2024年の記録

2024年

2024年1月9日


 マッチョの谷のナウシカ

 マッチョの城ラピュタ

 マッチョのトトロ

 マッチョの宅急便

 マッチョの豚

 マッチョ姫

 マッチョと千尋の神隠し

 ハウルの動くマッチョ

 崖の上のマッチョ

 風マッチョ

 君たちはどうマッチョ



2024年1月21日


【急募】

 寒い寒いと言いながらコートのフードを被っていないお洒落マダムに片っ端からフードを被せていく誰にでもできる簡単なお仕事です。

 ベテランマッチョが懇切丁寧にマンツーマンで指導する初心者でも安心の指導体制。

 時給80円。年間休日280日。



2024年2月6日


 音の無い真白ましろな世界を、ぎゅっ、ぎゅっ、と自分だけに聞こえるリズムで歩いていた。

 最後に新雪を踏みしめたのはいつだったろうか。

 少なくともあのとき以来だった。

 そう、あの日、僕は確かに見たのだ。

 猛烈な吹雪の中で爛々と、けれど優しく燃える灯火を。



2024年2月15日


『悪役令嬢から限界社畜おっさんリーマンにTS転生したワタクシが二度寝したら二時間経ってた件~定時に出社しろと言われてももう遅い~』



2024年2月24日


 ふわりと匂いがして

 ふわりと花を感じた

 そうして僕ら

 春に焦がれて

 春に踊る



2024年2月26日


「そうか。俺はいつの間にか過去の人になっていたんだな」

 老いた男は目を伏せてそう言うと、人差し指と中指を美しいほどに真っ直ぐと伸ばし、その指先を人中に当てた。

「ぺ」



2024年2月28日


 頭が減ってお腹が働かない。



2024年3月3日


一、

 きのこたけのこ戦争?

 悪いな。

 俺はすぎのこ派なんだ。


二、

 僕は時間がヒトの心を動かすことを知っていて、けれど、それがいつからなのかは知らなかった。

 でも、若者を、子供を、その燃え盛る生命を眩しくも美しく感じた頃からなんじゃないかって思うんだ。



2024年3月25日


 私、メリーさん

 今、レジでお財布がないの



2024年4月5日


 真夜中に痛みが走って目が覚めた

 頭が痛い

 目が痛い

 鼻が痛い

 歯が痛い

 喉が痛い

 首が痛い

 肩が痛い

 腰が痛い

 だけど、本当に痛むのはどこだったのだろう



2024年4月10日


 私が通勤に使う道には、いつもニンゲンが降ってくる。

 それは地面に当たると大きな音を立てて弾け、何事も無かったようにカケラを残して消えていく。

 それにもすっかりと慣れた頃、遂に目の前で弾けて消えて、そのカケラを口に放り込むと、ほろほろと崩れて雨の味を残した。



2024年5月17日


 虫よ

 小さく儚き虫よ

 瞬きの如くにその命を輝かせる虫よ


 お願いだから味噌汁とか飲み物で命を粗末にするのやめてお願い

 まじ勘弁



2024年5月29日


 どうして電車やバスで席を譲らない人が多いのかって?

 彼らは認めたくないんだよ。

 自らが老いさばらえ、病や障碍に苦しみ、或いは母から産まれてきたってことを。

 それが彼らの〝普通〟の世界で、その自分の〝普通〟が壊れることを恐れているんだ。

 認めたくないものを視界に入れただけで壊れてしまう、そんな脆弱な世界を守るために、一生懸命に見ないようにしているんだ。



2024年6月2日


「うるせえ! お客様は神様だぞ! 俺は神様だぞ! なんだその態度は!」

「神名とご利益は?」

「……え?」

「神名とご利益は?」

「えーと……商売繁盛と家内安全と……」

「無名の神様一柱ご退店でーす。お見送りよろしくー」



2024年6月28日


 洗濯物を干していたら、物干し竿に蜘蛛の糸がついていて、それは空へとのびていた。

 洗濯の邪魔とばかりに、足元にあった棒きれでぶんぶんと巻き取れば、瞬間、絹のように輝いて見えた。

「ごめんよ婆さん。お盆には必ず帰るから」

 そう呟いて、また服を手に取る。



2024年7月2日


 夢を見る方法も忘れ、借り物の夢を消費するしかない者たちに、私の夢を侮辱されてなるものか



2024年7月3日


 親に反発して冷房の設定温度を24℃にしたり、うまい棒を10本まとめ買いしたり、カニパンを手足から先に食べたあの夏を忘れない。



2024年7月9日


 夢を見ながら年を重ねただけなのに、ある日突然「大人になれ、現実を見ろ」だなんて、大人というのはなんてつまらない職業なんでしょう。



2024年7月13日


「もしもし。私、律儀なタイプのメリーさん。今、お中元を持ってあなたの家の前にいるの」



2024年7月19日


「だけど君、死に希望を見出した人の横っ面をひっぱたいてただ生きろと言うだなんて、それは随分と傲慢なことじゃあないか」

「だとしたら、俺はあのときどうすれば良かったって云うんですか」

「分からないよ」

「そんな無責任な」

「何百何千何万何億回と体が焼かれようとも、君は結局あいつじゃあないんだから、分かるはずがないだろう?」



2024年8月22日


 落ち着いて聞いてください。

 あなたがお昼寝している間に、お子さんがシャンプーを浴槽にぶちまけました。全部。



2024年8月28日


一、

 新手の霊感商法

「むむむ、あなたの脳みその量子もつれが開きまくって宇宙の悪いデータと同期してしまっているようデス。でもご安心下さい。私が開発したこの猫耳付きヘルメットをかぶればもう大丈夫デス」


二、

 そろそろ2024年も3分の2が終わろうとしている、という説は政府を陰で操る秘密結社がばらまいた巧妙な嘘であり、真実は……おっと、誰か来たようだ。



2024年9月10日


「いいか、落ち着いて聞いてくれ。

 彼女が好きなのは清潔感のある男だ。

 もう一度言うぞ。

 清潔〝感〟のある男だ。

 つまり爽やかイケメ……うわ、何をする、ヤメロ」



2024年9月17日


一、

 自分に才能がないと思ったとしても、それを探してくれる人が必ずどこかにいると思えば、ここは一つその才能とやらを自分で掘り起こしてみようじゃあないかと思えるものです。

 え? 思わない?

 君はいったいぜんたい、実に怠惰じゃないか。


二、

 婆ちゃんの魂は、ジェット機に乗ったまま空に溶けた。

 僕の魂は、何に乗っていくのだろう。



2024年11月16日


 小さなお櫃のような器に盛り付けられたカツ丼は、茶色と黄色が見事なバランスで溶け合い、まだ箸をつけてもいないというのに、出汁のしみ込んだ玉子の味と、サクサクとした衣の食感が口の中に再現された。

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