4-4話 『高校生神隠し事件』の真相

「はぁあああ……。た……助かった……」


 危機を脱したテルは、大きく息を吐きながらヘナヘナと腰を下ろす。


(しかし……この女性はいったい何者なんだろ? やっぱりモンスターなのかな? ……よーし)


 気になったテルは、彼女に向って[探偵の鑑定眼]を使う。


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 名前:マリー

 性別:女 年齢:356 種族:マスターリッチ

 状態:[隷属(中)]

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【タイプ】

 [ゾンビLv.10(Max)][グールLv.10(Max)][レヴナントLv.10(Max)][リッチLv.10(Max)][デミリッチLv.10(Max)][マスターリッチLv.10(Max)]

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【称号】

 [リッチ族][SS級モンスター][最終進化者][歴戦の猛者][スペルマスター][ソロマスター][ジャイアントキリング][ダンジョンマスター(元)][魔の森の女王][魔術を極めし者][知識王][従魔]

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【ステータス】

 ステータスレベル:100(Max)

 HP:1323/1333

 MP:1425/1515

 攻撃:860 防御:707

 魔力:1131 魔抗:928

 器用:780 俊敏:683

 幸運:305

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【アクティブスキル】

[アンデッドスキルLv.10(Max)][格闘術Lv.10(Max)][水魔法Lv.10(Max)][リッチスキルLv.10(Max)][氷魔法Lv.10(Max)][古代魔法Lv.10(Max)]

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【パッシブスキル】

[光属性被ダメージ40%上昇][魔法被ダメージ20%低下][HP最大値+150][MP最大値+150][強者の威光][攻撃+50P][魔力+200P][魔抗+100P][気配察知(上級)][全ステータス+10P][ダンジョンクリエイト][状態異常耐性(無効)][マルチタスク][意識疎通]

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(ひぃいっ! 何なのこの人? 絶対強いよ! スキルが六つ、しかも全部レベルМaxだし! ステータスレベル100って、こっちもカンストしてるし!)


 と、そのとき――マリーの肩がピクリと跳ねて、くるりとテルの方へ顔を向ける。


「……おや? そなた今、妾に鑑定をかけたかえ?」

「ふぇっ? い、いやいや、マリーさん! そんな滅相もない!」


 鑑定をかけた事がバレてしまったテルは、鑑定を止めて誤魔化そうと嘘をついたが……。


「隠しても無駄じゃぞ、人間。魔物でも人間でも、経験を積めば鑑定の気配くらい分かるようになる。怒らせたくなければ、むやみに他人の鑑定などせんことじゃな」

「ごめんなさいごめんなさい! 勝手に鑑定してごめんなさい!」


 隠しきれないと分かると速攻で謝るテルであった。


(こ、怖ぁあ……。これからは勝手に人を鑑定するのは控えよう……。それにしても……)


 見てしまったものは仕方がないと、テルはマリーのステータスを思い返してみる。


(種族の欄に『マスターリッチ』って書いてあったよね。確か『リッチ』といったらかなり上位のアンデッドモンスターだったはず……。うぅう、やっぱりこの綺麗なお姉さんは人間じゃないのか……)


