4:花魁道中
***
土間にいくつか長椅子が並べられている場所がある。エスは私たちを軒下で待たせると、一人土間より奥に入っていって、しばらくして戻ってきた。
「人いなかったんでまあ、いいんじゃないすか。座りましょう」
そう言って、真っ先にエスが座る。
「あそこ、桜通りっつー高級娼館の通りでして。本来でしたら直に花魁道中が始まるので、今はあそこの通りは誰も取り合ってくれないと思います。客じゃないなら尚更す。で、何探してんですか? の前に名前か。あたしエスって言います」
「私、私はアヤノと申します。そ、それより、この方は……」
と言って、アヤノと名乗った女性はノルマンを指す。正確には彼の傷だが。ノルマンは呑気に「ノルマンです〜」と名乗っていた。
「大丈夫すよ。ちゃんと治療してますし、リヴァイアでこんな怪我で病院行ったら門前払いすわ」
「ね〜」
「怪我って地域差そんな出ます!?」
アヤノさんの突っ込みに対して、そんな土地の出身の二人はずっと呑気である。
「出るんすよね」
「出るんだねぇ」
我々も通った道だ。エスとノルマン以外のメンバーで、困惑するアヤノさんの後ろでうんうんと頷いた。
「で、話戻すんすけど。アヤノさん……でしたっけ。何探してるんすか?」
囃子の音が遠くから、徐々に近づいてくる。陽気な音に何故か不安を煽られる。皆は何も思わないのだろうか。
拍子木の音が何度も聞こえる。囃子の音と同様、ちかづきて来ている気がした。
「食事処を……」
「食事処……」
花街に来て女性が食事処を探すなんて、不可解な話だ。アヤノさんもそれが分かっているようで歯切れが悪い物言いをする。
しかし、エスは否定しなかった。考えるように顎に手を当てた。
「そりゃ随分お困りですね。あたしもずっと探してるんす。一緒に探しましょう」
やがて、エスはぽつりと言う。この頃には随分と囃子と拍子木の音が近づいて来ていた。
「この花街で探さなきゃならない食事処つったら一つだけですから。花街の中でどこでいつ出店するかも不明の、転移魔法のバグ空間を使用しているなんて噂のある、超美味しい料理店の『山猫山(やまねこさん)』でしょ?」
エスが語尾を言い終わる前に、一際強く拍子木が叩かれ、急に全ての環境音が消える。その静寂に一度、からん、と音がし、私たちに先程まではなかった影が落ちる。
その影の元を見定めようと見上げる。煌びやかに着飾った女性が、高い下駄を履いて私たちを見下ろしている。その周囲には彼女に付き添うように若い女性たちが、質素な服を着て集まっていた。全員、顔がない。
「花魁道中!? なんでこんな裏通りまで……」
『コギト。こいつ、魔物だ!』
浮遊したモニ太くんは言い終わった瞬間に、花魁道中の中心にいる女性が手から出した衝撃波で飛ばされる。モニ太くんが地面に叩きつけられ、バウンドした音が響いたと思った瞬間、かんかん、と強く二回拍子木が叩かれる音がした。
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