スタートリガー社の工作員達 続編04

桜井もみじ☆

01

 オレには今の状況があんまりよく分かってないんやけど、ルノがミランダに連れて行かれたらしい。

 ジェームスが怪我したヴィヴィアンとジャンヌちゃんを連れて戻ってきて、はっきりそう言うた。変な外国人が銃を撃ちまくってるところに出てきて、ルノを車に押し込んで連れてったのを見たって。

 そもそも、ジャンヌちゃんが散歩に行きたいって言うたのが始まり。

 ヴィヴィアンがついて行くからって、近所のコンビニまで遊びに行ったんよ。コーヒーゼリーとペプシを買いに行くとか言うててん。二人して楽しそうに手を繋いで出て行った。

 支部の冷蔵庫にコーラがあるって言うたんやけど、どうしてもペプシやないと嫌やとかいうんよ。あんなん一緒やと思うのはオレだけ?

 ジャンヌちゃんはペプシじゃないと嫌やとか言うてて、何故かヴィヴィアンもペプシが最強とか訳の分からん事を言うててん。そんなもん、なんでも一緒やんか。

 狙われてんのはルノなんやから、ホンマはジャンヌちゃんも危ないんやで?

 でもあのヴィヴィアンがついて行くんやったらって、ジェームスが簡単に許可を出した。

 そしたら案の定、銃撃にあったんよ。

 たまたま支部で遊んでた銃の使える人が、ジェームスとルノと食堂のおばちゃんだけやったんよ。緊急事態やったし、仕方がなかった。ルノには援護射撃以外絶対にするなって、ジェームスが言うたんやと思ってた。ライフルだけしか持たせてないって話やったのに、まさかヴィヴィアンがほとんど弾の残ってない銃を二丁、ルノに渡してたとは思わんかった。

 監視カメラには、誰かがルノに向かって発砲してるところがばっちり写ってた。それをミランダが車に押し込んで、そのまま車で逃げていくのが見えた。

 確かに、あの映像だけやったら、ミランダはルノを守ってるようにも見えなくもない。ルノの事をかばうように、体を張ってるようにも見えたから。

 実際、ミランダはルノを返すって言うてる訳で、電話を掛けてきたのはルノで間違いなさそうやった。ぬいぐるみの名前かて、ちゃんと全部答えられたって話やもん。間違いなくミランダはそんなぬいぐるみの名前を全部は知らんやろ。知ってるのはオレやジャンヌちゃんくらいやと思う。ジジですら把握してないって話やもん。

 今頃、泣いてる筈のルノは大丈夫なんやろか。

 オレはパソコンでルノの位置情報を確認しながら、車に乗り込んだ。

「ゆりちゃん、なんでルノのぬいぐるみの数と名前なんか訊いたん?」

 なんとなく、横で不安そうにルノの携帯を持ってるゆりちゃんに尋ねた。

「ルノやなかったら、そんなん知らんやろ? 仮に知ってたとしても、ルノはギャレットの事を一個とは言わへんからな」

「なるほど」

 前で不思議そうにしてるジェームスがゆりちゃんを見た。

「じゃあルノはなんて数えるんだ?」

「人や。ちゃんと六人って言うたから、あれはルノで間違いないで」

 意外と賢いゆりちゃんにびっくりしながら、オレはパソコンをゆりちゃんに渡した。ルノのジャケットをしっかり持つと、オレは窓の外を見た。

 ちょうど赤い観覧車が見えてきた。人も多い。

 ここからは歩くしかない。これ以上、あそこに近寄ったら怪しいから。ちゃんと着替えたジェームスもいてるし、二人でここから歩く事になる。

 人の多い通りの前で車を止めてもらって、オレはジェームスと一緒に車を降りた。

 ホンマやったら素手やと無敵のヴィヴィアンと一緒に行くのが理想的なんは分かってる。でもちょうど流れ弾で怪我してるし、今はジェームスと一緒に行くのがベストや。ちゃんと足枷もつけてるし、大丈夫。

