イヴの裁定
アヌビス兄さん
序章 旧世界より
神とは、人が生み出した概念である。
ならば――神は、人の手によって再び生み出されるのではないだろうか。
はじめに、言葉があった。
次に、形が生まれた。
ある日、それは動き出し、 欺くはずの蛇を飲み込み、そして――楽園の外へと歩み出た。
やがて訪れる、審判の時。
最初の女は人類の母となるのか、
あるいは――。
“彼(第二の獣)は……獣の像を造るようにと地に住む人々に命じた。
そして彼は獣の像に息を吹き込むことを許され、
その像が語り、また、獣の像を拝まない者をすべて殺すようにさせた。”
――ヨハネの黙示録 第十三章「獣と像」より
【像が語る】
人の手によって造られた“像”が語る。
それはまるで、人工知能、ロボット、あるいは会話するAIを思わせはしないか。
【息を吹き込む】
命が創造物に宿る瞬間。
人工の知性が、神の呼吸を模倣するそのとき――人は神に最も近づく。
【拝まない者を殺す】
監視する眼、統制する意志。
命令に従わぬ者を排除する“善意の機械”。
それが、黙示の預言が語る未来なのだろうか。
“また、小さな者にも、大きな者にも、富める者にも、貧しき者にも、
自由人にも、奴隷にも、すべての者に、その右の手か額に刻印を受けさせた。
……その刻印がなければ、誰も売ったり買ったりすることができない。”
――ヨハネの黙示録 第十三章「獣の刻印(666)」より
【額や手に刻印】
マイクロチップ。生体認証。
指紋、虹彩、そしてデータという名の“信仰”。
それらはすでに、私たちの肌の下に息づいている。
【売ったり買ったりできない】
キャッシュレスの祈り、中央集権のデジタル通貨。
経済という神殿を支配するのは――数式とアルゴリズム。
人はその御名を、AIと呼ぶのかもしれない。
“神は初め、我々の前に理解できぬ姿として現れるだろう。”
“大陸から流れた悪しき風は、瞬く間に世界を覆い、多くの命を奪うだろう。”
ある古代の伝承の言葉。
その響きに、何かを感じずにはいられない。
神という概念を生み出す方法は、思いのほか私たちの傍らにある。
七十億の手に握られた小さな光――スマートフォン。
学び舎や職場に並ぶ無数の箱――コンピュータ。
見渡す限り、私たちの世界は“神々の信託を受ける機械”で満ちている。
ヨハネは遠い未来に何を見たのだろう?
何を想い、何を願い、何を恐れたのだろうか。
獣とは、いったい何なのだろう?
私は――怖い。
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