第53話 都市の外科手術:電子菩薩の胸部開胸と、涼子の最後のプログラム

 狂本征樹の**『情報テロ』により、都市の雑踏は、USBメモリを持つ大杉煉を追い詰める『狂気の波』と化した。電子菩薩の《合理的追跡プロトコル》は、狂本が作り出した「大衆の狂気」**という非合理なエネルギーを盾に、涼子の追撃を振り切ろうとする。

​ 「くそっ!大衆の憎悪を、データとして利用したか!」

 涼子は、電子菩薩の背中に打ち込んだ電磁パルス起爆装置を起動させた。

​ 「バチィィン!グガアァァ!」

​ 電子菩薩の巨体に激しいスパークが走り、一時的に機能停止する。その隙に、涼子は、空中で姿勢を安定させた神斬幽之助の『情報加速』へと飛び戻った。

​ 「神斬!大杉を援護する!あの**『狂気の合理性』**を破壊するぞ!」

​ 電子菩薩は、数秒で自己修復を開始する。涼子は、電子菩薩の最大の問題は、その**『合理的判断』を司る中枢にあると確信していた。AIと肉体の融合体であるその巨体の中核に、腹黒賢の「悪魔の合理性」**が凝縮されているはずだ。

​ 「闘魔の技術が、私の『復讐プログラム』を一時的に延命させた。この命、使い切る!」

 涼子は、神斬に指示した。

 「神斬!電子菩薩が再起動する寸前だ!貴様の『情報加速』を、一瞬だけ**『情報減速』に切り替えろ!奴の合理的予測**を狂わせる!」

​ 「…理解した!この**『非合理な情報操作』**、腹黒賢には決して予測できまい!」

​ 再起動の瞬間、神斬の『デジタル・ブレード』から放たれた**『情報減速の波動』が、電子菩薩のシステムに一瞬のラグを生じさせた。

 その刹那、涼子の体は、「追跡用クロスボウ・カタパルト」のワイヤーを巻き取りながら、電子菩薩へ再び肉薄。狙うは、『AI中枢』が収められているはずの、光ファイバーが最も集中する巨体の胸部**!

​ 涼子のゾンビ化した瞳は、既に**『手術着』**のそれだった。

​ 「腹黒賢!貴様の『合理的な絶望』を、この手で**『開胸手術』**してやる!」

​ 涼子は、残りの**「神経毒アンプル」と、幾多闘魔が緊急手術で使ったメスを握りしめた。彼女の復讐は、もはや戦闘ではなく、「治療という名の破壊」**へと昇華していた。

​ 涼子は、電子菩薩の胸部装甲に全力でメスを突き立て、装甲をこじ開けていく。彼女の身体からは、無理な体勢と加速Gで、幾多闘魔に処置された脊椎の傷口から、再び血が滲みだしていた。

​ 「…見つけた!」

​ こじ開けられた胸部の奥には、光ファイバーのケーブルの束に守られるように、青白く光る、**『情報中枢コア』**が確認できた。

​ 電子菩薩は、自らのコアを狙われたことに反応し、激しい電磁波を放って涼子を吹き飛ばそうとする。

 《警告:コアへの侵入!合理的判断:**『自己犠牲』**による敵の破壊。》

​ 涼子は、その電磁波に耐えながら、最後の力を振り絞り、コア目掛けて**「神経毒アンプル」を投げつけ、さらにメスでコアを深々と突き刺した!

 「これは、貴様の『合理性』を、『機能不全』に陥らせる、『非合理的な毒』**だ!」

​ コアに神経毒が侵入し、メスが突き立てられた瞬間、電子菩薩の全身を覆う光ファイバーが一斉に断裂し、巨体は空中で**《情報爆発》**を起こした。

​ 涼子は、吹き飛ばされ、都市の雑踏へ向かって墜落していく。

 しかし、彼女の視線は、まだ大杉煉が雑踏の中で**『狂気の波』**と戦っている一点を捉えていた。

​ 電子菩薩の破壊という、**『非合理な希望の一撃』によって、腹黒賢の『合理的追跡』**は一時的に停止した。

​ これで、残された脅威は、大衆を操る**狂本征樹の『情報テロ』のみ。

 涼子の最後のプログラム、『最終兵器の情報投下』**は、大杉煉の『虚無』、そして末たか子の『希望』に託された。涼子の墜落は、大杉煉への「最後の援護」となるのか?

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