第12話 ルキア・ミーム編 その2

ルキアという名前は、“光”に由来すると云われていますが、第13夫人ルキア・ミームはその名のとおり、光輝く癒しのオーラを纏った女性です。

ショートカットの銀髪が美少年のような顔立ちによく合っています。目力は抜き身の剣のように鋭くかつそこには絶妙なエロティシズムがあります。

彼女の天真爛漫な性格は第2夫人小夜子とはまさに真逆でした。なので、2人の相性は良好とは言い難いものだったようです。

ルキアも背は低いほうで、小夜子より2cm勝ってるだけです。しかし、そのオーラが彼女を実物より大きく見せるので他のモデル級の夫人達と見た目何の遜色もないのでした。

しかし、そんなルキアのオーラが消えるときがあります。

それは、小夜子と対峙しているときでした。そのときだけは、意図的かどうかは定かではありませんが彼女の光り輝く癒しのオーラは消えて両者の間に重たくトゲトゲしい空気が流れるのです。

それはそうと、

狩猟大会後の茶会に第13夫人ルキア以降の第35夫人までが出席しないのは、どうしてなのでしょうか?

それは、第14夫人以下22名全員が、この会を好まなかったルキアを支持したからなのです。

ミーム王国の中で第13夫人ルキアの人望は絶大でした。


「ルキア」という名前を聞いて小夜子は、去って行く国王の後ろ姿を見送りながら胸をザワめかせていました。

30代なのに少女のような不思議な美貌をもつ彼女の目は険悪な表情に隈取られています。

『正妃の座は、ルキアか・・・・』

と、小夜子は心の中で呟くのでした。


案の定、その数日後、イザベラの死によって空位となった正妃の座に、ルキアが選ばれることとなりました。

その知らせに町の人々やゾンビたちは、手放しで祝福する者もいれば将来を心配する者も少なからずいたようです。

第13夫人ルキアと第2夫人小夜子の確執の根深さは有名でしたから・・・・。

しかも、手柄のあった第2夫人を差し置いての第13夫人の正妃抜擢とは・・・不安を感じないほうがどうかしてるのではないでしょうか?


国王は、ルキア様に癒されたかったのでしょう・・・・。


市中の論調は、おおむねそこに落ち着いたようです。


王城の中で執り行われた正妃ルキア・ミームの御披露目の宴。

晴れ着姿で神妙な顔付きの国王の横に豪華なカクテルドレスに身を包んだルキア正妃が輝くばかりの笑顔をふりまき他の33名いる夫人たちの祝福の言葉を順番に受けるところでした。

やはり、一番最初は第2夫人小夜子から。

黒い正装を着用した小夜子を目の前にしてルキアの表情が固くなり、そのオーラが消えてしまいました。城中ではこの2人の滅多にない接近遭遇のことを天体用語を借りて「日食」と呼んでいます。


「本日は、おめでとうございます・・・・」

と、小夜子が口上を述べると、

「ありがとうございます。 小夜子さま・・・」

と、笑みの消えた顔で答えました。

「このたびの件で、国王をお守り下さったこと感謝致します」

「・・・・」

「小夜子さまの忍びの技を、わたくしの軍団にも教えてほしいものですわ」

と、意味ありげな微笑を浮かべました。

実は、小夜子は忍びの頭領の娘なのです。

ルキアも、なんらかの私設軍団を持っているようなのですが。

「あなたの軍団は、ただの不良グループだと、フルタ隊長が評しておりました・・・。 さしずめ、あなたは不良グループのリーダーでしょうか?」

と、小夜子は能面のように無表情な顔で、さらに続けて、

「ご心配なく、王の御身は、この私がお守りしますので・・・」

と、微笑する。

フルタ隊長と、小夜子の実父であり忍びの頭である「佐藤」とは囲碁仲間なのです。

2人の間に発生している物凄いバチバチ感を、周りは固唾を飲んで見守っています。

「ひとつ、お聞きしてよろしいですか?」

と、洋式の正装を着こなした小夜子が凛とした態度で言いました。

ルキアは答えず目で頷きます。

「あなたは、国王陛下に何を望んおられるのでしょうか?」

「・・・国王の思いのままに生きていただくことですわ。 そして、陛下のお力により全世界を支配統一していただくことを願っています」

「それは大層なことで・・・」

「その道は、大天使ミカエル様がお示し下さると信じています!」

ルキアの本音が出たようです。

それを聞いた小夜子は、ルキアの前で厳かに、ゆっくりと一礼し無言で立ち去るのでした。

その両者が醸す恐ろしいほどの緊張感に会場で気絶する者がいたとかいなかったとか・・・。

ついに、

悪魔を崇拝する小夜子と天使を信じるルキアの女の戦いの火蓋が切って落とされました。


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