さよならはいつも突然に

雨音|言葉を紡ぐ人

第1話 雨音の向こう側

窓を叩く雨音が、やけに激しく聞こえる夜だった。

「もういい。俺、今日は帰るから」

陽太がそう言って立ち上がった時、私は引き留めることができなかった。疲れていた。仕事の締め切りに追われ、神経が磨り減っていた。

「そう。じゃあ、また明日」

私は冷たくそう返した。パソコンの画面から目を離さずに。彼の表情を見ることもなく。

玄関のドアが閉まる音が、いつもより重く響いた。

振り返れば良かった。せめて、顔を見て「気をつけてね」と言えば良かった。でも、その時の私には、そんな余裕すらなかった。

翌朝、目を覚ますと、スマートフォンに十数件の着信履歴があった。陽太の兄からだった。嫌な予感が胸を駆け抜ける。

震える手で電話をかけ直す。

「もしもし……」

「優花さん。実は、陽太が……」

その先の言葉を、私は一生忘れられない。

「昨夜、事故に遭って……亡くなりました」

時間が止まった。いや、世界が止まった。

嘘だと思った。悪い冗談だと思った。でも、電話口の兄の声は震えていて、嗚咽が混じっていて、これが現実だと理解せざるを得なかった。

「そんな……嘘……」

スマートフォンを取り落とした。膝から崩れ落ちる。呼吸ができない。心臓が早鐘を打っている。

昨夜、あんな風に別れたのが、最後になってしまった。

「また明日」と言った。その明日は、もう来ない。

気づけば、涙が止まらなくなっていた。声を上げて泣いた。部屋中に、私の泣き声だけが響く。

陽太。陽太。何度も名前を呼んだ。でも、もう返事は返ってこない。

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