異世界にやって来た青年は、チート能力で騙し合いに興ずる

きのこ星人

第1話 なんて事ない、日常






『い、いやだっ!!!


ボクは……ボクはっ…!こんな所で死にたくないっ!!


………生きてやる……。ボクは何がなんでも絶対に………。



絶対に――――――生き残ってやるんだっ!!!』







それは穏やかな日常のはずだった。地元から数駅乗り合いだ休日午後の繁華街…。

そんな雑踏が多い町中を、僕はキョロキョロと田舎者丸出しで辺りを見回している。



「ごめーん!一樹いつき!待った!?」



何処にでもある町並みに、何処にでもある風景。

待ち合わせに少々遅刻した僕は、息も絶え絶えと言った風を装いながら相手の元に辿り着く。


相手は、すぐにこちらに気付いたダークグリーンの髪の青年…… 代永よなが 一樹いつき

彼は表情ひとつ変えず、だが穏やかな声色でこちらに歩み寄ってくる。



「いーよ。お前が遅刻なんて今更だし。取り繕わなくたって、急いでないのは分かっているし。」



ワーオ。僕の親友は遅刻を許しながらも、冷静に僕…空乃そらの 博聡ひろさとを分析している。


これが高校時代からの親友の力か…と感慨深く感じて、ニコニコと和んでいると…突然、後頭部にバシっ!と鈍い音が響いた。



「ヒロぉ〜!おっそい!

発案者のクセに遅刻とはいい度胸ね!それでも、うちのサークルのエンジニアなの!?」



後方から早業のチョップを繰り出して来たのは、大学のサークルの友達…秋友あきもと 朱音あかねだ。

赤茶色のポニーテールを感情のまま振りかざしながら、僕の遅刻を叱責してくる。



「いや…でも、アカネちゃんだって今、来たところでしょ!?

僕は騙されないよ!同罪だよ!遅刻仲間!!」



そう反論を試みる僕だが、彼女は勝ち誇ったように笑みを深めた。

スポーティーな彼女に似合う、明るく自信に溢れた笑顔だ。



「ざんね〜ん!アタシはもう一樹と合流して新しいコントローラー買ってきただけよ。


インディーの新作ができたんでしょ!?

その為に買ってきたんだから、遅刻ではありませ〜ん!」



と無罪を主張する朱音ちゃんはスポーツ女子では珍しい、ゲーム好きな女性だ。

彼女はいかにも楽しそうに、買い物袋を見せつけてくる。


そう今日は、僕達のサークル…ゲーム研究部が、自主制作で作ったゲームの試験会をやるのだ。

サークル内でやってもよかったのだが、できれば他の人にもやってもらいたく、高校時代の親友…一樹にもプレイしてもらうのだ。



「…今まで何度かプレイしたけど…やっぱ、UIの弱さが目立つよ。今回はそれが改善されている事を祈るよ。」



そうこれまでの改善策を提示してくれる一樹。流石、僕のゲーム友達。

大学は離れてしまったものの、そのゲーム好きは変わらない。


さて。ここでいつまでも話していても時間が勿体ない。実はもう1人待たしているのだ。

彼も僕達と同じくゲーム好きあると同時に、僕の幼馴染でもある人だ。



「中学の友達からは、この辺りに引っ越したって聞いたけど…。」



そう歩き出して、再び田舎者丸出しでキョロキョロ辺りを捜索する。

僕の幼馴染…葉月はづき 晃太郎こうたろうとは中学卒業して以来、会ってない。最近、友達経由で連絡がついて、自作ゲームの話を聞いたら食いついてきた。


彼と…こうくんとゲームできるのも楽しみたが、成長した彼に会えるのがもっと楽しみだ。



「晃くんはね…大人しいけど、想像力豊かで礼儀正しいんだ!

