま、こうして小言で何かをブツブツ独り言をいうことがあるでござる

 正直ちょっと不気味なのである、これがなければ普通の殿方だと思うのでござるがなぁ。


「ああいや、独り言だよ……科学者だからそういうクセがね。」


「ハハハ、あまり独り言が多いと危ない人に見えるでござるよ!」


「これはこれは、気をつけなくちゃねハハハ!」

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