第17話 家

 放課後。

 帰ろうとしていると星野がそばにきた。千春と一緒に帰るのかと思ったが――


「千春、それじゃあ、また明日ね」


「え? 一緒に帰らないの?」


 千春が意外そうな顔をする。


「私も空気読めるし。放課後まではさすがにお邪魔っしょ」


 星野が俺を見ながら言った。


「俺と千春はそういうのじゃないからな」


「でも今日は家に行くんじゃないの?」


「あ、あれは嘘だって言ったでしょ」


「別にいいじゃん。お幸せにねえ」


 そう言って手を振りながら教室を出て行った。


「あいつ……」


 星野は千春に対しマウントは取らなくなったが、その代わり俺たちをからかうことを楽しんでいるようだ。困ったやつだな。


「千春、帰るか」


「うん……」


 顔を真っ赤にしている千春と一緒に、俺は教室を出た。


 校舎を出たところで千春に聞く。


「今日はまっすぐ帰るか?」


「うん」


「そうか」


 まあ、それがいいだろう。俺と千春は別に付き合ってるわけじゃないんだし。


「でも、家には来て欲しいかな」


「は!?」


 あれは嘘だったはず。しかも、両親が居ないからとか言ってたけど……


「あ、違うの! 家の前まで送って欲しいってこと」


「なんだ、そういうことかよ。別にいいけど……なにかあったのか?」


「ちょっと、蓮司君が恐くて……」


 一条か。昨日、千春は一条にハーレムを抜けることをはっきり伝えたんだった。


「なにかされたりしたのか?」


「そんなことはないんだけど、今日、よくにらまれてるような気がして」


 それは気がつかなかったな。でも、ありえる話だ。


「千春の家って、一条の家に近いのか?」


「うん、向かいだから」


 なるほどな。となると一条が何かしてくる可能性もあり得る。


「わかった。送るよ」


「ありがとう。迷惑掛けてごめんね」


「弁当のお礼と思えば安いものだ」


「あれはお代ももらってるし……今度、このお礼はするから」


 またお礼か。まあ、いいけどな。


◇◇◇


 普段は乗らない路線の路面電車に乗り、見知らぬ停留所で降りる。

 俺と千春は並んで歩いていた。


「あそこが私の家。蓮司の家は向かいだよ」


「そうか」


「家の前まで行くと親に見つかるかも知れないから、ここでいいよ」


「わかった」


「じゃあ、また明日。今日はありがとう」


「気にするな。じゃあな」


 俺は千春に軽く手を振って、来た道を戻り始めた。


 来たときと逆方向の停留所で電車を待っていると、その向かいに電車が到着した。そこから下りてきたのは、美空ちゃんだ。まあ、それはそうか。一条の妹だもんな。帰る途中だろう。


 思わず見てしまっていると美空ちゃんも俺に気づき、お辞儀をしてきた。俺も軽く手を振る。そのまま美空ちゃんは帰っていく……と思いきや、俺の方に向かって来た。


「な、何か用か?」


「黒瀬先輩に少し聞きたいことがあります」


「え?」


「すぐそばに公園があります。行きましょう」


 そう言うなり、美空ちゃんは俺の手を取って歩き出した。


「お、おい!」


 引っ張られながら俺は公園に向かった。


◇◇◇


「何がいいですか?」


 公園にある自販機の前で美空ちゃんが言う。


「後輩におごってもらう趣味は無いぞ」


「無理矢理つれてきたんで、そのおわびです」


 なんか最近、お礼とかおわびとかばっかりもらってる気がする。


「じゃあ、ミルク入りのコーヒーで」


「わかりました。ブラックですね?」


「違うわ! 甘くないと飲めないんだからな。言わせるな!」


「ふふ、わかりました」


 美空ちゃんが笑った。その笑顔を見たのは初めてだ。

 やはり、あのイケメン一条蓮司の妹だけあって、すごく整った顔立ちをしている。まさに美少女という感じだ。こりゃ、モテるだろうな。


「どうしました?」


 しまった、じっと美空ちゃんの顔を見てしまった。


「いや、美少女だなって思って」


「……そうやって千春さんを落としたんですか?」


「落としてない! あいつが勝手に近づいてきただけだ」


「そのあたりをもう少し詳しく聞きたいんです」


 そう言って、美空ちゃんは缶コーヒーを差し出し、ベンチに腰掛けた。俺も隣に座る。


「千春さんはずっと兄に執着していました。小さい頃からそうでしたけど、高校に入ってからは特に。それが最近、まるで憑きものが落ちたかのようにすっきりした顔になって、兄とも距離を保つようになりました。それが不思議だったんです」


 ずっと千春を見てきた人からしたら、急激な変化だから驚くだろうな。


「黒瀬先輩がその影響を与えたということが今日分かりました。だから、どうやったのかを聞きたいんです」


「どうやったって……本当に何もしてないぞ」


「そんなはずがありません。何かきっかけがあったんじゃないですか?」


「きっかけ、か……それは俺がラノベを貸したことかもな」


「ラノベ、ですか……私も少々たしなみます」


「たしなむって、マジかよ……」


 こんな美少女がラノベを読んでるとは意外だった。


「はい、兄の本棚にあったので、つい興味を持ってしまいました」


 一条のやつもラノベを読んでいたとは意外だな。


「それも本棚の奥に隠してあったのです。しかも……『妹が絶対に負けないラブコメ』って本で……」


 よりによって『いもまけ』かよ!


「他にも何冊かあって、全部、妹モノでした」


 あいつ……シスコンだったのか。


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