 ヤバそうなモンスター美女を前にして、テルが戦々恐々となっていると――


「ところで……お前、誰だっけ?」


 ――とタケルが声を掛けてきた。


「どっかで見た気もするけど……ダメだな、思い出せん」


 タケルはまだテルが何者か分かっていない様子。


「忘れたの、タケル兄ちゃん? ボクだよ、惣真照そうまてる! 陽莉ヒマリの親友の中の親友だったテルちゃんだよ!」


テルって……ああ、あのチビか? 言われてみれば面影があるな。 成長してたから分からなかったぞ」


 タケルが無遠慮にテルの全身を見回した後、視線がある一点で停止する。


「……いや、小学生から全く成長していない気もしてきた」

「ちょっ、ドコ見て言ってるのさタケル兄ちゃん!? ボクは自分が貧乳だったことを気にしてないからいいけど、世間ではそういうのセクハラっていうんだぞ」

「何を言ってるんだテル? 俺は率直な感想を述べただけで、ドコがとも言ってないんだぞ? それをセクハラと捉える方がおかしいし、考えすぎじゃないのか?」

「じゃあドコが成長してないか言ってみてよ?」

「……そう言えば俺、おっぱいは大きければ大きいほど大好き派なんだが」

「オイなぜ突然おっぱいの話を始めた?」

「世の中には貧乳好きな男もいて、どちらにも需要はちゃんとあるらしいぞ。流石は多様性の時代。いやぁ、貧乳もまた素晴らしい!」

「そしてなぜ突然貧乳に忖度した!?」


 怒涛のノンデリ発言に、テルのツッコミが止まらない。


「ところでテル、お前どうして異世界なんかにいるんだ?」

「胸の話をする前に、まずそれを先に聞くべきだよね!? ……まぁいいや、ボクが異世界転移するまでの話だけど――」


 ようやく話題が正常化したところで、テルタケルに自分が死ぬまでの経緯を語って聞かせるのだった。


 ――――――

 ――――

 ――


「――って感じで、どうやら最後の爆破に巻き込まれて死んじゃったみたいなんだよね。あとは気付くと真っ白な空間にいて――」

「――あのニンフィアって女神に会ったわけか。なるほどねぇ、異世界転移のきっかけが『連続爆破事件』なんて、なかなか面白い経験してるじゃないか」


 テルの『連続爆破事件』の話を聞いて、ワクワクした顔を見せるタケルを、テルが「面白くなんかないよ!」とたしなめる。


「実際こっちは殺されてるんだから、笑い話にしないでよね。てか、タケル兄ちゃんの方はどうなのさ?どうやってこの世界に来たの?」


「俺か? 俺の場合は――」


 ――そこで今度はタケルが、自分の身に起きた『高校生神隠し事件』の経緯を語る。


 * * *


 四年前の神隠し事件当日、当時高校一年だったタケルは、一つ上の先輩に呼び出しを食らい、白羽矢高校の屋上へ向かっていた。

 招集理由は呼び出した側の『後輩のくせに生意気だ』という、昔の不良漫画でしか見ない特異な動機からくるもの。

 呼び出しに応じてタケルが屋上へ辿り着くと、そこで待っていたのは諸星蓮司もろぼしれんじという上級生。

 その姿はリーゼントに特攻服――。

 『生意気な後輩を屋上に呼び出す』なんていう昔の不良ムーブをかましてくるにふさわしい、伝統的トラディショナルなヤンキースタイルの男子生徒だ。


「ようタケル、逃げずによく来たじゃねーか。俺にボコられる覚悟はできたようだな」

蓮司レンジさんこそいいんすか? 俺が勝ったら約束通りそのリーゼントを根元から切り落としますけど?」


 冷たい風が吹きつける屋上で、タケル蓮司レンジが睨み合う。

 そんな二人を止めようと、一人の女子生徒が駆け付ける。


「ちょっと蓮司レンジ、喧嘩は止めなさいって言ってるでしょ! いい加減にしないと先生呼ぶよ!?」


 そう叫んだ彼女は、蓮司レンジと同じ二年生で眼鏡美人の真宮寺澪じんぐうじみおだ。

 ミオ蓮司レンジの幼馴染で、彼が喧嘩をするという情報を聞きつけて屋上まで止めに来たようだ。


「男と男の勝負、ミオはすっこんでろ! いくぜタケル!」

「おっしゃ来い!」

「やめなさ――いっ!」


 いよいよ喧嘩が始まろうとしたそのとき――。

 パァアアアアアアッ!――と、突然三人の頭上から激しい光が降り注いだ。


「うわっ、何だ!?」


 眩しさに目を細めながらタケルが空を見上げると、そこには――


「な、何だこれ!?」


 ――三人の10メートルほど上空に光の輪が浮かんでいた。

 直径3メートル程度のその輪は、よく見るとファンタジーに出てくる魔法陣のようだ。


「うわぁあああああっ!」

「ちょぉおおおおおっ!」

「きゃああああああっ!」


 魔法陣から注がれる光に引っ張られるように三人の体が宙に浮く。

 そして――魔法陣に吸い込まれるように、三人の姿が消えていった。

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