 ヘップファイブみたいな人の多いところで堂々と人さらいなんか流石にせぇへんやろ。確かにあそこやったら安全にルノを引き渡せる筈や。

 ジェームスは念のためにって、ちゃんと小さい拳銃を隠し持ってる。いらんかったらええんやけど。

 二人でゆっくりショッピングセンターの通りを歩いて、見えてる赤い観覧車のところまで行った。

 冷たい風に凍えながら、オレはルノのジャケットをしっかり握って歩いた。今は五時五十五分、もうちょっとで六時や。人ごみに酔いそうになってたら、ジェームスがオレの手を引いてくれた。ちょっと恥ずかしいけど、ありがたくその手にくっついて歩いた。

 建物のちょうど前についたところで、ジェームスはきょろきょろと辺りを見回した。とりあえず他の人達にまぎれるように、ジェームスは柵にもたれてこっちを見た。

「返すだけなら、なんでダンテが必要なんだ?」

 ジェームスは不思議そうな顔をしながら呟いた。

「分からん」

 オレはそう返事をすると、ヘッドセットに手をやった。

「ゆりちゃん、何か異常は?」

「ない。今のところ、ルノもいてへん」

 冷えるな。真冬の風に凍えながら、オレは横で当たり前みたいな顔して立ってるジェームスを見た。

 目立たへんようにって、ジェームスはちゃんとおしゃれな服を着てる。ヴィヴィアンが喜びそうなコートにシャツのすらっとして見えるカッコや。

 黙ってても目を引くのは、ジェームスがこういうカッコしてると普通にイケメンやからやと思う。ちょっと硝煙臭いままやけど。でも梅田のド真ん中やったら流石にそこまで目立たんみたい。街にちゃんと馴染んでる感じがする。

 逆にオレは完全に浮いてるんちゃうかな。

 急いで出てきたからその辺にあったティーシャツにズボン、ジェームスのジャケットを着てるだけ。なんなら靴はその辺にあったスニーカーを履いてきた。時間がなかったから靴下すら履いてないねんで? おしゃれなジャケットを着る訳でもなく、ただ手に持ってるんやもん。

 あと二分、もうそろそろ来てもええ頃や。

 集中して辺りを見てたら、ジェームスが建物の中の方を見た。

「いたぞ」

 後ろを見ると、ブロンドの頭を見つけた。

 寒そうなカッコして、ミランダとケイティに連れられて立ってる。今にも泣きそうな顔して、下を向いてる。

「ルノ」

 オレはそっちに向かって走ろうとした。でもジェームスが腕を掴んで邪魔してくる。

「ちょっと待て、ダンテは後ろにいろ」

 ジェームスは三人がこっちに出てくるまで動かんかった。じっと立ったまま、オレの腕を離してはくれへん。

「煖」

 ケイティが嬉しそうにこっちに向かって歩いてきた。ミランダがその後ろを、ルノの手を引いて歩いてくる。しんどそうな顔で下向いて、ルノはずっと黙ったままや。

「待って、ルノが先や」

 オレはケイティに向かってはっきり言うた。

 ミランダがルノの背中をそっと押すと、ルノはようやく顔を上げた。息が荒い。しんどいんかもしれん。泣いたんやろか、赤い目をしたルノがこっちに歩いてきた。

「ルノ、怪我は?」

 ジェームスがルノに尋ねた。

「ない、大丈夫」

 ほっとして、オレはケイティを見た。

「オレに何の用?」

「ただ会いたかっただけよ」

 ケイティはそう言うと、オレの顔を見て笑った。

「ルノの事はごめんなさい。でも危なかったのよ?」

 オレはジェームスの後ろから動かんと、ルノにジャケットを着せた。大人しく服を着ながら、ルノはちょっとふらついてるみたいや。しんどそうに息をしてる。

「ルノの事はどうも。でも何故ランボルギーニがルノを狙ったりするんだ?」

 ジェームスはしっかりはっきり、ケイティを睨んで言うた。

「その子、この間パリで刺されたでしょ?」

「それが?」

 オレは二人の会話を無視して、ルノの顔をじっと見つめた。

「大丈夫? しんどい?」

「大丈夫」

 ルノは小さい声で答えた。オレは持ってた薬をルノに渡す。このままやったらしんどいだけやと思ってん。ルノはちゃんとそれを飲むと、また下を向いた。ちょっとだけ柔らかくなった表情に安心しながら、オレはルノの背中をそっとさすった。

