12:弱点

「魔物の弱点は心臓です。魔物の源である魔力は、我々人間にとっての血と同様の巡り方をしているとお考え下さい。脳幹の破壊も動きを止めるという点では有用ですが、やはり心臓の破壊が効果的です」


 


 キリの説明が、揺らぐノルマンに畳み掛けるように聞こえた。ノルマンは握った拳を義手で包んだ。


 


「強度は? 人間と同様?」


 


 少し間を開けて、彼は真っ直ぐキリを見据えた。その目に迷いは見えない。


 


「魔物も人間も個体差によるところもありますが、一般的な人間より、やや強度はあると考えてください。アトラ社がおこなっていた"とある実験"ではーー」


 


 彼女と刹那目が合った。私から目を逸らすように彼女は自身の胸に手を当てた。ちょうど心臓があるところだ。


 


「心臓に杭を打ち、魔物を殺害しておりました」


 


 耳を塞ぎたくなるほど、痛い言葉だ。気づけば目を逸らしていた。


 


「それが最も推奨される魔物の殺し方ですが、安全確保の観点からも、残り時間の観点からも、魔物の形状及び銃弾に対する強度からも、通常の人間に対する心臓の破壊方法にて事足りるかと存じます」


「通常の人間に対しても、基本心臓破壊はしないんだわ……」


「分かった」


「分かるなよ。そこは嘘でもカマトトぶっとけよ。んで旦那は大丈夫かよ。冷や汗すごくね?」


「いや、私は大丈夫だよ。ありがとうね」


  


 あまり笑っている場合ではないのだが、カインの軽口に笑ってしまった。少し緊張がほぐれた。


 カインはそんなツッコミを入れつつも、冷静に"魔物"を魔物として見据えていた。




「んで、その"心臓"はどこなんだ?」


『それは俺から説明する。人体に近い姿を持つ魔物は、構造も人間と酷似している』


 


 モニ太くんに表示されたデフォルメ調の目は、"魔物"を捉えた。


 


『囚われた女の胸を狙え。心臓はそこだ』


「よりによってそこかよ。せっかくの美人なのに……。もったいねぇ」


 


 カインは変わらぬ軽口を叩きつつ、ノルマンを横目で見た。少なくとも見た目上は動揺が消えた彼が、カインの目にも同様に映っているだろう。


 


「じゃあ、目標もはっきりしたことだし最後。戦力の話だ。まずカルアちゃんは戦えねぇ。そりゃそうだ。代わりに手当は超上手い」


「んまあ、それは……察してた」


 


 カルアは身長も低いし、鍛えている様子も見られない。そもそも元々グリモアールの修道女だ。血腥い現場に悲鳴一つ上げずに適応しているだけで、肝が据わりすぎていると表現して差し支えないレベルだ。


 


「学校で勉強してた治癒魔術も、何とか保持してますので、多少は傷を治せますよぉ。お医者さんが廃業するほどのことは出来ません」


 


 カルアの手には本と杖が握られている。真っ白な修道服もそうだが見れば見るほど、戦場に向いていない子だ。


 


「まあ、あたしはやれます。超近接型すね。ただ、体格見た通りなんで、期待はし過ぎないでほしいす。得物も包丁なんで」


「リヴァイア出身の奴らってって戦うことを"やる"って表現する文化あるよな。何で?」


「戦闘が日常茶飯事」


 


 リヴァイア出身のノルマンとエスの二人が、カインの問に『戦闘が日常茶飯事』と間髪入れずに答えたことからもこの二人は熟れた戦いが出来るのだろう。カインも「ああ……」と哀愁漂う相槌を打った。


 


「俺ぁモーニングスターが得物だな。相手に騎馬兵が多かったもんでな。ローランは……説明不要だろ。騎士だし」


「説明不要だねぇ、騎士だもんねぇ」


「ノルマンはスナイパーライフルと拳銃とコンバットナイフ持ってんのは見たし、お前はなんかもう……指揮しながら戦うの上手すぎて共有不要な気するわ……。勝手にやってくれよもう」


 


 視線はやがて、何も開示していない私たちに向く。


 


「私は戦闘補助オペレーターが前職……ではなく、前前職でしたので。少なくとも、カインさんやエスさんのような、小規模戦闘では皆様と引けを取らないかと自負しています」


「両手剣みたいなのを片手で振り回してたしな。その細腕のどこの力使ってるんだよ。怖ぇよ」


 


 キリは嘘をついた。彼女もずっと研究畑にいた、魔術研究員の一人だ。何故彼女に剣を振り回し続けるだけの腕力があるかは知らない。


 彼女はカインの問に対しては、ただ冷静に「上腕二頭筋、上腕三頭筋、僧帽筋」と筋肉の名前を羅列し始めた。こうなると言い終わるまで壊れたラジオみたいに止まらないので、自然視線がこちらに向く。


 


「私は武器持ってるけど、そんな期待しないで」


「だろうな。既に逃げる時に腰引けてたしな。よし。……早く安らかに眠らせてやろう」


 


 改めて私たちはノエルさんーーではなく、"魔物"に相対した。各々手にした武器の切っ先を向けて。


***

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