ゲームの腕は……そこまでだったけど……。」



「そりゃ、お前に比べれば誰だってそこまでだろ。自重しろ。ゲーオタ。」



「そうそう。ヒロのゲームの腕はズバ抜けてんのよ。相手にならない。

だから…一樹!今回こそはアタシが勝つから覚悟してよね!!」



と制作者の僕を放って一樹とアカネちゃんだけが、闘志バチバチで睨み合っている…。

楽しそうだなぁ…。勝つのは嬉しいけど、勝ちすぎも問題かも……。今度から少し手を抜くことも覚えた方が、みんな楽しいかもしれない…。



「(そう言えば…妹も…最近、相手してくれなくなったしなー。)」



ゲームに負けた時の妹の嫌悪に歪んだ顔をぼんやりと思い出しながら、雑踏の中を突き進む。

何も代わり映えのない日常に、代わり映えのない学友達。


いつものように、彼らと駄弁って…ゲームして…時々、課題をして……。何事もない日常の昼下がりを過ごすはずだった。



「「…ヒロっっ!!!」」



そんな時だ…キキィーッ!!思わず耳を塞ぎたくなるようブレーキ音と…それに負けない大声で、自分の名前を叫ぶ者達がいた。

その声と音に顔を上げた僕は……いつの間にか道路にフラフラと出ていたようだ。


気づいた時にはもう遅い。…大きな鉄の塊が今まさに、自分の眼前まで迫っていた。



「……………え………………?」



けたたましいクラクションの音に周りの悲鳴。その中で一際聞こえてきたのは…………らしくもない友人達の叫喚だ。


僕は…今、トラックに轢かれる。


その事を理解すると、ものすごい衝撃と体の中から響く軋む音に耳を傾ける。

そしていつもより近い空を見て、一瞬…手を伸ばした。



「(あぁ…そんな顔しないでよ。…いつもの様に「馬鹿だなぁww」とか「ゲームオタクがっ!」とか言って笑ってよ…。)」



投げ出された痛さよりも苦しさよりも何よりも…その事が大半を占めていた。

それほど、駆け寄ってきた彼らの顔は酷いものだった。


僕は笑う。最後の力を振り絞って。そして…酷い泣き顔を晒す彼らに手を伸ばした。



「少し寝かせて…。…必ず…必ず…起きるからさ。そしたらまた皆で……ゲームしようね。」



救急車の音が遠くから聞こえた。「あーあ…。事故って意外と痛くないもんだなぁ…。」と馬鹿なことを考えながら、そのまま僕は目を閉じた…。





ーー





『……魂の移動……完了。細胞の復元………完了。

これより、スキル習得に移行します。』



「(…?なんだ?この声……?)」



ここが黄泉の入り口なのだろうか…?ぷかぷかと体が浮いているような…微睡みの中を漂っている。

そんな、ぼんやりとしたヒロサトの頭の中で何が聞こえてきた。


抑揚の少ない合成音声は、まるで解説動画でも見ているような気分だ。



『…習得……………完了しました。これより、職業の選定を…………職業の選定を…………職業の選定を……ショショショショショククククククギョギョギョギョののののの………』



「(…はあ!?何これ!ナニコレ!(泣)めっちゃ怖いんですけど!?」



バグってしまったのか、壊れたように合成音声は同じ事を繰り返し、そのままブツンと切れてしまった。

突然の出来事にすっかり頭が覚醒したヒロサトは、静まり返る辺りに困惑する。ある意味ホラーである。


自分の脳内の出来事なのに、完全にビビり始めたヒロサト。そんな彼の脳内に、また別の声が聞こえた。



『………………起きて。』



「(……………はひ?)」



『起きなさい!!ヒロサト!!』



まるで、頭をぶん殴られたような感覚に目の前が真っ白になった。


その後、弾かれたように目を開ける。

ぼやけた世界が覚醒する。するとそこには…無限と思える荒野が広がっていた。


体を起こし荒野を見渡す。……おかしい。とヒロサトは呆然とした。

さっきまで自分は交通事故に合い、死の淵を彷徨っていたはずなのに何故こんな場所に??

吸い込まれる程の青空と薫風吹き抜けるに広大な大地に、ヒロサトは…ただただ圧倒されていた。



「どーなってんの!!!」



そもそも、ヒロサトは車に跳ねられたはず。

それなのに…あまり気に食わない童顔な顔にも…短くて不便な手足にも…何処にも怪我も負っておらずピンピンしていた。


これはどう言うことか……。考えていたって分からない。とにかくこれは夢だ。と開き直ることにした。



「と、とにかく…誰か人を探して……」



ここに居ても仕方ないと移動しようと立ち上がる。どこか目的がある訳でもないが、せめて人がいる場所へ…。

そう踏んで歩き出すヒロサトの上空から、何かものすごい爆風が落ちて来る気配を感じた。



「うおらあああああああああああああああああああああああ!!!!!」



「ギャーーーーーーーースッ!?!?」



謎の落下物の衝撃のせいで、辺りが見えなくなる位の土煙が巻き上がる。

ヒロサトはギリギリの所でなんとか避けられて安堵するが、それは土煙に紛れて油断している所にその人物は、再び襲いかかってきた。



「ちょいちょい!!待ってっ!!」



ブオン!と明らかな敵意を乗せながら、的確な剣技が襲ってくる。

ヒロサトは必死にながら何とか避けて見せるが、そんなの時間稼ぎにもならない!


途端、足をもつれさせ尻餅をつく。その隙を見逃すはずもない無情な剣技が、頭上から振り下ろされる…。



こんな所で死にたくはない!!



ヒロサトは目を固く瞑って願う。すると、先ほど彼を起こした声が再び頭に響いた。



『世界とのリンクが完了した。これより、アナタの適性能力に応じて職業を与える。

職業…戦う意志があるなら名を叫んで。』



「(僕の…僕の名前は……ヒロサト…いや、ヒロだ!!!)」



名前…と言うより愛称を叫んだ瞬間…暗闇の中、彼の手が何かを掴んだ。

何やら持ちにくいが、何でもいい!ヒロはやって来る衝撃を受けるために、それをがむしゃらに突き出した。



ガンっ!!!



「は……?な、なん…だと……?」



相手はまるで予期していなかったのか、ヒロが自分の攻撃を受け止めた事におどろく。

…いや、受け止めた事に驚いているのではなく、受け止められた『物』にだ。

相手は自分の攻撃を、ただの一冊の本で簡単に防がれた事に衝撃を受けていた。



『確定しました。アナタの職業は…学ぶ者…『学者』に決定しました。』



職業?学ぶ者?学者??そんな言葉が頭に響くが、今はそれどころではない。ヒロは驚異をなんとか脱した事に気づいて恐る恐る目を開く。

すると目の前の剣を向けてくる人物に驚きを隠せなかった。



「………い、いつき……?」



見上げた相手はさっきまで一緒にいた親友……代永 一樹その人だ。

しかし、甲冑を纏いしその双眸はとても冷たく、殺意をのせた剣先を彼の喉元に突き付けるのであった…。










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