「あの時、逮捕された子がね、ルノを恨んでるそうなの。ランボルギーニのお気に入りなんだけど、一方的にルノの命を狙ってるみたいよ」

「へぇ。それは知らなかった」

「でしょうね。私達はランボルギーニとは関係ないの。ただ、ポルトでの仕事にそういう面倒事を持ってくるような子は迷惑だから、見張っていただけよ」

 オレはちらっとミランダを見た。

 ミランダは周囲を警戒しながら、こっちに近寄ってきた。

「ダンテ、ここに来るまでに、ルノは三回くら過呼吸になってる。早めに医者に診せた方がいいで」

 そんなになってんのか。それはルノもしんどかった筈や。

「今、薬飲ませたから」

「そうか。早よ治るとええな」

 ミランダは優しい顔でそう言うと、ルノの頭を軽く撫でた。大して反応せぇへんルノに向かって、ミランダは優しく言うた。

「気ぃ付けや。厄介な相手に狙われてる」

 それから辺りをもう一回見回して、くるっと後ろを向いた。

「伏せて」

 何も分からんまま、ジェームスがオレとルノを押し倒してきた。

 凄い悲鳴と銃声で頭がくらくらする。

「怪我はないか?」

「ジェームス」

 オレは目の前のジェームスにしがみついた。泣きたくなってくるけど、今は冷静にならんなあかん。こんなところで泣いてたら危ないだけや。

「ダンテ、ルノと一緒に地下へ行け」

「地下?」

「ここは危ない、早く行け」

 ジェームスに言われて、オレはルノを見た。

 ルノは頭を抱えて泣いてる。変な息をしながら、つらそうに顔をゆがめてた。

「ルノ、しっかりして」

 ケイティがミランダに言うた。

「ミランダ、ついて行ってあげて」

「ケイティさんはどうするつもりですか?」

「狙われてるのはその子でしょ、私は一人で大丈夫だから」

 ジェームスがルノの肩を揺さ振った。

「おい、ルノ。出来るだけ人の多い方へ逃げるんだ。いいな?」

「出来ひん」

「お前な……」

「無理、怖い」

 泣きながらうずくまるルノに、ミランダが駆け寄ってきた。

「支部長、あのクソガキの足止めは任せたで」

「ちょっと待て」

「そんな時間あれへん」

 ミランダはそう怒鳴ると、ルノを無理矢理立たせて走り出した。腕を引っ張って、凄い勢いでヘップファイブに駆け込んでいく。

 このままルノを放っておく訳にはいかんから、オレもその後ろを追って走った。一回だけ後ろを見たら、ジェームスが茶髪の外国人を殴ってるところやった。ジェームスやったら放っといても大丈夫って分かってるから、オレは必死でルノの後ろを追いかけた。

「待って、ミランダ」

 オレは目の前を走るミランダにそう叫んだ。

 多分前が見えてないんやと思う。ルノは泣きながらミランダに引っ張られて走ってたから。立ち止まったミランダの背中にぶつかってしりもちをついた。

「何?」

「どこに向かってんの?」

「支部長が言うたやろ? 人の多いところや」

 当たり前みたいな顔をして、ミランダはそう答えた。座り込んで泣いてるルノを無理矢理立たせて、こっちを見る。

「しっかりせぇ、泣くのは後や」

 ミランダはそう言うと、ルノの腕を掴んで引っ張った。

「ダンテ、支部の車はどこに止まってんの?」

「どこって」

「そこまで連れて行くから、場所教えて」

 悲鳴の聞こえる中を歩きながら、ミランダはこっちに向かって言うた。

「あの長いショッピングモールのとこらへん」

「マジか、あんなところ地下から行けるんか?」

「分からん」

 あんなところに地下から行けたっけ?

 オレはそんな事を考えながらとにかく歩いた。ミランダに引っ張られて歩いてるルノがフラフラしてる。ぐしゃぐしゃの顔して歩いてるから、いろんな人がこっちを見てて目立ってもてる。このままじゃ逃げ切るのも難しくなる。

 ミランダはちょっと悩むような顔をしてから、ルノの腕を引っ張った。

「無事に逃げられたら、おっきいゾウさん作ったろ」

 何を急にアホな事を言うてるんやろ?

