ステータスを覗いたら、幼馴染が『催眠状態』に掛かっていたんだが!? 助けるために俺、巫女やります!

しろいの/一番搾り

Day1-1 幼馴染との失恋

「終わった⋯⋯俺の高校生活終わったわ⋯⋯」



今日は華の金曜日。

月曜日から始まる勉学という名の就労を終え、骨身を休めることが出来る金曜日。


昨日までは恋焦がれるほどに欲していた時間のはずなのに────俺は非常に憂鬱な気持ちを抱えたまま、自宅のソファに身を投げていた。


「終わりだぁ。終わったんだぁ⋯⋯」 


なんというか、しっかりと終わったというか。

薄々気が付いてはいたけれど、トドメを刺されたというか。


何が悪かったのか考えを巡らせるも、答えには辿り着けず。気持ちだけがソワソワして居心地の悪い感覚だけが胸中を占める。




「ねぇお母さん。この粗大ゴミどうしたの」


頭上から、我が可愛くない妹の声が聞こえてきた。


「さぁねぇ。トウマったら家に帰って来るや否や、すぐにそこへ寝っ転がってブツブツ言ってるのよ」

「うわ汚ね〜。その汗まみれの服でソファに寝るのやめてくれる?」



そう言いながら妹のチサが足蹴りをかましながら、ソファから蹴落とそうと画策してくる。

このまま落とされてたまるものか──そう踏ん張っていたら、今度は太腿に踵落としをされてしまった。


「いっっっってぇ!!」


所謂『ももかん』というやつだろうか。物凄く痛い。悲しさと悔しさと痛みが相まって、情けない涙が少しだけ出てきたのが自分でも分かった。



「⋯⋯チサぁ。恋愛相談に乗って?」

「えぇ〜⋯⋯。ってかちょっと泣いててキモ」


散々な言われようである。恐らくこの涙の大半はお前の踵落としのせいだろうけどな?


しかし高校1年男子学生といえど、泣顔での懇願は効果があったみたいで。大変誠に遺憾ながらという表情と共に、妹チサは渋々了承してくれた。



「⋯⋯で、何があったのよ」


話を聞いてくれるとのことなので、改めてソファへと座り直す。居住まいを正すまいと、先ほどまでユルユルのクタクタであったネクタイを締めなおして、チサに向き合った。


「語れば長くなるのだが⋯⋯」

「早くして。あと30分で見たい生放送始まるから」


ぬーん⋯⋯。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



本日金曜日。


この日は職員会議があるということで教職員が全員部活に出られない都合上、帰りのHRが終わり次第、一般生徒は順次下校することとなっていた。


帰宅部員である俺は勿論、そのまま直帰である。

帰ったら貯まってるアニメを見たいし、今度の大会に向けたデッキ調整もしたいし。


いやぁ、待ちに待った金曜日。

まるで背中から羽根が生えてしまいそう!



「なんだ、随分ご機嫌じゃないかトウマ」

「いや分かる? いやぁ職員会議様々だなぁって!」


クラスメイトから声を掛けられ、思わずルンルンで返答する。『お前は帰宅部員だからいつも通りだろ?』って顔をしているのが分かるぞ君ぃ?


違う、違うのだよ。

俺以外の人も部活休みというのが重要なのさ。


勿論、アニメやデッキ調整だって楽しみだった。

しかし今日の俺は一味違う⋯⋯なんて言っても『リア充』のゾーンに片足突っ込んでしまうのだから!




足早に、さりとて余計な汗をかかないように、丁寧な歩き方を心掛けて下駄箱を抜ける。


正門を抜けて少し歩いた先にある、昔通った公園。そこで『待ち合わせ』の約束をしているのだ。


「まさか返事がくるとはなぁ⋯⋯」


こうして2人きりで会うのは久々な気もする。

最後に並んで歩いたのは⋯⋯1ヶ月ほど前の入学式くらいだろうか?


それ以降は連絡を取るようなこともなく、まぁ通学路がほぼ同じだし、どこか出会えるだろうと楽観視していたためか、あえて約束を取り付けてまで登下校を行うことはなかった。



目的の待ち合わせ場所に到着したはいいものの、まだ相手は来ていなかった。まだ学校に用事でもあるのだろうか。


少しだけ時間を潰すべく、手元のスマホでSNSを開いて、昨今のサブカルトレンド事情を勉強していると⋯⋯しばらくして誰かが近付いてくる音がした。



「⋯⋯おまたせ」


やってきたのは、幼馴染の御影アカネ。

彼女とは家が近所であることも相まって、小学校の頃あたりから交流があった。知り合ったときの事はよく覚えていない。そういう間柄だ。


彼女は高校に入学して早々テニス部に入り、運動に精を出しているらしい。お陰で登下校の時間が全く被らず、ここ最近は話をする機会がめっきり減っていた。


「久しぶりな感じがするかな。学校で会っても中々声をかけられないし」

「まぁ⋯⋯ね」


そういってアカネは、少しだけバツが悪そうな様子をみせた。

こちらとしては別段気にしていないのだが⋯⋯。



「あのさ、『鏡宮くん』」

「ん、うん────うん!?」


──突然、苗字で呼ばれたことに困惑する。


「え、どうしたの」


いつもは名前の『トウマ』で呼んでいるのに──。



「こういうの、もうやめよう。あと学校では話しかけてこないで」




今まで見たことがないような、冷たい視線を向けられて。


その瞬間、世界の白と黒が反転した。




◇  ◇  ◇  ◇  ◇




全てを聞き終えたチサは絶句していた。


「公園で待ち合わせとかダサ⋯⋯」

「いやそこかよ。いやまぁそうかも知れないけどさぁ」


多分それも一因であろうけども。


「待ち合わせの取り付けは何でしたの?」

「メールです」

「服装は」

「制服のまま。最近は制汗剤を使ってました」


まぁ、そこまで悪くはないか⋯⋯とチサは顎に手を当てて考え込む。

しかしてその長考の果てに出てきたのは。



「脈なし⋯⋯ッスね」

「ヴッ!!」


急に核心を突くな。

心臓が止まったぞ。


「しかし、アカ姉とは今後とも長い付き合いになると思ってたんだけどなぁ。どんなことをして幻滅されたのやら」

「分からぬ、それが分からぬのだよ。だって幻滅されるほどこの1か月会ってないし話してないし」



ただ、明確に様子が変わったと感じたのはゴールデンウィークの連休明けくらいからだろうか。


連休明けの登校日、たまたまアカネを見つけたのだ。少し前の方を歩いている彼女に追いつくべく、早歩きで近づこうとしたら⋯⋯。


「⋯⋯」


ちらりとコチラを一瞥して。

自分の早歩きとは別次元の速さで先に進んでいってしまった。




「あのさ。大変申し訳ないんだけど⋯⋯この恋愛マスターのチサ様には全て分かったんだわ」

「⋯⋯やだやだやだ。聞きたくない聞きたくない」


最も考えたくない答え。

俺もその答えにいち早く辿り着いた者だからこそ、そうであって欲しくないと、可能性を限りなく排除していたというのに。



「カレシ、できたんじゃない?」


──再び、心臓が止まる。

容易に予想できる出来事だし、それですべて事情が説明出来てしまうのだから──。




その直後に母が「あっ!」と声を上げたため、一瞬で意識が戻る。

まさか何か家事でトラブルでも──!?


「そういえばこの前の日曜日、凄い身長の高い男の人と歩いてたわよアカネちゃん」


絶命した。

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