勇者パーティーを追放された俺、魔王軍で普通に出世してるんだが? 〜地味スキル〈分析〉が魔族の軍でバカ受けしてる件〜
てててんぐ
第1話 地味スキルはお荷物らしい
焼け焦げた草の匂いが、戦場に漂っていた。
赤黒い空。崩れた石壁の向こうでは、魔族の咆哮が響いている。
「勇者様! 東の森から別動隊です! 敵、五十――いえ、百はいます!」
叫ぶ兵士の声に、俺――カイルはすぐ《分析》を起動した。
視界に浮かぶ、淡い光の線と数字。魔力の流れ、動きのリズム、気配の総量。
敵の配置と行動パターンが、まるで地図のように脳裏に展開されていく。
「……くそ、やっぱり東側が本命か。勇者様、退路を確保して再配置を――」
「は? 退くだと?」
振り返った勇者レオンは、火の粉を散らしながら鼻で笑った。
金の鎧が陽炎の中で眩しく光る。
彼はこの国が誇る英雄。選ばれし聖剣の担い手。
……そして、俺を“お荷物”扱いする張本人でもある。
「臆病者の言うことなど聞けるか! 敵が百? だからどうした! 俺は勇者だぞ!」
「待ってください! 敵は二手に分かれています。正面が囮で、後方の谷から――」
「黙れッ!」
聖剣が振り抜かれた瞬間、炎の刃が空気を裂く。
レオンの叫びとともに、前線が突撃を開始した。
俺の警告など、誰も聞いていない。
僧侶のミリアが不安げにこちらを見る。
彼女だけはいつも、俺を完全に無視しきれないらしい。
「カイル、本当に東が危ないの?」
「……間違いない。魔力の流れがそっちに集中してる」
「なら、私――」
「ダメだ、行くな。あいつらが失敗したら、撤退を援護する側が必要だ」
だが、その忠告も間に合わなかった。
次の瞬間、地面が揺れた。
森の奥から轟音。土煙が上がり、火柱が天を突く。
――罠だ。
東の森に潜んでいた魔族が、魔導爆弾を炸裂させたのだ。
勇者隊の前列が吹き飛び、悲鳴が響く。
聖騎士たちは混乱し、隊列は崩壊。
「なっ……何が起きた!?」
「勇者様! 魔族の罠です! 罠を張られてました!」
「馬鹿な、そんな……! なぜ気づかなかった!」
「だから言ったろ!」思わず叫んだ。
喉が焼けるように痛い。怒りと無力さで、視界が滲む。
「お前が分析したんじゃないのか!」
レオンが振り向きざまに怒鳴る。
「お前の《分析》とやらで危険を察知できなかったから、こんなことに――!」
「違う、俺は警告した! 退けと!」
「口先だけだ! 何もしていないのと同じだろう!」
周囲の兵士たちが、レオンの言葉に呼応するように俺を睨む。
責任の矛先を、都合よく一人に押し付ける群衆の目だ。
「勇者様、この者を……!」
「処罰しろ!」「お荷物だ!」
そんな声が次々と上がる。
ミリアが何か言おうとしたが、周囲の空気に飲み込まれて俯いた。
……ああ、もう分かっていた。
こうなることは、最初から。
俺のスキル《分析》は、敵の戦術を読むだけの地味なスキルだ。
派手な火球も、剣の一撃も放てない。
戦場では「見て、考える」ことしかできない。
だが、それすらも理解できない連中にとって、俺はただの“足手まとい”だ。
「カイル。お前のせいで多くの仲間が死んだ。」
レオンは冷たく言い放った。
その瞳に、かつて共に旅立った頃の仲間意識など微塵もない。
「……出ていけ。勇者パーティーから追放だ。」
「……了解しました。」
抵抗する気も起きなかった。
この結末は、ずっと前から見えていたのだから。
俺は静かに背を向ける。
ミリアが「カイル!」と叫んだが、もう振り返らなかった。
焚き火の明かりが遠ざかる。
草の匂いと血の臭いが混じる夜風の中、俺はひとり歩き出した。
手には古びた短剣と、ノート一冊。
これまで戦場で記した敵のデータが、そこに詰まっている。
それだけが、俺の誇りだ。
勇者たちは再び笑い声を上げていた。
酒をあおり、勝者のように振る舞う。
……まるで、自分たちが勝ったかのように。
その光景を見ながら、俺は静かに呟いた。
「――ああ、わかったよ。地味なスキルは要らないんだろ?」
夜風が髪を揺らす。
「なら、俺は俺のやり方で、生きるさ。」
暗闇の森の向こうで、黒い影がこちらを見ていたことに――
このときの俺は、まだ気づいていなかった。
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