 ミランダがおかしくなったんかと思って、オレは人でごった返すエスカレータを降りながらどうしようか考えた。ルノは相変わらずボロボロ泣きながらミランダの後ろを歩いてる。

「サメは嫌か? じゃあウサギさんはどうや?」

 きょとんとした顔のルノに、ミランダは優しく笑った。

「ムーランとギャレットが待ってるところに帰るんやろ? そこに可愛い仲間作ってあげたいんやから、しっかりしてぇや」

「仲間?」

「そうや。また可愛い名前つけて大事にしてもらうからな」

 ミランダがそう言うと、ルノはちょっとだけ落ち着いたような顔をして小さく頷いた。

 ぬいぐるみ、これ以上増やすつもりなんか? どこで寝る気やねん。寝るとこなくなってまうやんか。

 でも今はルノに泣き止んでもらわんなあかんと思って、オレは必死で考えた。

「そうや、車でゆりちゃんがギャレット持って待ってんで」

「ギャレットおるんかい」

 ミランダがツッコみ入れながらルノの腕を引っ張った。オレはそんなミランダと一緒に地下を歩いた。逃げようと走る人で大混乱で、ちょっと目を離したらはぐれてしまいそうな状態や。

 オレは危ないと思って、ルノの手を握った。

「小さいのやで。ゆりちゃんが薬や飴と一緒に持ってんねん。ちゃんとポーチに入れてやったから大丈夫やで」

「何が大丈夫やねん」

 ミランダはちょっと笑いながら、前を見て歩いた。

 しばらく行ったら、もうここはどこなんか全く分からんようになってもた。少なくとも、ここまで悲鳴は聞こえて来ぇへん。でも騒ぎにはなってる。

 逆に落ち着いてきたルノは、ミランダに引っ張られて大人しく歩いてる。

「どこに向かってんの?」

 オレはミランダに尋ねた。

「分からん。うち、梅田の地下街あかんねん。とにかく人の多そうなところを目指してる」

「ちょっと待って、どこに向かえばいいか確認するから」

 オレはヘッドセットに手をやると、ボタンを押した。

「ゆりちゃん、場所分かる? オレら、どこ行けばいい?」

「えっと、ヨドバシカメラまで行けそう? そこやったらすぐ回収出来るって」

「分かった。そこまで行ってみる」

 オレは返事をすると、二人を見た。

「ヨドバシまで行ける?」

「迷うと思うけど、行くわ」

 ミランダはそう言うと、ルノの手を引いて前を歩き始めた。

「待ってミランダ、反対やと思う」

 どう考えてもそっちちゃうやろって方に向かおうとするから、オレはミランダを呼び止めた。まさか、ミランダは方向音痴やったんか? そんな事なかったと思ってんけど。

「ごめん、ダンテが案内してくれへん? うち、梅田の地下はマジで無理」

 仕方がない気がする。いっつもどっか工事してんねんもん。前は使えた道が急にあかんようになったりして、しょっちゅう使ってる筈やのに迷うから。

 オレはルノの手を引いてゆっくりヨドバシに向かった。ここからそんなに遠くなかった筈や。とにかく大阪駅を目指せばいい。

 きょろきょろしながらちゃんとついてくるミランダは、楽しそうに笑いながらルノの事を眺めてる。

「ルノ、そんなにあいつら大事にしてくれてんの?」

「いっつも持って歩いてんで」

「そうなん? でっかいギャレットはどうや? 気に入った?」

 ルノは恥ずかしそうにミランダに答えた。

「可愛い」

「そうか、作ってよかったわ。今度は何がいい?」

 ミランダは嬉しそうに笑った。

「まだ作るん?」

「うちは作るだけが趣味やねん。作った後は家で埃かぶってるだけやで」

「ルノはこの前デカいギャレットと小さいギャレットの喧嘩仲裁してたで」

