国会議事堂、総裁選投票日。

黒木圭介（くろきけいすけ）は、小林鷹志（こばやしたかし）総理の陣営本部で、冷静に票の行方を見守っていた。彼の隣には、今や公私共にパートナーとなった白石葵（しらいしあおい）が、情報局次席として、全ての情報を統括している。

（未来の記憶では、この瞬間、小林（こばやし）総理は敗北し、国は属国化の道を辿る）

チートの信頼度を示す左腕の紋様は、微かに温かい。**「愛の成就」**という最大の歪みを生んだ後、彼の心は驚くほど静かだった。

「麻生泰郎（あそうたろう）先生、小澤一郎（おざわいちろう）先生の動きは？」

「麻生（あそう）先生は、予定通り」

葵（あおい）の言葉に、圭介（けいすけ）は頷いた。

圭介（けいすけ）は、事前に麻生（あそう）へ、小澤（おざわ）が最も恐れる「未来の敗北のシナリオ」という、チートの情報を渡していた。**そのチートの裏には、「一人の女のために世界を変える」という、麻生（あそう）が最も理解できないはずの狂気の信念が乗っていた。だが、老雄は、その狂気を信じた。**

**開票が進む**。

小林（こばやし）総理の支持率は、当初の予測を大きく上回って推移する。

**その頃、都内某所の隠れ家**。

「馬鹿な。この票の動きは…！？」

小澤一郎（おざわいちろう）は、テレビ画面を見て、眼を剥いた。彼の隣には、焦燥に顔を歪ませた観星会（かんせいかい）の幹部が立っている。

麻生泰郎（あそうたろう）からの、極秘のメッセージが彼の脳裏にフラッシュバックする。

**そのメッセージは、麻生（あそう）と小澤（おざわ）の、数十年にわたる政界での「沈黙の対話」の末に生まれた、最終結論だった。**

「時代の流れには抗えない。だが、自ら流れを選ぶことはできる」

彼は、観星会（かんせいかい）の幹部を睨みつけ、静かに告げた。

「総裁選は、これで終わりだ。君たちに、私の『未来の選択』は変えられない」

**その言葉は、彼が己の全人生のプライドを賭けて、「調和の論理」という見えない運命に放った、最初で最後の抵抗だった。**

**夕方**。

小林鷹志（こばやしたかし）総理が、総裁選で**圧倒的な勝利**を収めた。陣営本部には、歓喜の雄叫びと、紙吹雪が舞い上がった。総理の瞳には、勝利の光と共に、これで「失脚」の未来が遠のいたことへの、深い安堵の涙が滲んでいた。

小林（こばやし）総理と、対立候補であった小泉新次郎（こいずみしんじろう）が、固い握手を交わす。

「小泉（こいずみ）くん。君の理想は、この政権に不可欠だ。副総理として、国を支えてくれ」

小泉（こいずみ）は、敗北を認めつつも、そのカリスマ的な瞳を輝かせた。

「承知しました。黒木（くろき）君の知略、そして、**その知略が導く『未来の光』**が、この国に不可欠だと判断しました。副総理として、その狂気の未来に、私も賭けましょう」

**その時、小泉（こいずみ）の視線が、圭介（けいすけ）の隣に立つ葵（あおい）を一瞬捉えた。**

（小泉（こいずみ）は、圭介（けいすけ）の狂気の動機が、その女の存在にあることを、本能的に察知していた）

圭介（けいすけ）は、葵（あおい）と静かに視線を交わした。**その安堵の瞬間、左腕の紋様がチリッと痛んだ。**（分かっている。これほどの歪みは、当然の代償だ）

葵（あおい）は、その瞳で「あなたは、あの時の裏切りを、完全に書き換えた」と、無言で伝えた。

（愛と国を救うための、最初の政治的勝利だ。葵（あおい）、君の運命は、もう僕たちのものだ）

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