第一章 異世界は爆弾魔とともに

1-1話 おかしな三角関係~メインキャラ紹介回~

 某日某所――


 とある都市の中心部にある『白羽矢高校』。


 全体的に白く、無機質で面白みのないデザインの、ごくごくありふれた校舎。

 その横にはグラウンドがあり、それを取り囲むように体育館やプールなどが配置されている。

 その典型的なレイアウトや、個性のない佇まいはまさに『ザ・学校』。

 多くの人が学校と聞いて思い浮かべるような。

 漫画家やアニメーターが使う背景資料集の学校編に掲載されているような。

 そういったベタで特にこれといった特徴のない、ごくごく一般的な見た目の共学校だ。


 だが、その画一的で無個性な外観と比べ、内情は実はちょっと違う。

 例えば――登校中の生徒たちの中にちらほらと、制服ではなく私服の生徒が見受けられるだろう。

 この高校では私服で登校する事が許されている。

 校則の一条に『学校行事の際は制服の着用を義務付ける』とあるのだが、それはつまり裏を返すと『学校行事以外の服装は自由』という事。

 そんな風に白羽矢高校では生徒の自主性に任せるような校則が多く、この自由な校風こそが他校とは少し違う特徴といえるだろう。


 ――ところで。


 そんな自由な校則に則って、権利を行使し、私服姿で登校する一人の生徒がいた。

 白いトレーナーの上にデニムシャツを羽織り、ひざ上丈のハーフパンツを穿いた小柄な黒髪ショートカット。

 まるで少年のような格好をしていて、胸も平らだが、身体的な性別は女性。

 見た目はボーイッシュな美少女であるその生徒――名前を惣真照そうまてるという、この高校の一年生だ。


 テルは今、校舎裏に呼び出され、とある男子生徒に迫られていた。


 ――ドンッ!