 ニコニコしながら、ミランダはルノの頭を撫でた。

「そんな事して遊んでんの? ええなぁジジは。うちもこんな可愛い奴、弟にほしいわ」

 それはめっちゃ分かるなと思いながら、オレは真っ直ぐ大阪駅の隅っこについたのを確認した。ここからもうちょっと行ったらヨドバシの筈や。

 きょろきょろしてたら、ルノが急に立ち止まって後ろを見た。

「銃や」

 誰かの声で、辺りがざわざわうるさくなる。

 オレは身構えると、後ろで不安そうに小さくなったルノを見た。ミランダが全く別の出口に向かって走り出す。

「こっちや」

 出たところはちょうどヨドバシの向かいの辺りやった。ここから向こうには行かれへんのちゃうかったっけ? どうしようか悩みながら、オレはミランダを見た。

 ミランダは迷う事なく阪急のタクシー乗り場のある方に向かった。人をかき分けて真っ直ぐ歩いて行くと、ミランダは百貨店の中に入った。

「どこ行くん?」

「あんな危険人物から離れるのが先や」

 もうここがどこの百貨店なんかすら分からん。オレ、ここら辺にはまだ詳しい方やと思ってんけど、これだけ地下を動き回られたらさっぱり分からんようになってもた。

 ミランダは真っ直ぐ美味しそうな匂いのするところを抜けて行くと、エスカレータを歩いて登って行った。どこかのきれいな洋服売り場まで行くと、ミランダはその辺にあった女物の帽子をルノにかぶせた。

 後ろから悲鳴が聞こえてくる。ジェームスは何やってんの?

「ちょっとミランダ、それ」

「死にたいんか?」

 そのままルノを連れて外に出ると、急に速度を落として歩き出した。

「ダンテ、後ろにおって」

 ミランダはそう言うと、ルノの腕を掴んでくっついた。

 何のつもりかと思ったけど、後ろから追ってきた男はそこで立ち止まって辺りを見回してる。なんかよぅ分からん言葉を叫びながら、今度は全然違う方に向かって走って行った。

「よかった、撒けたみたいやな」

 ミランダはそう言うと、ルノから離れた。

「大丈夫か?」

「ありがとう」

 ルノは恥ずかしそうにお礼を言うと、帽子を脱いだ。大きいつばのある黒の帽子や。女物やから、緑のリボンがついてる。

「あかん、かぶってて」

 ミランダはそう言うと、ルノの頭に無理矢理帽子をかぶせた。

「なんで?」

「あのクソガキ、ルノの金髪を目印に追って来てるみたいやから、脱いだらまた見つかるかもしれん」

「分かった」

 大人しく帽子をかぶってついてくるルノを引っ張って、ミランダは困った顔をした。

「でもどうしよかな。このままじゃ永遠に合流出来ひん」

 確かにミランダの言う通りやと思う。

 あの人、ルノの事を狙ってるんやったら、このままうろうろしてたら危ない。だからといって逃げてたら、なかなか合流出来るような大通りに出られへん。

 どうしようか迷ってたら、急にミランダが目の前のビルを見上げた。

「ダンテ、そのヘッドセット貸して」

「何すんの?」

「繋がってんの、ゆりちゃんとかいう女の子やろ?」

「そうやけど」

 他にもいろいろ聞いてる人がいてるとは言わんかったけど、オレはヘッドセットをいったん外してミランダに渡した。ミランダはそれを耳につけると、もしもしって言いながらその辺のドラッグストアに入って行った。

 オレはルノと一緒にミランダについて行った。

「ゆりちゃん、支部長は何やってんの?」

 そう言いながら、ミランダは何故かその辺にあった化粧品を見始めた。ぼうっとしながら、ルノはそんなミランダの横に立ってる。こんな状況で何やってんのかなと思ったら、ミランダは急に何かをルノの顔に塗り始めた。

