第43話 米沢涼子&末たか子VS神斬幽之助&楯岡

 米沢涼子と末たか子の異様な結託に、神斬幽之助と楯岡は一瞬警戒を強めた。ホールは、爆発と断水の警告、そしてパニックに陥った参列者の悲鳴で、地獄のような様相を呈している。

​ 涼子は、ボーガン刀を捨て、折り畳み式のタクティカル・クロスボウを背中から取り出した。彼女の外科医の視力と、薬物で増幅された集中力は、依然として恐るべき精度を誇っていた。

​「末たか子、貴様の**『証拠』は、私が『生かしておく』。その代わり、私の『復讐』**を手伝え」

​「復讐…? 誰を狙うんだ、怨藤か? 神斬か?」

 末たか子は怯えながら尋ねた。

​ 涼子の眼は、憎悪と混濁した光を放ちながら、ホールを逃げ惑う人々の一団を捉えた。彼らは、結婚式に出席した、派遣会社の幹部たちと、その家族や関係者の**「幸せの絶頂にいるカップル」**だった。

​「違う。全員だ。この場所で**『非合理的な祝祭』**を楽しんでいた、**腹黒賢のシステムの『受益者』**全員がターゲットだ」

​ 彼女にとって、物価高やインフラ崩壊、そしてアザミ苑の利用者を見殺しにする「悪のシステム」の上で、呑気に**「愛と幸福」を謳歌する人々は、「悪のシステムを黙認する者」、すなわち「究極のエラー」**だった。

​「グアァァ!」(殺せ! 殺せ!)

​ ゾンビ化の衝動が彼女の理性を突き上げる。彼女は、**「人を喰らう獣」の衝動を、「人を射る弓」という、外科医の「精密な合理性」**で制御したのだ。

​ ヒュン!

​ クロスボウから放たれた最初の矢は、逃げ惑うカップルのうち、最も裕福そうな幹部の夫の喉を、寸分違わず貫いた。

​「あああああ!」

​ 男は、血を噴き上げ、その場に崩れ落ちる。その光景に、パニックは絶叫へと変わった。

​「涼子! お前、なぜ無関係な人間を…!」

 末たか子の悲鳴。

​「無関係ではない! 彼らは**『システムが生み出した幸福』の享受者だ! 私の兄の血と、アザミ苑の老人の命の上に築かれた『非合理な愛』**だ!」

​ 涼子は、感情を完全に排除した外科医の目つきで、次々と**「弓矢によるデリート」**を実行していく。

​ ヒュン!ヒュン!

​ 彼女の矢は、結婚式の招待客である若い夫婦の心臓、妊娠中の妻の太腿の動脈を、正確に捉えた。彼女は、かつて外科医として**「命を繋いだ」身体の知識を、今、最も冷酷な「命を絶つ合理性」**として利用していた。

​ この凄惨な「バカップル狩り」は、神斬幽之助と楯岡の戦闘を、一瞬中断させた。彼らは、涼子の狂気的な変貌と、その恐るべき殺傷能力に、警戒を強める。

​「くそっ…! この女の動きは、もはや**『制御された獣』**だ!」

 神斬が舌打ちする。

​「この女…我々**『最上』が回収すれば、最高の『処理兵器』**となる…!」

 楯岡の目は、欲望に輝いた。

​ 涼子は、血の海と化したホールで、弓を構え続けた。彼女の顔には、外科医時代には見せなかった、復讐の完遂に向けた、歪んだ満足感が浮かんでいた。

​ 彼女の復讐は、もはや、**「正義の実行」ではない。それは、腹黒賢が社会にばら撒いた「非合理的なカオス」に呼応する、「憎悪の無秩序」**そのものへと変貌していた。

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