 ……という衝撃音がテルの耳元で響く。

 校舎の壁にもたれかかったテルと、テルに覆いかぶさるように壁に手をついた男子生徒という構図。


 これは――いわゆる壁ドンというヤツだ。


 150センチ程度の小柄なテルに対し、壁ドンをかました男子生徒は大柄で180センチを優に超えている。

 身長差があると難しいのか、大きな体を屈めて行う壁ドンはちょっと窮屈そうだ。

 だがそんなこともお構いなしに、テルへのアプローチを続ける男子生徒。

 テルの顎を指で軽く挟み、相手の顔をクイッと自分の方に向けさせる。


 ――壁ドンからの顎クイ。

 どこかの恋愛映画で見た黄金パターンだ。

 そして――


「オレのモノになれよ、テル


 ――キラリと白い歯が光る。

 最大限にかっこつけた彼の告白の決め台詞。

 だが――


「……キモいよ剣人ケント


 ――ジト目になったテルに、バッサリと切り捨てられてしまった。


「ぬぁっ、なぜだ! ちょっとくらい強引でも強気に迫れって、恋愛マニュアル本には書いてあったのに!」

「いつの時代の恋愛本を見たのさ? 今どき壁ドンも顎クイもオラオラ系もないから。平成で全部終わってるから」

「くっ……令和のせいで……」

「ハイそこ時代のせいにしない。そもそも『剣人ケントは無い』ってずっと言い続けてるだろ」

「――――グハッ!」


 さらなるテルからの拒絶の言葉に、男子高生は精神的ダメージを負って膝から崩れ落ちた。


 このフラれたての男子高生、名前は櫻井剣人さくらいけんとという。

 短髪で壮健なスポーツマンタイプの好男子だ。

 見た目だけでいえば整っており、先ほどのようにテルからボロクソにフラれなきゃいけないような男には見えない。

 むしろ女子にキャーキャー言われてもおかしくないクオリティのイケメンだ。


 ただし……。


「ぐすん……ずっと好きなのに……。どうしてオレの想いは伝わらないんだよ……」


 ……そんな泣き言を言うその姿を見ると、ガッカリイケメンという言葉がしっくりくるのだが。

 と、そこへ――


「どうしたの、ケンちゃん?」


 泣いている剣人ケントの様子を見て、ひとりの少女が声をかけてきた。


「もしかしてまたテルちゃんにフラれちゃった?」


 剣人ケントに同情を示すその女子学生。

 ミルクベージュの長い髪をふわふわに巻いたおっとり系の美少女。

 それも並の美少女ではない、アイドルグループでセンターを任されてもおかしくないほどの美貌の持ち主だ。

 ――彼女の名は瀬名陽莉せなひまり

 クラスだけでなく校内でも有名な美人女子高生だ。


 ――ちなみに。

 惣真照そうまてる櫻井剣人さくらいけんと、そして瀬名陽莉せなひまり

 この三人は同じ中学からの友人だ。

 テル陽莉ヒマリは小学生に上がる前からの幼馴染で、剣人ケントとは中学生進学の際に知り合った。

 彼らは同じ高校に進学し、高校生になった今でも仲が良い。


「ケンちゃんったら可愛そうに。中学時代から一途にテルちゃんの事を想い続けてるのにねぇ」

「うぅう……。テルが……テルがぁ…………」


 ガックリと膝をついている剣人ケント

 陽莉ヒマリはそんな剣人ケントの前にしゃがみ込むと――


「おーよしよし、慰めてあげるね」


 ――そう言って剣人ケントの頭を優しく撫ではじめた。


 それを見たテルが「ふぁっ!」っと変な声をあげ、慌てて二人の間に割って入る。


「ま、待ってよ陽莉ヒマリ! 傷付いてるのは剣人ケントじゃないよ? しつこく告白されて、泣きたいのはボクの方なんだから!」

「そうなの?」

「うんうん、今ボクすっごく傷付いてるんだよ!」

「わかったよ、テルちゃん。こっちにおいで、慰めてあげる」


 そう言うと陽莉ヒマリは両手を広げ、テルを受け入れるポーズを見せる。

 寛容を絵に描いたかのようなその笑顔は、まるで聖母のようだ。

 心なしか彼女の背中から後光がさしているようにも感じる。


「わーい、やったぁ!」


 テルはそれをいいことに、トトトッと軽い足取りで陽莉ヒマリに駆け寄ると、そのまま抱きつくように陽莉ヒマリの胸に飛び込んだ。

 ホワァン――とした柔らかな感触が、テルの顔を包み込む。


(ほわぁあああ~! 柔らかい、柔らかいよぅ~!)


 ちなみに陽莉ヒマリは巨乳――いや爆乳だ。

 ドンと張り出た彼女の胸は、服の上からでも女子高生平均を大きく上回っている事が見てとれる。


 そのバストサイズは――なんと驚異のLカップ!


 ちなみに日本人でIカップ以上の女性は0.1%にも満たないという統計があるそうだから、Iからさらに三つ上である彼女のLカップがどれだけレアなおっぱいであるかは言うまでもないだろう。

 しかも――驚くのは大きさだけではない、特筆すべきはその形だ。

 おっぱいの下部にボリュームがあり、乳首は上向き。

 トップとアンダーの差が一番大きくなる、男が最もエロく綺麗に見える形。

 釣鐘型と言われるその形は、日本人にはあまりいないらしく、まるで外国人モデルを彷彿とさせる乳房だ。


 つまり――彼女の胸は、サイズ、形、共に理想のおっぱいなのだ!

 そんな男の夢を詰め込んだようなおっぱいの谷間に、テルはグリグリと顔を押し込んでその感触を楽しむ。


(服の上からでも分かるこのボリューム! しかもこの匂い……クンカクンカ……。あーもう! 辛抱たまらんです!)


「よしよし、元気出してちゃん。ほーらなでなで」


 陽莉ヒマリに頭を撫でられながらLカップを堪能するテル

 その様子を見た剣人ケントが慌てて止めに入る。


「な、何やってんだよ陽莉ヒマリ!? テルにおっぱいを押し付けるな!」

「えー、ただ慰めてあげてるだけでしょ?」

「だからダメだって! だってテルは――」

「うーん……でもテルちゃんはテルちゃんだし……」


 剣人ケントの指摘にわずかに逡巡したあと、何かを思いついたように笑顔になる陽莉ヒマリ


「……そうだ、だったらケンちゃんもハグで慰めてあげよっか?」

「ぬぁっ!? そ、それは……」


 陽莉ヒマリの提案に剣人ケントは思わず声を上げた。

 陽莉ヒマリの巨乳か、テルに対する恋心か――。

 テルのうずくまる陽莉ヒマリの胸のあたりで視線を漂わせながら、眉間にシワが寄るほど思案する剣人ケント


 そして……。


「……い、いやいい、俺は貧乳派だから……」


 ……絞り出すようにそう答える。

 どうやら性欲より男の矜持が勝ったようだ。

 一方、いまだに陽莉ヒマリの巨乳を堪能し続けているテル


(もー幸せだー! おっぱいとなでなでに包まれて、ボクもうこのまま死んでもいいや……)


 そんな幸せをかみしめながら「でも……」とテルは考える。


(うぅ、残念だよ。どうしてボクの体は女なんだろう……。もしボクが心も体も男だったら、このまま陽莉ヒマリを押し倒して、あんなことやこんな事まで……ぐへへ……いっぱいいろんな事をしちゃうのに……)


 そんな男性的思考――これこそテル剣人ケントからの告白を受け入れられない理由だ。


(……でもきっと、こんなことを許してもらえてるのはボクが所詮友達だから。いくらボクの心が男だって言っても、陽莉ヒマリにとってボクは恋愛対象にはならないんだ……)


 ポリコレ時代には珍しくもない、性別の悩みを明け透けに語る人間――。


(あーもう、悔しいよ! どうしてボクの体は男じゃないんだよぉ~……)


 おっぱいを愛し、男になりたいと願う――。


(……お願いです神様! ボクにチンコをください!)


 ――つまりそういう人間なのだ、この惣真照そうまてるという人物は。



 ――――PS.


 このとき――――テルたちが異世界転移するまであと一か月。


 一か月後に起こる爆破事件。

 それに巻き込まれたテルは、自身を含めた『八人』の人間と共に異世界へ行くことになるのだが……。

 はてさて――。

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