第31話 居場所

 昼休み。今日も俺と千春、星野、露崎の4人で写真部部室に来ていた。


「この前、百均のコスメですごいの見つけちゃって!」


「へー、どういうの?」


「これ!」


「わあ……」


 星野と露崎はなにやらスマホを見て盛り上がっている。そこに千春も興味津々で覗きこんでいて――俺は完全に蚊帳の外だな。あの……これって俺のハーレムって言ってなかったっけ?

 いや、やっぱり、これ違うな。ただの女子会だわ。


 そんなことを思っていると、ドアがノックされた。


「はい!」


 千春が代表して答える。


「西原です」


 あのショートカット女子かよ。千春が扉を開けると、西原柚希が入ってきた。


「どうしたの?」


「一条君のところには戻らないからね!」


 露崎が先に牽制する。


「今日はそういうのじゃないよ」


「じゃあ、何?」


「……昨日、黒瀬に言われて、考えてみたんだ。ウチは本当に蓮司を好きなのか。それとも、みんなと話すのが好きだっただけなのか」


「それで?」


「でも、わかんなくて。だから、ここに来てみたんだ。蓮司抜きで、みんなとすごしてみて、楽しいかどうか確かめたくて」


「そういうことか。じゃあ、その前に一つ確認させて。柚希は黒瀬君のこと、気になってるの?」


 露崎の問いに西原は迷い無く答える。


「それは無いよ。黒瀬のことは全然タイプじゃ無いし、ひどいこと言われたから嫌いだよ」


「なら合格ね。入って」


「ありがとう」


 なんか嬉しくないなあ。まあ、別にいいけど。俺もハーレム女子は嫌いだし。


「さあさあ、ここ座って」


「黒瀬はその辺でいいっしょ」


「おい!」


 星野が俺の椅子を押しやり、俺はさらに片隅に追いやられた。


「じゃあ、お話ししよう、柚希」


 千春が言う。


「うん!」


「蓮司はどうしてる?」


「いきなり蓮司君の話? 蓮司君のこと抜きで試すんじゃなかったの?」


 千春に星野がツッコむ。たしかにその通りだ。


「そうだけど、ちょっと気になって」


 まあ確かにそうだろうけど。今や、ハーレム最後の一人になった西原まで居ないんだからな。


「蓮司には美空ちゃんがついてるから大丈夫だと思う」


「そっか」


「でも、美空ちゃんって実の妹だよね。ヤバくない?」


 星野が言う。


「あの二人は普通に兄妹として接してるみたいだし。男女の関係とかじゃないよ」


 千春が言った


「妹を襲おうとかそこまで鬼畜じゃ無いって、蓮司君は」


 露崎も言う。


「さすがにそっか。そこまで溜まってるなら私を襲ってるもんね」


 星野が言ってみんなが笑った。


「あ、そうだ。さっきまで百均のコスメの話してたんだよ。柚希も見る?」


「うん、見せて見せて!」


 そこからは女子トークが始まりだし、俺はスマホで小説を読みだした。


 それにしても……やっぱり、これはハーレムでは無い。いや、俺のことを好きだという女子は居るけど、半分は違うわけで。


 だけど、にぎやかで楽しい雰囲気を感じるのは確かだ。こいつらがいるだけで華やかになるし、みんな笑顔で楽しそうだ。西原も、自然と笑顔になっていた。


 やがて昼休み終了の予鈴が鳴った。


「そろそろ戻ろうか。柚希、どうだった?」


 千春が聞いた。


「楽しかった!」


「そっか」


「でも、そうなると……ウチって蓮司のこと、ほんとに好きだったのかな?」


 西原が言う。


「柚希は分からないけど……私は好きじゃ無かったよ」


 星野が西原の肩に手を置いて言った。


「えっ!! そうなの!?」


「うん。黒瀬に言われるまで自覚してなかったけどね」


「私は好きだったよ」


 澪音が言う。


「そうだよね?」


「うん。でも、言い寄られるようになって醒めちゃった」


「そうなんだ……だから、こっちに来たの?」


「そういうわけじゃないけどね。私は黒瀬君が好きだし」


 露崎が言う。


「私は黒瀬が好きな千春が好きだし」


 星野が言う。


「……そっか。じゃあ、ウチはちょっと違うのかも知れないね」


 西原が寂しそうに言う。確かにそうだな。ここは俺を軸として結びついた女子たちの場所。ハーレムでは無いけど、俺に特に関連が無い西原は居場所が無いのかも知れない。


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