11:戦力

***

 

 階段を上りきり、大きな観音開きの扉を開ける。だだっ広い正面に長い机が一つ置いてある。そして、その机の終点に神々しい玉座が鎮座していた。中は素肌を刺すほどに冷たかった。

 

「ドラストリアの気候だな。俺とローランは慣れっこだけど、お前らは……ダメそうだな」

 

 私は白衣を頭から被っている。切断された時にほぼノースリーブに近い状態となった右腕側にキリがくっついて立ち、体温で温めてくれていた。

 エスとカルアは抱きしめ合って寒い寒いと言い合っているし、ノルマンはアタッシュケースを抱きしめて蹲っている。モニ太くんも気づけば私の白衣の中にいる。

 

「ノルマンもダメなんか? お前、寒い時期に寒いとこ、ろで戦争してなかったか?」

「あの時は精神おかしくなってたから、人を殺す感覚以外何も感じなかった。そういえば寒かったのかも」

 

 私が雷に撃たれてノルマンの記憶に迷い込んだ時、息が白くなるほど冷え込んだ戦場を見たから、カインの言い分が正しいだろう。

 

「うん、そういや寒かった。息が白くて見つかるのが嫌で、雪食べて息が白くならないようにしたんだっけ。あれ体冷える分体力消費するし、同日腕切断もあったから、翌日しばらくえぐい高熱で動けなくなったんだったな〜」

「何か可哀想になって来たわ。聞いた俺が馬鹿だった。ごめんな?」

「え? 可哀想じゃないから聞いてよ。その場で動けなくなって、遺体と間違われかけた話」

「嬉々としてえぐい話しようとすんな! そしてそれは十分『可哀想』なんだよ!」

 

 ノルマンに深く戦争のことを聞くのは覚悟がある時だけだ、という不文律が出来たところで、これからの話をすることにした。

 

「で、そのうち魔物も評議会も来るんだけどさ。評議会は俺に任せてくれねぇか。そんでさ」

 

 カインはそう言いながらノルマンの肩を抱く。

 

「コギト。ノルマン借りてっていいか? 多分、評議会の方が厄介だから、アホの戦力を確保したい」

「人の事アホの戦力っていうのやめようね〜」

「私は構わないけど、……勝算はあるの?」

 

 あの黒い陰はかなりの脅威だった。実際、ほぼ全滅まで追い込まれている。ライヒェが真っ先に襲われて激昂した私の不用意な行動のせいも多分にあるが。

 勝算を問うと、カインの目はあからさまに泳いだ。

 

「ある……」

「ないよね?」

「ないっす……」

 

 それでもどうしても譲りたくないのか、カインは濡れた子犬のような目をこちらに向けてくる。罪悪感が凄まじい。

 

「……分かった。いいよ、任せるね」

 

 私が言った瞬間にカインの目が目に見えて輝くのが分かった。

 

「でも、条件がある。出来るだけ怪我しないで、ちゃんと生きて戻ってきて」

「わーってるよ。そりゃ俺らツートップの戦力だし……」

「戦力だからじゃなくて」

 

 これは冗談めかすでもなく、きちんと真っ直ぐ伝えるべきだと思った私は、真っ直ぐカインとノルマンを見た。

 

「私にとって大事だから」

 

 その言葉を受けたカインが本当に嬉しそうに笑って、ノルマンを引き寄せているのが見えた。

 

「ありがとな、旦那」

「だって、そんな顔されちゃ断れないよ、いくら私でも」

『……はいいが、本当に大丈夫か?』

 

 私とカインの間に割り入るように、モニ太くんが浮遊してきた。私の白衣を被っていることを忘れていたのか、もしくはわざとか、大胆に私の白衣を捲って。通り抜けていく風が冷たくて困る。

 

『あれは多分、倒すという概念が存在しないぞ。以前言った通り、動く障害物だ』

「そうだな。だから、魔物から遠ざけねぇとならねぇ。魔物を倒しちまえば、奴さんはこっちに興味を失うだろうから、それまで俺たちで凌ぐって寸法よ」

 

 ライヒェが考えているのか、しばらくモニ太くんが言葉を発することはなかった。

 

『疲れるからあまりやりたくなかったが、えい!』

 

 モニ太くんは軽妙な掛け声とともに、カインの頬にデフォルメされたモニ太くんが描かれたシールを貼り付けた。

 

『簡易的にだが、そちらの状況もこれで観測できる。ただし、そもそも現実の情報とモニ太くんから受け取る情報の並行処理状態にそれを加えるから、俺の助言は雑になると思え』

「どうした? 心配症だな、この。可愛いヤツめ」

 

 カインはモニ太くんの頭部分を上から押さえつけて撫でくりまわす。一頻りそれが終わったあと、「背が伸びなくなったらお前のせいだからな」と、いたくご立腹なライヒェの文句を聞き流しながら笑っていた。

 

 そんな最中、より一層場の空気が冷えた気がした。

 

「んじゃ、俺らは行ってくる。そっちも無茶すんなよ」

 

 カインはノルマンを連れて、部屋の外へ出ていった。その足音が消えたと思ったら、いつの間にか音もなく玉座に気配を感じた。

 そこには灰色の髪の青年が立っている。どことなくカインに似ている気がした。黄色の目がこちらを見定めるようにきょろきょろと動いていた。

 

『コギト。魔物だ』

 

 モニ太くんは低く私に告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る