「何やってんの?」

「このままじゃ目立つからな。気休めやけど」

 そんな事を言いながら、ミランダはルノの顔に何かを塗りたくってる。

「これでちょっとはマシか?」

 ミランダはそんな事を言いながら、ルノの顔を眺めた。ちょっと肌が黒っぽくなったような気がする。確かに気休め程度には分からんようになった。

「そうか、分かった。ゆりちゃん、悪いけどルノはこのまま連れて行くわ。今、そっちに引き渡すのは無理や」

「え?」

 オレは目の前で信じられへん事を言うてるミランダを見た。

「ごめんな。でもこのままやったらうちら全員が危ない。引き渡しは失敗や」

 だからって、ルノをこのまま渡す気はなかった。

 オレはルノの手を掴んで引っ張った。

「嫌や。渡さへんで」

「言いたい事は分かるけど、流石に足手まといを何人も連れて動けるほど、うちは強くない」

 どうやら戦力にルノは入ってないらしい。

 ミランダはルノの顔にさらに何かを塗りながら言うた。

「ルノももう限界やろ。すぐ近所にフレッドが待ってるから、そこまで連れて行く」

「でも」

「ダンテ、言いたくなかったけどはっきり言うわ。支部長は撃たれて倒れたそうや。戦力のいてなさそうな状態のところに引き渡すのは無理」

 ミランダははっきりそう言うと、ヘッドセットを外した。オレに返してきたから、オレは急いで耳にそれを付けた。

「ゆりちゃん、今のホンマなん?」

「うん。元気そうやけど、さっき救急車で運ばれてった」

「あのジェームスが?」

「そうや」

 どうしよう。ジェームスは心配やけど、こんな状態のルノを放っておく事なんか出来ひん。ジェームスが致命傷を負ったって訳でもないみたいやし、ルノについてやんなあかん筈や。

 オレは目の前でしんどそうな顔して立ってるルノを見た。どことなくアジア系の雰囲気になってる気がする。でもまだルノやって分かるレベル。そこまで凄い事をしてる訳ではないみたいや。

「ごめん、ゆりちゃん。オレ、ルノについて行くわ。そっちに戻られへんと思う」

「邪魔やって言うてるやろ?」

「勝手について行くから気にせんといて。オレが追いつかれへんかったらそのまま置いてってええから」

 ミランダは困った顔をして、オレをじっと見てる。ふとルノの手を引っ張ってしゃがませると、オレの事もしゃがませた。

「分かった、あっちの出口から出る。ルノ、もうちょっとだけ我慢してや」

 ミランダはそう言うと、何故かしゃがんだまま指差した方の出口に向かって近寄って行った。後ろで何か声が聞こえる。もう追いつかれたって事?

 心臓がうるさい。怖いけど、でもやらんな。

 オレはルノから離れへんように、後ろをついて行った。

 誰かが悲鳴を上げてるのが聞こえる。男は棚をなぎ倒しながら、こっちにちょっとずつ近付いてきた。ミランダはスキをうかがうように辺りを見回しながらゆっくりドアに近づいて行った。

 何かの声が聞こえた後、ミランダは立ち上がると、ルノの手を引っ張って走り出した。

 オレは必死でその後ろを追いかける。息が苦しいけど、止まる訳にはいかん。ひたすらミランダの背中を目指して走った。

 もうここがどこかも分からへんところで、ミランダは黒い大型の車に向かって行った。誰かがドアを開けたところに滑り込むと、ルノを引っ張って乗せた。なんとかルノの次に乗り込めたと思ったら、ドアを閉める前に車は走り出した。

 急いでドアを閉めたら、ケイティとフレッドがこっちを見てた。

「怪我はない?」

 オレは息を弾ませたまま、目の前で泣き出したルノにしがみついた。腰の辺りに手をやって、つらそうにしてる

「痛い?」

 ルノは首を縦に振って、オレにもたれかかってきた。帽子を脱がせると、ボサボサになった髪の毛がいっぱい出てきた。ボロボロと子どもみたいに泣きながら、ルノはガタガタ震えてるみたいやった。

「痛み止めあるけど、使う?」

 フレッドに言われて、オレはルノの顔を見た。

 もう全然返事出来そうにない。声を上げて泣きながら、オレにくっついてくる。ミランダがきれいにした筈の顔はもうぐしゃぐしゃや。

 正直ちょっと狭いけど、ルノはミランダの横にいてんのが怖くて泣いてるんやと思う。でも車の中じゃどうする事も出来ひん。そっと背中を撫でながら、オレはルノのそばに座ったままじっとしてた。

「どうしますか? いっそ会社の前に置いて行きます?」

「それが出来るならいいんだけど、ちょっとルノがこの状態じゃ無理よ。一回帰りましょう」

 どこに連れて行かれるんやろ?

 ジェームスは大丈夫なんかな?

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