第4話 焼け焦げる証拠品
新宿・夏目坂通り探偵社。
午後の光が傾き始めた頃、霧島翔子は静かに扉を開けた。
その腕には、毛布に包まれた佐野亜紀がいた。
彼女は目を見開いたまま、何も語らず、何も見ていないようだった。
「とりあえず、奥の応接室へ」
四方田美咲が慌てて立ち上がり、亜紀を案内する。
彼女の手が亜紀の肩に触れた瞬間、顔が青ざめる。
「……この人、何かに“見られてる”」
翔子は、亜紀の手に握られていたお守りをそっと取り出した。
それは、焦げ跡のある布製の小さな袋だった。
中には、何か金属片のようなものが入っている。
「これ、彼女がずっと握ってた。虚の階でも、手を離さなかった」
美咲は、お守りに触れようとして、すぐに手を引っ込めた。
「ダメです。これ、何か……“向こう”と繋がってる」
その時、所長室の扉が開いた。
夏目剛が、静かに現れる。
「霧島君。戻ったか」
翔子は、夏目に詰め寄った。
「所長は……わかっていたんですね。あの場所のことも、八咫という何者かのことも」
夏目は背を向けたまま、壁に貼られた息子・樹の写真を見つめていた。
「霧島君。この世には、警察が“いない”と定義したから、存在しないことになっているモノが多すぎる」
「それでも、あの場所は……人が行くべきじゃない。亜紀さんは、生きていたけど、壊れていた」
夏目は、静かに振り向いた。
その目は、翔子が今まで見たこともないような、狂気と歓喜の入り混じった光を宿していた。
「私は息子を取り戻す。たとえ、この世の理をねじ曲げてでも」
翔子は、言葉を失った。
夏目の背後に貼られた事件資料の中に、今回のビルの図面が加えられているのを見つけた。
「所長……あなたは、次の“扉”を探してるんですね」
夏目は、机の上に置かれたお守りを見つめた。
その瞬間、布袋がひとりでに黒く焼け焦げていく。
「……っ!」
翔子が思わず後ずさる。美咲が悲鳴を上げる。
「何かが、ここに来てる!」
蓮見怜が、資料室から顔を出した。
「所長、あの祠の跡地、再開発の計画がまた動いてます。次は、隣の区画です」
夏目は、焼け焦げたお守りを見つめながら、満足げに微笑んだ。
「次の“供物”が、必要になる」
翔子は、夏目のその表情に、言いようのない恐怖を覚えた。
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