『短編』異世界安置所 ―魂の査定官たち―
寿明結未
第1話 異世界安置所 ーハーレムと犯罪を犯した場合ー
異世界を救った英雄が、必ずしも善人とは限らない。
それを知っているのは、生きている人間じゃない。
ここは「異世界転生」「異世界転移」した者たちが寿命を全うし、その魂を保管する場。
人生をちゃんと真っ当に生きてこれたかを査定する場所でもある。
数多くの「異世界転生」「異世界転移」をして英雄になった者もいれば、
数多くの「異世界転生」「異世界転移」をして愚者となった者もいる。
英雄ならば、次の転生か、元の世界に戻って新たな人生か。
愚者ならば、魂ごと燃やして、世界を漂う塵と化すか。
それらは――すべて、異世界転生・転移した者たちの行い次第。
俺たちの仕事は、その最後を締めくくること。
華やかに新たな人生を歩ませるのも、塵と化すのも、俺たち『異世界安置所』で働く職員次第。
さあ、始めようか。
君はどんな人生を歩んできた?
君にふさわしい人生のラストはどうだろうか?
『異世界安置所』は――公平に、平等に判断して沙汰を下す。
◇◇◇◇
ずらりと棺桶が並ぶ安置所。
ここには数多くの「異世界転生」「異世界転移」をした者の成れの果てが、魂だけが棺に入り並んでいる。
「えーっと……1258番は?」
「異世界転生者だね。元は〝転生チート勇者〟みたいー」
「多いよなぁ、チート勇者」
「そうだね。あっちの人間たちってチート大好きだからー」
「チートなしじゃ生きていけないのかよ」
「チートって、いわば保険でしょ? その保険をどう使うかは、転生者や転移者次第だよー」
そう語るのは、俺・
上の上司から――
「異世界人は最後は花で送り出しましょう? せめてあなたたちの名前だけでもね♪」
と言ってつけられた名前だ。
まったくもって、こんな奴らのためにつけられた名前が嫌になる。
ちなみに、異世界で得たチートスキルは既に死んで魂になっているので、スキルは使えない。
本当に、魂だけの存在なのである。
異世界で好き勝手して、最後はこの【
「で、この1258番は異世界チート勇者なのは分かった。罪状は?」
「一応、世界を救った英雄みたい。でも〝ハーレム勇者〟でもあって、たくさんの女性を手籠めにしたうえに、〝国家が滅亡〟……っと。ハーレムってだけで負のカルマがすごいのに、国家滅亡罪まであっちゃねぇ……」
「あっちの男は夢見るよなぁ……ハーレムハーレム、なんでもハーレム。頭どうにかなってんじゃねーのか?」
俺が呆れて口にすると、彼岸花は大声で笑いつつ、件の1258番が入った棺桶を叩いて笑った。
「あははは! オスの本能だよ。現実世界でモテなかったからとか、陰キャだったから、こっちの世界に来て下半身が弾けちゃったんだねー!」
「最低野郎だな。ハーレム作った女性たちは幸せになれたのかよ」
「いろいろ思うことはあったみたい。幸せと感じた女性は少ないみたいだよー」
「そのうえ国家滅亡罪か……。最早、俺が言うまでもないな」
そう俺が告げると、彼岸花は先ほど叩いていた1258番の棺桶に優しく語りかけた。
だが、その中身は――限りなく無慈悲だ。
「1258番さーん。聞いておられます? 聞いておられましたよね? あなたの罪はとても重たいので、このままあなたの魂は〝世界を漂う
そう告げると、虫かごのようなものを取り出し、棺の上に置くと――虫かごの中に青い魂が入り込む。
それを彼岸花が手にすると、スタスタと慣れた足取りで部屋の一番奥にある【焼却炉】へと向かう。
この【焼却炉】は、この役所全体に存在する〝罪人が最後に堕ちる場所〟なのだ。
「そんなに嫌がらないでくださいよー。あなたのせいでどれだけの人間が苦しみ、死んだと思ってるんですかー? 最初は英雄だったかもしれないけど、ハーレム罪と国家滅亡罪は見逃せない大罪ですので、このまま塵とかしてくださいねー? サヨウナラー」
彼岸花がそう告げると、虫かごのまま【焼却炉】に投げ捨てられる1258番。
最後は声なき声を上げて――塵と化した。
これで二度と転生することも、人間になることもできない。
「これにて、1258番の人生はおしまい! ちゃんちゃん♪」
「ちゃんちゃん♪……じゃねーだろ。書類にしっかりと刑を処した判子押さねーと」
「それは鬼灯の仕事ー♪ 僕は魂を【焼却炉】に運ぶ人ー♪」
「役割分担できていて何よりだ」
「あはは! そうだね! でも、ハーレムまでは俺も男だからわかるけど、なんで国家滅亡させたんだろうね」
「ああ、そこはここに書いてる。新しい国王と相性が悪かった。だから滅亡させたらしい」
「とんでもねぇ悪党だぜー!!」
「ま、塵と化して正解なクソ野郎ってことだったな」
そう言うと、俺は1258番に【焼却処分済】と判子を押した。
その紙は光に包まれ、上の上司に持っていかれる。
ちゃんと天罰……と、この場合は言うべきかな?
それが行われたかどうかをチェックされるわけだ。
「しかし、次から次に異世界転生者や異世界転移者が多くて困っちゃうねー」
「安置所が狭く感じる。この前拡張工事をしたばかりだというのに」
「どんどん仕事進めていかないと、次から次に来ちゃうねー」
「それもそうだな……」
「ノルマは多いけど頑張ろー? 仕事終わったらクレープ食べに行こー?」
「仕事終わりは甘いものだな……。さて、次もゴミの処分、頑張るか」
「ゴミじゃないよー。一部がゴミなだけだよー」
「そうとも言う」
こうして俺たちは、次の異世界転移者か転生者の魂を、今日も確実に、最後の裁定をしていくのだ。
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