第4話 ぶっ壊せ

「黒瀬君って、お昼どうしてるの?」


 緒方千春が俺に聞いてきた。まあ、俺はいつも昼休みは教室に居ないからな。


「学食か、パンだな」


「そうなんだ。今日は?」


「……パンだ」


「どこで食べてるの?」


「どこだっていいだろ」


 とりあえずごまかす。こいつが「一緒に食べよう」なんて言い出したら面倒だ。


「一緒に食べたいなあ」


 やっぱり言うのかよ。でも、俺の答えは決まっている。


「ダメだ」


「なんで!?」


「そういうのはハーレムでやってろ」


「もう抜けたのに?」


「だからって俺に依存するな」


「ひどーい! 友達として一緒に食べたいのに……」


「だれが友達だ」


「えー! 友達ですら無かった!?」


「あたりまえだ」


「うぅ……」


 緒方が泣きマネを始める。まあ、放っておこう。そう思って本を読み始めたのだが……


「千春、大丈夫?」


「梨奈~! 黒瀬君がいじめるの……」


「はあ?」


 顔を上げると、緒方を後ろから抱きしめるギャルが立っていた。ハーレムの正妻かよ。


「千春、じゃあ、蓮司君のところ行こうよ」


「……行かない」


「どうして? なにかあった?」


「私、このままじゃダメだなって思って……」


「そんなことないよ、千春にもチャンスあると思うよ」


 なにがチャンスだよ。自分が一条を独占しようとしておいてよく言うな、このギャル。


「そういうことじゃないの。蓮司に執着していること自体がダメってこと。だから、少し離れようと思うんだ」


「そっか……でも、それでいいの?」


「うん! いいんだよ」


「……でもね、蓮司君も心配してたよ」


 ギャルは本気で緒方をハーレムに引き戻そうとしているらしい。よくわからないやつだ。ライバルが消えれば普通は喜ぶと思うけどな。


 二人の会話がうるさすぎて集中できない。

 俺はため息をつき、席を立ってトイレに向かった。


◇◇◇


 トイレで手を洗っていると、横から声を掛けられた。


「うちの千春が世話になってるようだな」


 顔を向けると、そこに居たのは一条蓮司だ。


「別に世話なんてしてない」


「でも昨日は一緒に帰ったんだろ?」


「あいつが勝手についてきただけだ」


「勝手にねえ……」


 一条は鏡越しに俺を見て、薄く笑った。


「悪いことは言わない。千春から手を引いた方がいいと思うぞ」


「そもそも、手なんて出してない」


「じゃあ、千春が何しようが勘違いしないことだな。あいつが好きなのは俺なんだから」


「あのなあ……」


 俺は手を拭きながら、仕方なく一条の方を向いた。

 見上げる形になるのが、ムカつくけど。


「俺はあいつに一切興味が無い。お前に媚びを売ってる女には全く魅力を感じないからな」


「ほう……じゃあ、うちのクラス、いや学校中の女子に魅力を感じないってわけか?」


 完全に見下す口調だ。だが、俺は即答した。


「もちろん」


「認めるのかよ。全員が俺に媚びてるって」


「ああ、認めるね。だから、この学校の女子には一切興味が無い」


「うそぶくやつだな……」


「嘘じゃ無い。心からの言葉だ」


 そう言い捨てて、俺はトイレを出た。


◇◇◇


 休み時間、本を読もうとしたところで、声を掛けられた。


「黒瀬、ちょっといいか?」


 今まで話したことのない男子だ。確か、中原と言ったはず。


「なんか用か?」


「いや……ちょっとこっちで話そう」


 中原は隣の緒方千春をチラッと見ていった。どうやら緒方に聞かれたくない話らしい。俺は言われるがまま、教室の隅へ向かった。


「なんだよ」


「いや、お前、すごいなって思って」


「はあ?」


「聞いてたんだよ。トイレでの一条との話」


「ああ……」


「一条にガツンと言ってやって気持ちよかったよ」


「そ、そうか……」


 こいつも一条をにらんでいた男子の一人か。


「しかも、緒方さんをハーレムから奪ったんだろ? すごいよなあ」


「はあ? 奪ってなど無いぞ。ちゃんと聞いてたのかよ」


「聞いてたよ。興味ないってやつだろ? でも現実に緒方さんとデートとかしてるんだろ。いいよなあ」


「だから、よくないって。俺はあいつに興味など無い」


「マジで言ってるのか? あんなに可愛いのに。ヤれるならヤりたいだろ」


「別に。俺は本気でこの学校の女子にはまったく興味が無いからな」


「ほんとかよ……まあ、そういうことにしといてやる。とにかく何か協力できることがあったら言ってくれ。俺もハーレムぶっ壊したいからな」


「別に俺はハーレムを壊したいなんて思ってないぞ」


「またまた……まあ、なんでも言ってくれ。協力する。じゃあな」


 中原は去って行った。勘違いしてるやつがここにも一人か。


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